二次創作小説やBL小説が読める!投稿できる!二次小説投稿コミュニティ!

オリジナル小説 https://novelist.jp/ | 官能小説 https://r18.novelist.jp/
二次創作小説投稿サイト「2.novelist.jp」

【リリなの】Nameless Ghost

INDEX|139ページ/147ページ|

次のページ前のページ
 

 そこから僅かに漏れ聞こえることから判断すれば、現在この周囲の空間はシャマルの手によって通信妨害がされており、なのは達はアースラへと連絡することが出来ない。

 やはり、こうしておいて正解だったとうち解けた感じのヴィータ、はやての二人と会話を交わしながらアリシアは今後のことを検討し始める。
 残念ながら、今ここでそのことをなのは達と相談することは出来ない。自分は魔力を持たない無関係な人間を装ってこの場から問題なく立ち去り、通信妨害網の無くなった場所で改めてアースラに連絡をしなければならないのだ。
『闇の書の主を発見した』とアリシアは伝えなければならない。

 しかし、とアリシアは朗らかに笑うはやての表情をのぞき込みながら、どこか胸が痛むことを自覚した。

 自分が、ここから無事に向け出すことが出来、そして、アースラへとそのことを告げれば、おそらくこの少女は死ぬ。

 リンディがとらえた少女を問答無用に凍結するほど冷血ではないと信じたいが、彼女は常に正しい選択をすることが出来る人物だ。
 地球、海鳴にすむ多くの人々と一人の少女の命のどちらを取るか。その天秤の目盛りを読み違えるような人物ではない。

 アリシアは表情を落とし、はやての目をのぞき込む。

「ん? なんや」

 会話の中にアリサやすずかを交えながらほほえむはやてはアリシアの視線に気がつく。

「んーん、何でもないよはやて」

 アリシアは笑顔の奥に感情を隠した。

「そうか? なんや、言いたいことがあったみたいに思えたけど」

「はやてが楽しそうだったから。病気なのに、何でそんなに楽しそうにしてられるのかなって、ちょっとだけ思って……」

 子供らしい無遠慮さに少しだけ気後れの感情を交えてアリシアは言葉を吐いた。

「私には、家族がいるからやね。みんな、ここにいてくれる。友達もいっぱい出来た。やから嬉しいんよ。ただ、それだけや」

 そして、終わりが近いからこそ悲しい顔をしていたくない。アリシアはそんな言葉を幻聴を聞いた。

 親がいない。親戚もいない。知り合いといえば直接会ったことのない遙かブリテンの後見人と病院にいる医師のみ。
 その中で彼女は笑みを浮かべ続けてきたのだろう。そんな彼女が、後少ない時間後にはこの世界から姿を消す。何も救われることなく命を潰える。

(そんなことが許されるはずがない)

 そして、彼女が苦しむ原因の一翼に自分/ベルディナが関わっているという事実もアリシアを悩ませる。

 救いたいとアリシアは思った。

******

 静まる病院のロビー。診察時間も終わり、先程までにぎわっていた広間にも今は入院患者と看護師が僅かに行き交うだけのものとなった。

 はやての見舞いはそれほど長くは行われず、アリサとすずかはプレゼントを渡し、その後少し会話を交わしただけでおいとまする旨を伝えた。

 そして、アリシアは今ただロビーのソファに腰を下ろし、待ち続けている。

 アリシアは病室での一連の行動によってヴォルケンリッター達からの警戒心を解除した。
 アリシアはただ姉であるフェイトについて来ただけで、闇の所持件に関しては一切関わりがない。今までの戦闘でフェイトは何度か姉についてのことを話し、ヴォルケンリッター達はフェイトの姉を警戒していたが、見た目妹にしか見えないアリシアへの警戒はほとんど皆無と言っても良かった。

 しかし、フェイト達をこの場からみすみす帰すほど彼らは楽観的ではなかった。
 確かにアリシアに対する警戒は皆無に近かったが、それでも彼らは話が終わるまでアリシアにはこの病院から出ないようにと要請を下したのだった。

 アリシアは天井を見上げた。この状態ではその向こう側で何が起こっているのか知ることは出来ないが、時折空間を伝わってくる念話の残滓がフェイト達がどのような状況にあるのかを知らせる。

 まだ戦闘は始まっていない。それどころか、屋上ではすべてが凍り付いたように何の動きも見受けられなかった。

「覚悟したみたいだね。本当に、悪魔みたいな子達だよ」

 アリシアはそういうと、ソファーの敷座に背中を預け、ごろりと寝転がった。
 こうしておけば、小さなアリシアの身体を長くて背が高いソファーが隠し、側を歩く病院関係者からとがめられることが無くなるのだ。

 今、子供達が屋上で戦っている。孤立無援で、自分たちが願う理想を貫くために幼い身体を懸命にふるいながら戦っている。

 アリシアは思う。すでに自分が出来ることはない。出来ることと言えばせいぜい自分が彼らのハンデにならないようにこうして身を潜めていることだけだ。

(だけど、私はそれで良いの? あの子達が戦っているというのに、私はこうして何もせずに、ただ無駄な時間を過ごしているだけでいいの?)

 おそらく、ここで待っていればいずれはすべてが終わるだろう。それが幸せな最後であろうと不幸な終わりであろうとも、いずれは終わりが来る。
 闇の書の永久凍結が成功するのか、海鳴の周囲百数十キロがもろとも消滅するのか、それともそれらを超える完璧な最後が描かれるのか。

 自分に出来ることはもう、何もない。無限書庫を後にするとき実感したことが今では揺らいでしまっている。

(私はここにいる。闇の書の主も騎士達も、フェイト達もここにいる。すべてがそろっているここなら……)

 アリシアは面を上げ、もう一度周囲を見渡した。
 エントランスの向こう側。広いガラスの壁面の向こう側には、僅かな夕日の残滓が漂い、世界は急速に闇に沈もうとしている。
 太陽のない世界。闇へと向かう世界。
 むしろ、私にとって過ごしやすい世界が始まるとアリシアは感じた。

(まだ、私にも出来ることはある)

 アリシアはソファーから飛び降り、堅いリノリウムの床を踏みしめた。

**********

 クリスマス・イブに相応しい酷く冷たい風が屋上に吹き付ける。海からの風は湿り気と潮の香りを含むが、周囲の木々を通り抜けたそれらには清涼な香りが込められており、潮風特有のジメッとした感触はない。

 そこにたたずむ5人は先程からほとんど言葉を発していない。

「それじゃあ、はやてが闇の書の主と言うことですか?」

 その沈黙をフェイトが破る。探しても見つからなかった闇の書の主がまさかこんなに近くにいて、しかもそれが自分たちと同い年の少女だと聞かされ、運命とはいかに皮肉なものかと思う。

 魔法の世界に巻き込まれたなのは。犯罪を犯してまでジュエルシードを集めなければならなかったフェイト。輸送船の事故に巻き込まれ、育ての親を亡くし、単身この世界に放り出されたユーノ。
 そして、両親を幼くになくし、闇の書の主として破滅の運命を背負わされたはやて。

 この世界は、いかに幼い子供達に過酷な運命を背負わせるのか。思えば、ここにはいない彼らの兄貴分、クロノ・ハラオウンも幼い頃に父を亡くしていた。

 悲しみは鎖のように繋がっている。

 ユーノはなのはとフェイトの前に出て、面を上げた。

「聞いてください、闇の書は危険なんです。今すぐ、蒐集をやめないと取り返しの付かないことになる」