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【リリなの】Nameless Ghost

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 ユーノの言葉に、相対するシグナムとシャマルは眉をひそめた。

「それが、受け入れられるとでも思うのか」

 シグナムの声はとてつもない重量を持って三人にのしかかる。

「やめられるんだったら、とっくにやめてるよ……」

 響いた声はユーノの背後。
 なのはとフェイトは驚いて振り向き、そしてそこに立つ赤い少女を初めて確認した。

「ヴィータちゃん……」

 すでに騎士甲冑を身にまとい、その手に巨槌【グラーフ・アイゼン】を握りしめながら、ヴィータは面を低くしてたたずんでいた。
 前髪が作り出す影が瞳を覆い隠し、彼女が今どのような表情をしているのかを知ることは出来ない。
 しかし、なのはは彼女が泣いているのだと直感的に分かった。

「だけどな。やめれば、はやては死ぬんだ……。だからやめられない。最後まで背負って、はやての笑顔を取り戻すんだ……」

 ブンと振り回される巨槌がそこに込められた魔力を僅かに放出し、なのはは少し目を閉ざした。
 そして、弱音を吐く心臓を左手で打ち付け、一歩ヴィータに向かって足を進めた。

「戦う前に話をしようよ。私達、まだ何も話し合ってない。お互いに何も知らないままで戦うのは嫌だ。話をして、納得するまで話し合って、それでお互い納得してから戦おうよヴィータちゃん」

 それが、あの病室でアリシアとユーノに誓った言葉だった。戦うことは嫌い、戦わないと何も解決できないなんて悲しすぎる。だったら、話をすればいい。言葉を交わして、話し合って、そしれそれでもなお戦わなければならないのなら、自分はそれを納得した上で戦う。
 そして、最後まで戦わずにすむ方法を探し続ける。

 アリシアはそれを傲慢だと言った。それは、戦う人間を馬鹿にしていると。しかし、なのははそれでもいいと答えた。

『それでも私は言葉をかけ続ける。だって私は、戦うことが大嫌いだから』

 矛盾していることは重々承知だった。しかし、なのははその道を選んだのだ。

「何いってんのかわかんないよ。馬鹿か、お前」

「馬鹿でもいいよ。私は、私らしいやり方で話を聞いてもらうから」

 ヴィータは微笑むなのはを前にして一歩後ろへ下がった。
 こちらはすでに甲冑を身にまとい、必殺の武器を掲げている。しかし、相対する少女は武器を構えようともせず、それどころか自らの身を守るジャケットさえもまとっていない。
 全く無防備な姿。今の状態で一撃を浴びれば、例え非殺傷の手加減した一撃であってもその身体は枯れ木のように無惨に散っていくだろう。

「なのはの言うとおりです。私達は逃げず、あなたたちと向き合います」
「そう、これが僕たちの意志だ」

 見れば、それはなのはだけではない。その隣で二人を見つめるフェイトも、彼女たちの背後でシグナムとにらみ合うユーノも、まるでなのはと心は同じと押し黙り、何ら行動を起こそうとしない。

「………くっ……!」

 うなり声がシグナムの口より漏れた。
 烈火の将。ヴォルケンリッターのリーダーであるシグナムでさえ、攻撃することも守ることもしない彼らを前にして手を出せずにいる。
 すでに彼女も騎士の剣【レヴァンティン】を顕現させ、その身にヴィータと同じく甲冑をまとっているにもかかわらず、フェイト達は一歩も動こうとしない。

『シャマル。テスタロッサ達の様子はどうだ?』

 苦し紛れにシグナムはそうシャマルへと念話を送る。

『変わりなし。リンカーコアの活動も休止させてるみたい。本当にあの子達、吹けば飛ぶような状態よ』

 恐ろしい子供達だとシグナム同様シャマルも思い知らされる。

 今の状態であれば勝負は一瞬で付く。例え、どれほど訓練された魔導師であっても、休止状態のリンカーコアを活性させ、ジャケットをまとい、武器を構えるまで1秒以上の時間が必要になるはずだ。

 この瞬間でも、シグナムとヴィータがタイミングを合わせ一直線に彼らに襲いかかったとすれば、彼らは何の抵抗も出来ずに身を地に伏すだろう。

 しかし、シグナムの胸中にはそれで良いのかという感情が渦巻いている。おそらくそれはヴィータも同じことだろうと予測が付く。ヴォルケンリッターの中では最も冷静でいながら一度感情に火が付けば誰よりも激しく行動する、そんなヴィータでさえ今の状況には武器をふるえないでいるのだ。

 仮に武器を振るったとすれば、それによって受ける傷はおそらく彼らに目覚めの来ない眠りを約束する。
 それは、例え道を踏み外そうとも主のために絶対に行わないと決めた絶対の誓いに反することだ。

『これが、命を懸けて戦うということか……』

 シグナムが漏らした念話を聞き、ヴィータとシャマルは驚き彼女に目を向ける。

(あるいは未練がましく騎士を名乗り続けていた時点で我々の負けだったのかもしれん)

 自分たちは外道に徹することが出来なかった。ヴォルケンリッターという騎士団を名乗り、それぞれが誇りある騎士を名乗っていた時点で彼らは騎士であることを捨て切れられなかったのだ。

 シグナムはゆっくりと構えを解き、腕の力を抜き剣を地へと向けた。

「シグナム!」

 ヴィータとシャマルの声が重なった。しかし、シグナムははっきりと面を上げ高らかに宣言した。

「武器をおろせヴィータ! そして、シャマル。我々は負けたのだ!」

 ヴォルケンリッターの将が自らの敗北を宣言した。そして、それはヴィータとシャマルの心に揺さぶるほど激しく届き、そして二人はそれを理解した。
 騎士である自分たちでは今の彼らには勝てないと理解したのだ。

「どうした? 幼き勇者達。私達は敗北を宣言したぞ。お前達の話都やらを聞かせてもらおうではないか!」

 シグナムの声に状況をつかみかねていた三人は、ハッと気がつき、緊張していた心をゆるめた。

「ありがとう、シグナム」

 今にも糸が切れて床に崩れ落ちそうになる足を懸命に奮い立たせ、どこかふるえる調子でフェイトはシグナムの側へと歩み寄った。

「礼はいらない。敗者に情けをかけるなテスタロッサ」

 シグナムはそういって剣を床に突き刺し、武器から手を離した。

「それでも、ありがとうございます、シグナムさん。絶対にシグナムさんやヴィータちゃん、はやてちゃんに不利益が行かないように頑張りますから」

 なのははまぶたに涙を浮かべながら、そっとシグナムの方へと歩み寄った。

「ヴィータも、武器を放してくれる?」

 向こうではユーノが未だ憮然として武器を手放さないヴィータに声をかけている様子だった。

「うるせぇぞイージス。そんなのあたしの勝手だ」

「だから、僕はユーノだって。いい加減名前で呼んでよね。なのはのことは名前で呼ぶくせに、僕のことは呼んでくれないの?」

「あたしは、イージスってのが気に入ったんだ!」

「だけどねぇ……」

 まるで、気の合う親友のようにじゃれ合う二人を見て、シグナムはフと笑みを浮かべた。

「もう、ヴィータちゃんは相変わらずだなぁ」

 なのはもそれを見て、呆れたような、どこか肩の荷が下りたような声を奏でる。