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【リリなの】Nameless Ghost

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「闇の書のことはシグナム達から聞いてる。むっちゃ古いもので、完成したらすごい力をくれるんやろ? それが、私の身体と何か関係があるん?」

(やっぱり、はやては何も知らなかったんだね。当たり前か……騎士達も知らないことをはやてが知ることが出来るわけないよね)

 それは、この病室を訪れたとき、すでに分かっていたことだった。シグナム達闇の書の騎士は、主であるはやてに何も伝えていない。

 だから、はやては何も警戒することなく自分たちを病室へと招き入れた。
 知らせないことが騎士達の優しさなら、それを知らせようとする自分はおそらく悪に違いないとアリシアは自覚する。

「遠回しに言う時間がないから、単刀直入に言うよ。闇の書は、すでに壊れてしまっているんだ。例え、闇の書が完成しても君の身体は元には戻らず、それどころか、君もろとも世界が破壊されてしまう。闇の書は危険なものなんだよ」

 アリシアの言葉にはやては一瞬反応が出来なかった。世界が破壊されるなど、一言で言われても把握できない。それどころか、闇の書は寂しがる自分を何度も慰めてくれた、家族の一人だ。
 それが危険なものだと言われても、理解が出来ない。納得など出来るはずもない。

「へ、変なこと言ってからかうのはあかんよ」

 しかし、はやてはこうも聞いていた。

『遙か古代に栄えた文明の遺産。ロストロギアには危険なものも多く、それによって滅びた世界も存在する』

 闇の書は関係ないと思いつつ聞き流していた言葉。世界には物騒なものもある。そんな迷惑なもの、最初から作ったりしなければいいのにと考えていた。

 闇の書が、いわゆるそういった危険なものと考えたことが、今まで自分にあっただろうか。どうしてこの書物が闇という名を付けられたのか、はやては考えたことがなかった。

「残念なことだけど、これは事実なんだ。証拠を見せられないけど。私はこういうことで嘘は言わない」

「もし、そうやったとしても、私らは蒐集はしてない。闇の書は完成せぇへんのやから、危険はないはずや。シグナム達かて……そういって納得してくれたんや……」

「やっぱり、君は何も知らされていなかったんだね」

「どういうことや」

 はやてはその整った表情をゆがめた。何となく、家族がけなされたような感触がした。
 アリシアの言葉、口調、たたずまい。それらがすべてはやてには不快に思えた。

 アリシアもまた、はやての声が低くとぎすまされたことを知り、彼女が自分に対して警戒心のようなものを抱いていることを理解する。

 無理もないとアリシアは思った。

「君の家族……闇の書の騎士達はね、蒐集をしているんだ。私も、ついこの間蒐集された」

「嘘や、そんなこと、あるはずない! そもそも理由がないやん。私は闇の書の力なんていらへん。みんなで一緒に、楽しく暮らせれば私は満足なんや!」

 彼女の悲しみは、家族に裏切られたという悲しみなのだろうかとアリシアは思う。

「私は言ったよね。私はこういうことでは嘘を言わないって。それに、理由はあるよ。君が今、死に瀕している。それが、彼らが蒐集を決意した理由だ」

 はやては目を見開き、言葉を失った。

「君の身体が上手く動かないのは、他でもない。闇の書が君を浸食しているからなんだ。そして、君の家族……闇の書の騎士達はその浸食から君を救うために、闇の書を完成さようとした」

 それは、アリシアの想像や推測が多分に含まれてはいたが、病室での彼らの様子や、彼女が無限書庫で得た情報から類推すればそれが最も妥当だろうという予測でもあった。

「―――知ってたよ―――」

 はやてのか細い声にアリシアは目を細く切り詰めた。
 黄昏時の光は柔らかで淡い。しかし、その光さえも、アリシアには辛く、先程から目の奥が鈍く痛む。

 それでもアリシアは目を開き、うつむくはやての表情を見ようと努めた。

「私の足が動かへんのも、最近胸まで痛くなってきたのも、何となくやけど、闇の書がそうさせてるんやなって、知ってたよ」

 知っていてもなお、彼女はそれを知らないふりを続けていた。それを言ってしまえば、今の家族というものが足下から崩れていってしまいそうで怖かったから。
 アリシアは「そうだったんだ」とつぶやき、目を閉じた。
 今にも眼球から涙があふれそうだ。鈍い痛みは次第にはっきりとした痛みに変わり、眼がそれを守るために涙腺を刺激する。
 そんな表情を、アリシアは誰にも見られたくなかった。

「――せやけど、私は、それでもええって思ってたんよ――」

 アリシアは目を開いた。瞳に涙が浮かび、雫が今にも流れ落ちそうになる。
 水滴によって薄ぼんやりと映る彼女の表情をうかがい知ることは無理に近い。
 それでも、アリシアは、今はやてはいかなる感情も排除した表情を浮かべていることを確信した。

「君は、もう諦めてしまっているの?」

 生きることを、彼女は諦めてしまっているのだろうかとアリシアは思った。

 はやては頷きもせず、否定もせずに言葉を続ける。

「どうせ、先の短い人生やから、せめて誰の迷惑にもならんように。誰も悲しませんようにって一人で死ぬつもりやったんや」

 アリシアは目蓋を両手でぬぐい、「ああ、聖王陛下よ」とつぶやいた。

(あなたは、この幼子に何という運命を背負わせたのか)

 アリシアの脳裏に、かつてベルカの街角に立てられた『死を待つ人々の家』に掲げられた慈愛の聖王女オリヴィエの肖像画が浮かび上がる。

「せやけど、シグナムが、ヴィータが、シャマルが、ザフィーラがうちにきてな。家族になってくれて。ものすごく幸せで……死にたくないって思ってしまったんや」

 はやては面を上げ、アリシアへとしっかりと向き合った。
 その表情、その目には力がこもっている。アリシアにはそれがまばゆく思えた。

「なあ、アリシアちゃん。私は……死ぬんかな?」

「私は、君を死なせたくない。私はもう、繰り返したくない」

 ああ、そうか。とアリシアは思った。これは、ギフトだったのだ。死ぬはずだった自分が生き延びた理由。それは、まさにこのときのためにあったとアリシアは思った。
 かつて、自分の生き方を根本的に決めてしまったあの罪悪を雪(すす)ぐためのチャンスが、今ここに与えられているのだとアリシアは理解した。

「それやったら、アリシアちゃん。私を生きさせて欲しい。私が死なないその方法を、どうか、私に与えて欲しいんや。アリシアちゃんは、その方法を知ってるんやろ?」

「そのためには、多くの障害がある。君を死なせようとする人々は多い。犠牲を君一人に抑える方法を考えて、それを実行する人もいる。君の騎士達は、君を死なせる最大の障害になるよ。そして、私は君を生きながらえさせる確たる方法を持っていない。むしろ私は、犠牲が君一人ですむのならそれが最良の方法だと思っていたんだ。そんな私を、君は信頼できる?」

「私は、死にたくない。生きていたい。やっと……やっと手に入れた幸せなんや。みんなが頑張ってくれてて、私に生きていて欲しいと願って、その結果が終わりやなんてあんまりや! 私は……生きていたいんや!」