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【リリなの】Nameless Ghost

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「例の教会からの案件なんだけど、昨日上げた資料にちょっと穴があったから差し押さえておいて欲しいんだ。改正稿はもうできあがってるけど、もう一度校正がしたいから少し待っていてもらえませんかって」

 クロノはさっきの話かと頷き、

「まあ、事情が事情だから仕方がないか。とりあえず了解した。一応こっちとしては善意でやってもらってることだから大きな声では言えないけど。、これからはこういう事のないようにしてくれ」

「そう思うなら、勝手にスケジュールを繰り上げた先方にいってよね。今回ばっかりは流石に無理があったよ。今日の明け方までに初稿が提出できただけでもほめて貰いたいんだけど?」

 アリシアの憮然とした口調と表情にクロノは肯かざるを得なかった。何より、今日のアリシアの言葉にいつもの張りがなかったのは、貫徹の疲労のためのようだ。しかも、明け方に提出した初稿の訂正稿がもう出来上がっているとすると、この少女はいつ睡眠を取っているのだろうかと心配になる。

 特に今回の依頼に関しては、依頼を受けた時点での重要度は"ゆっくり調べてくれていい"という程度のもののはずだった。しかし、昨日の昼過ぎ時点で急に連絡が入り"大至急、直ちに"と重要度が一気に最大になってしまったのだ。その重要度から言えばその日の内に提出する事となるのだが、流石のアリシアでも日付変更に間に合わず、クロノとリンディが何とか先方をなだめすかし何とか明日、つまり今日中にという事に改めさせたのだ。

「すまない。先方は僕らにとっても重要な方達だったから断り切れなかったんだ」

 クロノは素直に謝り、アリシアは「まあ、いいけどね。間に合いそうだし」と呟き大口をあけて欠伸を一つ吐いた。
 アリシアも今回の依頼主、聖王教会のグラシアという名前はよく知っており、それが聖王教会の重役でありハラオウンの重要な友人であることもだ。今回の用件自体、ハラオウンがグラシアにアリシアのことを紹介したことがきっかけとなって発生したもので、アリシアもグラシア家に対する挨拶がてらという事で了承したものだ。
 しかし、今回のことを考えるとグラシアとの付き合い方は少し慎重にならざるを得ないとアリシアは思う。

「あんたも、結構大変だったんだねぇ」

 アルフはクロノとアリシアのやり取りを聞いて素直な驚きの声を上げた。

「まあ、そこまで大変でもないけどね。全体の仕事量はリンディ提督やクロノとは比べものにならないし、本を読むだけでお金がもらえるから楽と言えば楽なんだけど。さすがに今回ばかりはくたびれたよ」

 アリシアはそういって笑い、もう一度あくびを付いた。しかし、その笑みを見てもアルフとフェイトは笑えなかった。

 食堂を後にするクロノを見送り、アリシアは「さてと」と呟き、同じく食堂に留まった三人に目を向けた。

「私はこのまま自室に戻るけど、三人はどうする?」

「アリシアはこの後仕事?」

 ユーノは先ほどの会話を思い出しそう聞いた。

「うん? 仕事は今終わったよ」

「え? だけど、さっきは……」

 眼鏡を外し、眉間をもみほぐすアリシアにフェイトは問いかけるが、アリシアはしれっとした表情で、

「ああ、あれは半分方便だよフェイト。修正稿は提出するけど。本当は、修正するところなんてないしね」

「えーっと、どういうことだい?」

 ユーノは「なるほど」と肯いていたが、アルフとフェイトは腑に落ちなかったようだ。

「つまり、警告みたいなものだね?」

「ご明察。さっすがユーノ」

 アリシアはユーノの答えにニッコリと笑いフェイトとアルフのために説明を始めた。

「つまりね、これ以上の無理はきかないよっていう警告みたいなもの。突貫作業で作った資料には欠陥があるとみせておいて、今後はもっと余裕を持ってお願いしますっていうアピールさッ」

 これで味を占めて貰ってはこっちが困るんだよと笑顔で肩をすくめるアリシアにフェイトとアルフは、すごいものを見る表情で感心していた。

「それじゃ、この後は暇なんだ」

 フェイトの問いかけにアリシアは頷き返した。

「部屋に戻って休憩しようか。公判まで後三時間もあることだし。お茶でも飲みながら積もる話でもどう?」

 フェイトは嬉々として肯いた。
 結局ユーノとアルフもアースラに宛がわれたアリシアの自室におじゃますることとなり、アリシアはひとまず昨晩入り損ねた風呂に入り、一息つこうと冷たい飲物を用意した。

 それからしばらく裁判が始まるまで、アリシアは眠気を押さえるために濃い珈琲をたらふく飲み。久しぶりに三人と会話に花を咲かせ、それぞれの半年間を語り合った。
 その話の主眼はやはりアリシアのアースラでの半年間と、ユーノの地球での半年間にあった。
 特にフェイトはユーノの口からなのはの名前が出るたびに頬を緩ませ、「早く合いたいな」と口にする。それは、フェイトの半年間の口癖になってしまっていたものだ。
 そして、それはもうすぐ実現する。
 フェイトは身からあふれ出さんばかりの幸福に酔いしれ身体をぎゅっと抱きしめていた。

 かくしてその日、フェイトの裁判は終了し、一つの節目が訪れた。
 そして、彼らとは遙か遠く、次元世界の彼方に住まうもう一人の重要人物に訪れる一つの始まりが確定した日だった。

―――――――――――――――――――――――――――――――

 ユーノが本局に旅立って一月が過ぎた。高町なのははこの一ヶ月間を思い出し、木々の狭間から吹きかける冷涼な風と共に感じる寂しさに身震いをする。

《Well, the last trial of Master of Balldish was to be yesterday.》(そう言えば、昨日でしたね。バルディッシュのマスターの最終公判は)

 外界を温度と光、魔力等の情報でしか捕らえられないレイジングハートはなのはが息するたびにはき出す白霧をモニターしつつ、そう言えば冬も本番ですね、とデバイスらしからぬ感想を漏らした。

「うん、もうすぐフェイトちゃんと会えるんだね。楽しみだよ」

 フェイトに出会うよりも前から訓練所にしている山の中腹の自然公園に立ち、なのははDVDレターでしか顔を合わすことが出来ない遠い友人の事を思いやった。

《Comparatively the you is made to seem lonely by you. Doesn't the condition still come out when you don't have Euno?》(その割には寂しそうにしていますね。やはりユーノがいないと調子が出ませんか?)

「え、あ……うん……」

 レイジングハートから胸の内を言い当てられ、なのはは頬を染めながら俯いてしまった。

《You will keep in touch with him and only in? Aren't you enough it?》(連絡は取り合っているのでしょう? それだけでは足りませんか?)