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【リリなの】Nameless Ghost

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「いや! お姉ちゃんが、お姉ちゃんがあそこにいるんだ! 私が助けないとダメなんだ!」

 徐々に緩んでいく闇の圧力と共に次第に明らかになっていく夜の街の風景。
 先程まで地上の星のように輝いていた街並みは、今は灰色じみた空間に閉ざされ、なりを潜めている。

 空間を覆い尽くしていたデアボリック・エミッションの波動は徐々に拡散の方向へとシフトしていき、ザフィーラが皆の待つビルの影へとたどり着いた頃にはそれは完全に消失し、一時の平穏を取り戻した。

「やめて! なんで、何で止めるの!? お姉ちゃんが、お姉ちゃんが」

 それでもなお、平穏を打ち破らんとしてフェイトは抱えられた腕の中で手足を振り回し、必死になってその拘束から逃れようとする。

 パチンという乾いた音があたりに響いた。

「ユーノ……くん?」

 朱色の足場、ヴィータが用意したフローターフィールドに身体を横たえるなのはは、振り抜かれたユーノの掌と、呆然と頬を押さえるフェイトを見比べながら声を漏らした。

 ユーノがフェイトの頬を張った。

 呆然とするフェイトに、ユーノは彼女を叩いた手を押さえながらゆっくりと口を開いた。

「いい加減にするんだ、フェイト。君が一人でつっこんでも、何にもならない」

 叩かれ方の何倍も痛そうな表情を浮かべ、ユーノは低い声で言葉を紡いだ。
 押さえ込まれた怒りがにじみ出る。
 フェイトの頬がズキリと痛んだ。母から受けた痛みに比べればそんなものは優しく撫でられた程度のものはずだった。
 しかし、フェイトにはその何倍にも頬が痛んだように思えた。

「そう……だよ、フェイトちゃん。一人で何とかしようと思わないで……一緒に……助けようよ……」

 息も絶え絶えで、とても意識を保っていられるような状態ではないなのはの言葉に、フェイトはようやく落ち着きを取り戻すことができた。

 頬の痛みは胸の痛みとなってフェイトは胸を抱く。

「ご、ごめんなさい……ユーノ、なのは。みんなもごめんなさい。ザフィーラも、叩いちゃってごめんなさい……」

「構わん。お前の細腕では軽傷にもなっていない」

 フェイトの腕が当たった場所は痕にもなっておらず、ザフィーラはどことなく照れたような様子でフェイト解放した。

「もう終わった? じゃあ、これからどうするか話したいんだけど」

 その様子を始終興味がなさそうに、なのはの隣で胡座をかいていたヴィータはようやく終わったかとため息をつき、服の埃を払いながら立ち上がった。

「ヴィータ」

 ザフィーラの短い諫めの言葉にもヴィータは「ふん!」と鼻を鳴らすばかりで取り合おうとしない。
 ユーノとシャマルはお互いに視線を交差させ、苦笑を浮かべながら、共にチームの参謀として、共にリーダーのいないこの状況を把握するべく面々を見回し会議に入ることとした。