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【リリなの】Nameless Ghost

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 実際の所、発掘は何の問題もなく進められた。それは、凄腕のゾディットが現場にいることで調査団員の士気が高まったことにも影響されるだろうが、最も大きな功績はそれらを完璧な指揮の下に扱いきったユーノの手腕だろう。
 通常の捜索魔法では秘匿されていたその隔壁は確かにやっかいな箇所が多くあったが、ユーノはその殆どをベルディナの入念な調査によって把握しており、そこから立ち上げられた発掘手順は誰の目から見ても完璧の一言尽きた。
 ユーノには優秀な部下と優秀なアドバイザーであるベルディナが付き、このメンバーで不可能なことはこの次元世界の誰にも出来ないと言わしめるほどのものだった。
 そして、最後の隔壁。その向こうから流れ込む酷く冷涼な魔力波動を前に、最後の一撃が入れられることとなった。

「それで、いいのか? ここに俺が居て」

 その隔壁を前にして<ruby><rb>魔法杖<rt>デバイス</ruby>を構える男達を左右に控えさせ、ベルディナはユーノの隣でその最前線に立っていた。

「もちろん。この発掘はベルディナが居なかった出来なかっただろうから」

「ま、別に部外者をはじき出すのは決まりってわけじゃねぇからな」

 ユーノとゾディットの言葉に反応し、その現場にいる誰もが深く頷いた。

「まあ、俺も興味があるから願ったり叶ったりなんだがな。意外に緩いな、スクライアの慣習ってのも」

「恩義には恩義で報いをだよ、ベルディナ」

「ギブアンドテイクということか」

 ベルディナはとりあえずそう納得し、左右に控える隔壁破壊要員に目を向けた。

「それでは、ユーノ現場主任。隔壁破壊を許可していただけますか?」

 彼らはまるで儀式のようにユーノにそう伺いを立てる。

「現場主任、ユーノ・スクライアの名において許可いたします。過去の英知は我らにあり、それらは全てスクライアに集約されるべし」

 それは、儀式なのだ。ベルディナは初めてそれを見た。
 そして、少し前にスクライアを持って無神論者と称したことを修正するべきだと考えた。
 彼らは、神を信仰していないだけで、遺跡を古代の英知をその崇拝対象にしているのだ。

「スクライアの民に栄光を。バンカーー・バスタァーー!!」

 瞬時に現れる魔法陣、二人の男が掲げる手のひらから一握の光が発せられ、それは隔壁につけられた印に寸分の狂いもなく着弾し、小爆発と共にそれは崩れ去った。
 隔壁破壊魔法【バンカー・バスター】、スクライアが伝統的に受け継ぐ古い物体破壊に特化したミッド式魔法だ。
 力加減、着弾後の崩落面積。それらは予め計算に入れら、記されたラインを正確に保持し、その先に広がる光の部屋のベールを剥いだ。
 それは、部屋全体が光で出来ていると称しても何ら疑問が浮かばない光景だった。
 優しさも無く、神秘もない、薄暗さも邪悪さも何も感じさせない、それは正に純粋な冷涼さを発する燐光と称することが出来る。
 広く、限りなく真球に近い形で切り開かれた大広間には目を見張るような装飾も、崇拝するべき神の肖像も何も記されていない。
 そこは、鏡面に近いなめらかさを備えた白塗り壁殻に被われた広間だった。
 そして、その中心。祭壇とも言えるそこに浮かび上がる21の蒼く光る宝石はまるでこの時を待っていたかのような歓喜にうちふるえているよう幻視された。
 そして、ベルディナは戦慄を覚えた。何故、こんな物が、これ程の数が今まで誰の目にもとまらずここで眠っていたのか。
 純粋な魔力の固まり。ベルディナが知識でのみ所有しているフォン式魔術の最大到達点が今正に眼前に広がっていた。

「――ジュエルシード――」

 ユーノの口から吐き出されたその言葉は、静寂の空間に鈍く響き渡っていった。