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【リリなの】Nameless Ghost

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 元々管理局に忠誠を誓うつもりがさらさら無いアリシアだったが、役立たずの穀潰しが出来ることは足手まといにならないことだけだとあきらめた。
 結局、アリシアは本局に設けられている犯罪被害者保護施設なるセクションに預けられる事となった。
 アースラに乗艦して以来、リハビリを続けてきたアリシアは今となっては既に自分の足で歩き回れる程度には回復して来ているため、日常生活には問題はない。
 しかし、それでフェイトと離ればなれになる事は、どうも不可解な不安を感じていたのだ。
 どうして、とアリシアは考える。
 それまでの自分なら、フェイトのことなどさておいて自分自身の回復に死力を尽くすはずだ。
 ユーノに関する配慮は、言葉は悪いがベルディナであった頃の惰性と考えることも出来る。しかし、ベルディナであった頃の事を引きずっているなら、フェイトの関しては何の感情も浮かばないはずだった。
 他人に対しては一切関知せず。それがどのような人生を歩もうとも自分の利益には何の関係もないし興味もない。
 しかし、それを思い浮かべるたびにアリシアは頭の奥に鈍痛を感じるようになったのだ。
 何かの後遺症なのかとアリシアは考えていたが、医者の意見では脳には何の障害も見受けられない、どころか健康者よりも随分健康者然としているというのが、随分な皮肉のこもった見解だった。

 ともあれ別れの時は近い。ならば、今を愉快にやれればそれで良いとアリシアは実にベルディナらしい考え方で次の日を迎えた。

****

 なのはは、数日前に入った連絡に落ち着かない様子でその日を待ちわびていた。
 そして、興奮と期待、僅かな不安を抱きその日はあっけなく寝坊してしまった。

「何で起こしてくれなかったのーーー!!!」

 必死になって慣れないランニングを余儀なくされたなのはだったが、その首筋に捕まるユーノは振り落とされまいと必死で答える余裕がなかった。

《Because my alarm clock was prohibited》(私の目覚ましは禁止されていましたので)

 と、なのはの平たい胸元の赤い石ころは皮肉混じりにそう答えた。

「あんなの聞いて一日を始めるのはいやなのぉーー!!」

 ピー音だらけのモーニングコールが頭の中に響き渡るその目覚ましは、幼いなのはであっても一生の心傷になるほどえげつないものだった。
 側にいて巻き添えを食らったユーノにしてもその日は一日中嘔吐いていたほどといえば、その凄まじさが予想できるかもしれない。

 ともあれ、夏も近く朝の穏やかに涼んだ霧の中、海鳴市海浜公園と呼ばれる海沿いの広場に到着したなのはは、そこにたたずむ二人の少女と一人の女性、そして一人の少年の前に足を止めた。

 何を話して良いのか分からない。会う前なら色々話したかったこと、聞きたかったこと、言っておきたかったこなど覚えるのも億劫なほどあったというのに、実際にそうして面と向かってしまえばその言葉もすべて頭の中から消え去ってしまった。
 ああ、そうか。となのはは納得した。そんないつでも考えられるような事なんて、最初から意味がなかったんだと、彼女は笑みを浮かべた。
 ただ会えるだけでいい。あって、お互いにお互いを確認し合い、そして笑いかけ合えばそれだけで良いんだとなのはは心が透き通っていくような思いだった。

「ひさし、ぶり、だね。フェイトちゃん」

 はにかむようになのはは眼前でうつむくフェイトに何とか声をかけた。
 何か気恥ずかしい。自分はこんなにも人見知りだっただろうかと思ってしまう。
 今思うと、寝ぼけて焦っていつもの習慣で着て来てしまった学校の制服が恨めしい。
 フェイトは、白いブラウスに黒くてフワッとした丈長のスカートを身につけ、まるでそれは等身大の人形を思わせるほど見目麗しい。

「うん……。ひさし、ぶりだ」

 フェイトはいつまでたっても視線をあげようとしない。なのははそれでもこうしていられることに幸福を感じていた。

「元気だった?」

「うん。お姉ちゃんがいてくれたし、アルフもいるから」

 海からの優しい風が二人の間を通り抜けていった。

「前に、君は言ってくれたよね」

 フェイトは面を上げた。

「私と、友達になりたいって」

 なのはは、静かに頷いた。あのとき誓ったこと。悲しみの瞳に沈んだ少女を助けたい、そして友達になって一緒にそれをわかり合いたい。
 その気持ちは一切変わっていないとなのはは自信を持って答えた。

「私、今まで友達とかいなかったから、どうしたら友達になれるかとか分からないんだ」

 フェイトは悲しそうに呟いた。

「簡単だよ」

 なのはの言葉にフェイトは目を上げる。

「友達になるの、すごく簡単」

 なのははフェイトの両手を取り、そして熱を伝え合うようにそれを包み込んだ。

「名前を、呼んで。初めはそれだけで良いの」

 名前を呼ぶ。それは、相手を相手と認め合うこと。ただそれだけで、お互いの心には相手がいる。

「な、なの、は…」

「うん、フェイトちゃん」

「な、の、は」

「フェイトちゃん」

「なのは。私と、友達になって、くれますか?」

「喜んで、だよ。フェイトちゃん!」

 二人はいつしか頬に涙を浮かべ、お互いにお互いの熱を確かめ合うように抱きしめあった。

*****

「すっかり蚊帳の外なってしまったね、ユーノ」

 少しけだるそうな様子でフェンスにもたれかかるアリシアは、いつの間にか人間の形態に戻って側に立っていたユーノに声をかけた。

「フェイトォー、フェイトぉー。良かったよぉーー」

 その隣では、フェイトがなのはと手を取り合って笑っている事に感動するあまり、頬をぐしゃぐしゃにしているアルフも立っていた。

「良かった。本当に良かった。なのははずっと気にしてたから」

 久しぶりに本来の姿に戻れたことに開放感を感じていたのか、ユーノは居心地が良さそうな雰囲気でしきりに頷いていた。

「やっぱり、その姿の方が落ち着くか?」

 アリシアの皮肉混じりの言葉に苦笑いを返しながらも、ユーノは頷いた。

「うん。だけど、なのはと一緒にいるためにはそうするしかないから」

《There is a part which is profitable for the duty, too. The other day, too, he was going to bed with the together in addition to doing Master and a bathroom together bedding.》(役得な部分もありますがね、ユーノ。先日もマスターと湯殿を共にした上に同衾までされておりました)

 いつの間にかなのはの平らな胸元からユーノの貧相な胸板に移動していたレイジングハートは、しれっとそんなことを宣っていた。

「言わないでよレイジングハート。僕だって、何とかして欲しいんだから」

 ユーノは焦るが、レイジングハートは我関せずと光を明滅させるばかりだった。
 久しぶりのテンポの良い会話にアリシアは懐かしさを感じながらも、ユーノに確認した。