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【リリなの】Nameless Ghost

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 ユーノは立ち上がり、データシートを確認した。

「何もないはずだよ? 発掘はここで終了しているね」

 ベルディナは「そうか」と答え、自分の勘違いかもしれないと考え、再び目を閉じそれに意識を集中した。今度はパッシブのみではなくアクティブによる走査も組み込み、そして確信した。

「どうやら、調査不足が確認されたようだな」

 ベルディナのつぶやきにユーノは目を見開き、足早にそこへと向かうベルディナの背を追いかけた。
 そして、ベルディナは祭壇の間の入り口から反対側にある岩壁に手をつき、直接それに魔力を流し込み念入りな調査を開始した。

「僕には、何も見えない」

 ユーノも念のため、自身の捜索魔法を立ち上げそれに断層走査を走らせた。しかし、僅かな差異を感じることは出来ても、それが異常なのか単なる測定誤差なのかを判別することは出来なかった。

「幻惑の魔法か。ミッド式の魔法では、ここに何かがあると分かった上でよっぽど念入りに時間を掛けて走査しなければ分からない構造だな」

 ならば、とユーノは疑問に思う。

「どうして、ベルディナには分かったの?」

 それは当然の疑問だ。ベルディナがここを調査を始めて僅か数分。彼は、この場所に立ち入ることは初めてのはずが、どうしてここまで短時間で確実な差異を感じ取れるのか。

「言っただろう? ミッド式の魔法では感じ取れない、と。俺の魔術なら幻惑に引っかからない」

 そもそも、ミッド式とは異なるんだからな。というベルディナの説明に、ユーノは納得した。
 ベルディナが使用する"アーク式"と呼ばれる魔術は、遙か昔、新暦が始まるよりもさらなる昔、現代では旧世代としか言葉が残されていない時代に発祥した神秘の技法だ。
 それは、ミッドチルダ式魔法の源流が発生したころには、既に滅び去ってしまった技術であるほどその歴史は古く、同時にそれは現代魔法とはまったく異なる理論によって構築されている。

「リンカーコアを使用しないから……だね」

「そういうことだ。そもそも、魔力という概念自体が異なるわけだからな」

 ベルディナは走査を一旦終え、だいたいの構造を把握すると、腕を下ろしユーノと向き合った。

「さてと、どうする? 発見した以上無視することは出来んが、魔法に対しては鉄壁の隠蔽能力を持つこれは盗掘者も欺けるだろうし、発掘終了としてしまえばこの遺跡の価値も下がり、誰も見向きしない」

 ベルディナが言うには、このまま放っておいても問題ないということだった。

「だけど、僕は無視はしたくない。この先に隠された何かがあるのなら、それは歴史的な発見だと思う」

「だが、ここまで強固に隠すということは。何か拙い物。それもとびきり上等な厄介物が埋もれているってことだ。茂みに石を投げて虎を呼ぶという言葉もある」

 ユーノは暫く口を閉ざし、目を閉じ意識を思考へと沈み込ませる。何を考え、どのような思考経路をたどっているのか。論理的、倫理的、感情的、理性的。そのあらゆる蔓を通し、ユーノは結論を出した。

「スクライアがロストロギアを前にして手をこまねいている道理はありません。調査します」

 ベルディナは、「そう来なくっちゃな」といってにやりと笑った。

《Is assistance called?》(応援を呼びますか?)

 レイジングハートの提案はもっともだった。この先何があるか分からない状況では、この人数では圧倒的に不足する。しかし、即座に応援を呼ぶわけにもいかない理由がユーノにはあった。

「スクライアの応援が来れば、ベルディナがはじき出される」

 ユーノは予感していた。この先には何か、とんでもない物、それこそ多くの運命の道をねじ曲げる程の力を持つ物が隠されていると。それがもしもスクライアだけの手で行われるとすれば、それは可能なのか。

(僕達では異常にも気づけなかった。だから、この先の調査にはそれこそ五感を絶たれた暗中模索が強いられると思う。だけど、ベルディナなら闇に光を投げかけることが出来る)

「レイジングハートは、族長に応援を要請して。僕達は、現場主任の権限で先行調査を行う。なるべく驚異は排除しておかないと」

 現場主任の権限が何処まで有効になるのかは、それこそ現場の判断にゆだねられることが殆どだ。しかし、それでも踏み越えられない境界は存在し、その線引きを何処までかすめることが出来るかが大きな課題だ。
 下手にその線から向こうに足を踏み入れてしまえば、例え同族であってもいや同族だからこそそのペナルティーは大きく、最悪部族追放という憂き目を見ることにもなりかねない。

「とにかく慎重に、冷静に行こう」

 ユーノはベルディナとレイジングハートを見つめた。

「分かったよ。任せな」

《Yes,master》(了解です、マスター)

 そして、二人と一個の孤立無援の発掘が始まった。

***

 スクライアの増援が到着したのは、それから3日後のことだった。
 あれだけ念入りに調査したにもかかわらず、調査に不備があったという報告を聞いた一族は驚愕し、すぐさま担当した調査団に腕利きのエース達を交えて人員を送り込んだ。
 久々の大規模隊のお出ましだとユーノは心なしかうきうきと待ち遠しそうに調査を進めていた。

「よう、ユーノ。なんかどえらいもんを見つけたんだってな。さすが俺の愛弟子なだけはあるぜ」

 調査団の筆頭を背負ってきたその男は、豪快な笑い声を上げ茫然と突っ立ていたユーノの背中を乱暴に叩いて言った。

「ゾディットさん。まさか、貴方が来るなんて。族長は本気なんですね!」

 そんなユーノの憧れの眼差しを一手に受け取る男、筋肉質で肌は赤茶け、ゴツゴツとした顎にはやした無精ひげををなでつけながら、ゾディットは不敵な笑みを浮かべた。

「可愛い孫のためなんだろうよ。あの爺さんもよっぽど子煩悩だからな」

 ゾディット・スクライア。スクライアの切り札、発掘武装隊のエースにしてクラナガン大学考古学部名誉会員の名を持つ凄腕は、ベルディナもよく知る人物のプロフィールだ。

「ベルディナ大導師も、ご苦労様でした。どうです? こいつは、役に立ちましたか?」

 ユーノを思う彼の表情は、まるで自分の息子を自慢する父親そのものだ。ベルディナもユーノ父親代わりの一人としては、思わず笑みを浮かべざるを得なかった。

「完璧だ。こいつは、いい発掘屋になるだろうな」

 二人は妙な連帯感と共にサムズアップで挨拶を交わし、ユーノは現場主任移行の手続きを取ろうとゾディットの腕を取った。

「それで、これ以降の調査なんですけど」

 というユーノ言葉にゾディットは驚くべき言葉で、それも不適に華麗にサラッ流すような口ぶりでそれを発した。

「爺さんからここはお前に任せるって聞いてる。いよいよ、俺もお前の部下になるわけだな。よろしく頼むぜ」

 目をまっさらに見開きながら瞳孔を針の先程に縮めるという器用な表情を浮かべユーノはそれから二十分間その場で硬直していた。