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【リリなの】Nameless Ghost

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 ユーノは先の戦闘でリンカーコアに重傷を負った。
 適合しない多大な魔力を直接リンカーコアに打ち付けられてしまった。
 ユーノのリンカーコアはヒビが入っており、現在の管理局の技術力ではリンカーコアを直接治療することは出来ない。リンカーコアの負傷は魔導師にとっては心臓を患うことと同じことだ。リンカーコアが完全に破損してしまえば魔法を扱うことが出来なくなる。魔法を使えない魔導師はすでに魔導師ではない。

 ユーノの場合はまだそこまでの重傷ではなかったが、魔導師としての寿命が確実に縮んだことは確かだ。

 しかし、幸いもあった。
 ヒビが入ったリンカーコアはそのヒビから魔力が漏れ出すようになったらしい。それだけではデメリットに思えるかもしれないが、その漏れ出した魔力を有効活用することが出来れば、ユーノの魔力の出力は爆発的に高まるだろうと言われている。

 しかし、爆発的に高まった魔力出力は同時にそれまでユーノの強みであった術式構成の緻密さとストレージデバイスに匹敵するほどの高速詠唱を阻害している。

「いろいろ課題は多いみたいだけど、何とかやっていけるって言ってたよ」

 フェイトは連れだって医務練に消えていった二人の親友を思いながら、少し寂しそうな笑みを浮かべる。

 二人の意図は理解している。自分たちのことで時間を使わせたくないという思いやりと、ここ最近まともに話も出来ていない姉と会わせてあげたいというお節介なのだろう。
 しかし、それでもまるで一緒に行くのが当たり前のように立ち去った二人の絆を見せられれば、何となく嫉妬を覚えてしまいそうになる。

 初めての親友を取っていったユーノなのか、はたまた近い将来の兄妹を取っていったなのはなのか。

「そう、それは、何よりだね」

 アリシアの表情が僅かにかげったことにフェイトは気がついた。
 アリシアは身内に甘い、その中でも特にユーノのことになるとアリシアは過敏になる。

「大丈夫だよ。お姉ちゃんのプレゼントのおかげで全く問題ないみたいだから。私もなのはも、助かってるから……」

 フェイトは飛行魔法の行使のため手に握る二つのデバイスにそっと目を落とした。

 金のエンブレムのバルディッシュ、そして、黒光りするエンブレム、バルディッシュ・プレシード。
 アリシアからフェイトに送られたクリスマスプレゼントがそれだった。

「プレシードの調子はどう? 結構、生意気だから扱いにくいかもって心配してたんだけど」

《I am better than you,elder sister》(あなたほどではありませんよ、エルダー・シスター)

 フェイトの掌からどこか憮然としたような合成音が響いた。
 フェイトは、いきなりのことに驚き「ひゃっ!」と可愛らしい悲鳴を上げた。

「元マスターに対して失礼なデバイスだね、プレシードは。少しレイジングハートに毒されたのかな?」

《This is how to get communication with you whom I learned.When the conversation that the one that returned irony than I argued indiscreetly was smooth could be realized, I heard it from Lord Rasingheat》(私なりに考えたあなたとのコミュニケーションの取り方です。下手に反論するよりも皮肉を返した方が円滑な会話が実現できるとレイジングハート卿からお言葉もいただいておりますが)

「まったく、あの石ころは、妹のデバイスに何を教えているのやら。バルディッシュもまさかそんな風になってないよね?」

 プレシードの思わぬ成長に少しだけ面白さを感じながらも表面では「困ったやつだ」と嘆きながら、アリシアも確認がてらバルディッシュにも水を向けておいた。

《……》

 しかし、フェイトの掌の上でプレシードの隣に位置するバルディッシュからはこれといった反応が返ってこない。
 あきれて物がいえないのか、自分は会話に入る気がないのか。
 フェイトのことを誰よりも思っておきながら、そういった寡黙さを持つバルディッシュに男気を感じながらアリシアはフウとため息をついた。

「ねえ、お姉ちゃん」

 フェイトが少し低い声で問いかけた。ささやきに近いその声にアリシアは、うん、とフェイトの掌から顔を上げた。
 無限書庫の暗がりが少し深くなったような気がした。フェイトはうつむいて握りしめた手を見つめるばかりでその表情がどのような物なのかをアリシアは察することが出来ない。

 悲しい表情をしているのだろうかとアリシアは思う。それなら、頭を撫でてやりたいとも思うが、なぜか、アリシアはそれが出来なかった。
 今は、黙ってフェイトの言葉を聞くべきだ。アリシアは何となくそう感じて口を閉ざした。

「お姉ちゃんは、どうしてプレシードを私にくれたの?」

 空気の流れを作り出す人工的な涼風に乗せられ、フェイトの言葉がアリシアの耳に確かに届いた。
 そのことか、とアリシアは声に出さずつぶやいた。

「そんなにたいした理由じゃないよ。今の私にはこれがあるから、プレシードがそれほど必要じゃなくなったんだ」

 アリシアは懐から一枚のプレートを取り出した。それは灰色の金属板で、その大きさはクロノが持つS2Uの待機状態の姿とほとんど変わらない。つまり、それはアリシアが無限書庫を整備する際に技術部に作らせたデバイスだということが分かる。

「それは?」

 しかし、フェイトはアリシアがプレシードに変わるデバイスを手に入れたことを初めて聞いた。

「無限書庫統括ユニット<タグボード>だよ。簡易デバイスで、情報を扱う以外に使い道はないけどね」

 アリシアはそれを指でいじりながらそっと懐に戻し、腰掛けているサーバーシステムを軽くたたきながら、「タグボードはこれに直結されていて、<ザントマン>と<ホークアイ>からの情報を処理することが出来る」と説明を続けた。
 ザントマンとホークアイ、それぞれがアリシアが技術部に依頼して無限書庫に配備した速読と書籍探索に特化した簡易デバイスである。
 それにより、アリシアは初期に行っていたようにプレシードのカートリッジを集中運用して、無理矢理速読魔法と検索魔法を使用する必要が無くなった。

 そのため、プレシードを使用していた頃と違い、それほど頻繁に休憩を取る必要が無くなったため、ますますフェイト達を始め、アースラチームと直接顔を合わせる機会が減ってしまったのだが。

 閑話休題

 フェイトは、自分の知らないところでアリシアが色々なことをやっていることに感心を覚えた。

「だから、プレシードにとって有効活用されない私のところにいるよりもフェイトのところにいたほうが良いと思ったんだ」

(それに、私はもう戦わないから)

 口に出す物が建前で、胸の中で思うことが本音だ。アリシアはプレシードを有効活用できないというが、その実、自分はプレシードを武器として有効活用しないという誓いを立てた。