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【リリなの】Nameless Ghost

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 首にかけたタオルで胸の頭を申し分程度に隠したアルフは風呂上がりの牛乳を飲みながらキョトンと目を瞬かせた。

「いや、言っても無駄だって理解したよ。忘れて」

 というか、フェイトからも何か言ってくれとアリシアは諦め混じりにフェイトの方に目を向ける。

「……Zzz……」

 なるほど通りでと、アリシアはため息をついた。そこにはベッドの暖気にあらがいきれず、眠りの世界へと旅立ってしまった金色の眠り姫がいた。

「というか寝過ぎだよフェイト」

(仕方がない)

 アリシアは部屋の惨状を見回し、タイピングの手を一時的に休め、通信回線を開いた。

「クロノ執務官だ」

 通信機の向こうに出たのは、珈琲を片手にくつろいでいる最中のクロノだった。アースラは今日中に航海任務を終え、本局に入港することが決まっている。さらに言えば、プレシア・テスタロッサ関連の事件より向こう殆ど休むことなく働いていたアースラに最近になって割と深刻な損害が確認されたのだ。
 故に、上陸前の艦内には比較的のんびりとした空気が漂っているのだが、

「クロノか? アリシアだ」

「ああ、アリシアか。どうした。仕事の話か?」

「残念ながらプライベート。フェイトが退屈そうにしているから、ちょっと相手をして貰いたいと思って」

「相手? 僕がフェイトの?」

「そう、お願いできる? 最近身体が鈍っているようだからクロノと戦闘訓練がしたいらしいね」

「まあ、僕としてはちょうど良い組み手だけど」

「じゃあよろしく、クロノ。鍵は開けておくから勝手に入っていいから。フェイトは今眠ってるけど、たたき起こして連れて行っても良いからね」

 とアリシアはフェイトの方を見る。そこには子犬の姿に戻ったアルフを胸に抱いて眠りこけるフェイトと、フェイトの胸の中で鼾をかくアルフがあった。

「お前も容赦がないな。まあ、任されたよ。じゃあ」

 クロノはそういいつつもやはり将来有能な魔導師を鍛えることに楽しみを見いだしているのか、実に楽しそうな表情と声で通信を切った。

「さてと」

 アリシアはそういってブラックアウトした通信モニターと共に作業中だったモニターもすべて閉じ、席を立ち上がった。

「じゃあ、お休み。良い夢をね、フェイト」

 部屋を去り際にアリシアは幸せそうな寝顔を浮かべるフェイトの頬をそっと撫で、その額に『持ち出し可 by アリシア』と書かれた紙を貼り付け物音を立てずに部屋を後にした。

「さてと、ユーノでも探すかな」

 長時間椅子に座りっぱなしだったため、少しひりひりする尻を撫でながらアリシアは自室を与えられていないユーノの姿を探すためアースラをうろつくことにした。
 それからしばらくしてから、アースラの訓練室で少女のか細い悲鳴が数時間にわたって鳴り響いていたことをアリシアは後になって知った。

***

 入港手続きを終え、アースラはタグボートの曳航によりドッグに固定されすべての動力を落とした。
 アリシアは作業用のアームや資材搬入用ブームによってその外装の数カ所が剥がされ、白く流麗だった船体からは所々灰色の構造物がむき出しになっている。

「やはり、外層支持系統にかなりのクラックやホールが確認されたらしいですね。熱変形による残留ひずみや高サイクル疲労を起こしかけている所も数カ所見つかったらしいです」

 アリシアは、近くの自動販売機で購入した紙コップの珈琲をちびちび飲みながらリンディとエイミィの会話を聞いていた。

「次元跳躍魔法に二回も晒されたわけだしねぇ。むしろ、それぐらいで済んだのを僥倖と思うべきかしら」

 リンディはエイミィの報告とその報告書から得られた情報に若干憂いを秘めたため息をついた。

「それでもL級はハードワークですしね。アースラ以外の艦が全部外に出ちゃってますし」

 前にこれぐらいの整備をしたのはいつだったか思い出せないほど、アースラを含むL級次元航行警備艦には暇がないのだ。建造から既に20年が経過した1番艦、L級のイニシャル艦ともなったロス・アダムスも近代改修を繰り返しながら未だ一線級の現役艦であることから、管理局がL級にかける信頼や期待というものがどれほど大きな者かが想像できるだろう。

「それでも9番艦の建造計画は頓挫してしまったしねぇ」

 10年前に建造されたL級最新鋭艦であるアースラ以降、L級艦はそれ以降のナンバーを刻んでいない。

「R(ラーバナ)級計画ですね。アルカンシェル二門を常時搭載型にした管理局の切り札でしたか。それは、確かに計画が頓挫するわけですよ。そもそも開発構想が無茶すぎる」

 漸く自分の舌の適温となった珈琲に舌鼓をうちながらアリシアはそっと横から声を挟んだ。

「それは、私もあんな物騒なものを常に搭載しておくなんて反対だったわ。だけど、新型艦構想そのものを凍結させるのはどうかと思うのよ」

 リンディは管理局の予算委員会の決定には不服だったらしい。
 アリシアとしては、そもそも人手不足の状況に乗組員が足りるかどうかも分からない船を建造しても余り意味がないのではないかと思うのだが、やはり現場の人間としては保有する戦力が多いことには越したことはないのだろう。事実、艦の空きがないためにアースラが拘束されてしまえば、リンディ達その乗組員はこうして上陸任務に暇を飽かすことしかできないのだ。

「ザンシ・ヴェロニカ計画に期待するしかないわね」

 リンディがふと漏らした言葉に、エイミィは聞き慣れない言葉だと目をぱちくりさせた。

「XV(ザンシ・ヴェロニカ:Xanthe Veronica)級構想ですか。L級の艦体規模をさらに増大させた大型艦構想ですね? もう計画段階なんですか?」

 しかし、アリシアはその計画名に聞き覚えがあったようだ。

「L級よりも大型って、そんな計画があるんですか?」

「計画名だけよ。一応、造船部で研究はされているらしいけど計画実行にはほど遠いらしいわ」

 リンディはエイミィの質問に、人事部の友人がふと漏らした噂話をそのまま伝えた。
 
「でしょうねぇ。有用性や戦力保有はともかく、予算を下ろさせるのは至難の業でしょうね。何よりも建造費の見積もりがL級の2倍以上になると予算委員会を口説き落とすのは至難の業でしょうしね。一隻あたり23億ミッドガルドともなるとさすがに」

 アリシアは片手では持ちにくい紙コップを両手で持ち直し、小さな口を精一杯広げて珈琲を喉に送り込む。その様子は、実に子供らしい仕草でエイミィはつい微笑ましく思ってしまうが、そんな彼女の口から出される言葉が幼子の範疇を逸脱しすぎていることに妙な違和感を持った。

「あら? もう見積もりが出てるの? それは知らなかったわ」

 リンディはアリシアと同じ自販機で買った緑茶に自前の角砂糖とミルクをたっぷりと入れた液体を机に置いた。

「らしいですね。詳細までは面倒だったんで確認しなかったですけど」

「今度私の部屋にデータを送っておいて貰える?」

「分かりました、リンディ提督」