【リリなの】Nameless Ghost
(さあ、演じろアリシア。お前は完璧だ。完璧な指揮官となれ。お前の掌中には戦場のすべてがあり、指の一つでその状況を変えることが出来る。そう、この戦場においてのみお前は役者を動かす神となり、すべての幕引きをもたらす|機械仕掛けの神《デウス・エクス・マキナ》となるのだ)
まるで暗示をかけるようにアリシアは自身にそう命令し、そして意識を開いた。
(こちらの持ち駒は、高速機動のマルチロール、中距離支援射撃と障壁破壊のサポーター、防御と束縛のディフェンサー。敵は近接格闘と中距離射撃のアタッカー、剣術格闘主体のファイター。戦力比は現状で6,5,6,9,10といったところか。敵は基本的に単体戦闘に特化した戦力。その代わりにこちらは基本的にツーマンセルを主体にした戦力保有だ。そのうちユーノはワンセルを欠いている状態)
ならば一度戦力を集約させようとアリシアは判断した。こちらが連携主体の戦力構成であれば、急造ではあるがスリーマンセルでその個体戦力を向上させるしかない。
それに対して、おそらく敵は単独戦闘に特化しているため連携に関してはそれほどの性能を発揮することは出来ないはずだ。それに、敵にはアタッカーとファイターのツーマンセルとなるため、戦力としてのバランスが悪い。
スリーマンセルで各個撃破。敵は連携に向いていないといってもそれは確かな情報ではない。出来る限り敵に連携をとらせないことに越したことはない。
(問題は、あの子達がどこまで連携できるかか……まあ、そのための私ということだね)
『フェイト、アルフ、ユーノ。敵と戦闘を続けながら合流だ。これ以降はスリーマンセルでの戦闘を行う』
『だけど、僕たちは……』
ユーノはアリシアの提案に不安を隠せない様子だった。
『お前がいいたいことは分かっている。だが、そのための私だ。信じろ、お前達の姉を』
『信じるよお姉ちゃんを』
『フェイト、そうだねフェイトが信じるならアタシもあんたを信じるさ、それに……今はガタガタ言ってられないもんね』
アルフの威勢の良い叫びに、アリシアはニヤリと口の端を持ち上げた。
(なるほど。半年間の交流も無駄ではなかったか)
『ユーノもそれでいい?』
フェイトはアリシアの代わりにユーノに確認した。
『分かった、僕も信じる』
ユーノはヴィータのハンマーを障壁で横へ逸らし、チェーンバインドを鞭のようにしならせヴィータの追撃を牽制する。
『良し、ではまずYは周囲に罠を張り巡らせつつFの元へ向かえ。FはYの到着まで先ほどと変わらずに敵を牽制。相手に組ませるな』
『YよりCP(コマンド・ポスト:アリシア)了解』
『F了解』
『A了解だよ』
フェイトは、アルフと共にシグナムに対して飽和射撃攻撃と高速回避を続け、ユーノはヴィータに対してバインド攻撃を繰り返し密かに彼女を誘導するように行動し始める。
(布陣は完了だ)
モニターに映し出された黄色と橙と緑の光点は数メートルの間隔を置いて三角を描き、それを挟み込むように敵の二つの光点ヴィータを示す赤、シグナムを示す紫が配置される。
それだけを見れば、フェイト達三人は敵二人によって挟み込まれたと判断されるかもしれないが、アリシアにとってはむしろ二人が分断され、かつ遊軍三人が一カ所に固まることが出来たという証だった。
(切り札の用意も着実に進んでいる)
アリシアは作戦を開始する前、フェイト達には秘匿してなのはとレイジングハートに極秘の指令を送っていた。
(出来れば、使わずに済めばいい切り札だがな)
『CPよりYに確認。目標赤のカートリッジ残弾は残り1と見なしても良いか?』
『YよりCP。たぶん問題ない。僕の戦闘で三発使って、まだ奥の手を隠してる様子だったから』
『FよりCP。目標紫はまだ一発も使っていないよ。何とか、使わせずに済んだ』
『CPよりF。フォース・ワークス(上出来だ)。なら、第一目標は目標紫とする。Fは接近して格闘戦闘をただし無理に組もうとするな、力で押されそうになれば直ちに離脱しAかYの支援を受けよ。Aはそれを中距離でアシストしつつ目標紫が防御障壁を這った場合は直ちに障壁破壊を。YはFの防衛に専念しつつ、目標赤に対して多重バインド攻撃を敢行。身体が空いているときはなるべく多くの罠を張り巡らせろ。以上、行動開始』
『チーム了解』
ユーノのかけ声で、フェイトはバルディッシュを戦斧型のデバイス・フォームから大鎌のサイズ・フォームにシフトさせ、一直線に剣士シグナムへとつっこんでいく。
シグナムはその場から動かず、真っ正面からフェイトの一撃を受け二者はそこで停止する。
『CPよりY。目標紫にチェーンバインド。Aは6時方向に向けてランサー一斉射撃』
あくまでユーノに固執し彼に襲いかかろうとしたヴィータは、意識に入れていない方向から飛来したアルフのフォトン・ランサーに気をとられ停止を余儀なくされた。
そして、シグナムはフェイトと組み合うことで停止した動きにユーノからのチェーン・バインドの襲来を受けることとなった。
シグナムはフェイトとの鍔迫り合いを一時的に解除し、後方に動きそれから逃れる。
『Aは目標紫に対して再度バインド攻撃を。Yはディレイト・バインドを設置しつつ目標赤から回避せよ』
この一連により、敵はこちらの戦術が受動的戦術より能動的戦術に移行したということを理解したはずだ。
それでもヴィータは執拗にユーノに向かって攻撃を加え、射撃を受けたアルフに対しては睨み付けるだけで目標にすることはない。
(ならば逆にやりやすい)
敵は思ったよりも単純だとアリシアは笑みを浮かべた。
『YはFとFC(フォーメーション・チェンジ)敢行。Aは前方45°範囲内にランサーを乱射FC支援を。Fは移動しつつ目標赤に対しアーク・セイバー。』
シグナムから一時離脱するフェイトを追う形で彼女は速度を速める、しかし、接近するユーノが放ったバインドに進路を塞がれ、手に持つ剣でそれを切り伏せる。そのまま先行しようにもアルフがばらまくフォトン・ランサーにさらに進路を塞がれフェイトの追尾を諦めざるを得なかった。
シグナムと同じくユーノを追うヴィータもフェイとのはなったアーク・セイバーの不規則な軌道に翻弄されやはり目標の追尾を諦めざるを得なかった。
『Fは目標赤に対し射撃を主体に高機動戦闘。真正面からの近接戦闘を許可しない。FとYに対して続けて射撃支援。目標の行動が停止次第バインド攻撃を。Yは目標紫の攻撃を防御しつつAのバインド捕縛のサポートをせよ』
敵の攻撃方向はその者の意識の方向であるといっても過言ではない。特に近接攻撃を主体する戦士であればそれは如実の傾向として現れる。ならば、その敵の攻撃方向とは斜め後ろからの攻撃は等しく奇襲となる。たとえ、それが避ける必要もないような微弱な攻撃であっても、経験豊富な戦士であればあるほどそれに対する反応は機敏となる。
(すべてを利用し尽くす。敵の能力も経験も。すべて手中に収めてみせる)
作品名:【リリなの】Nameless Ghost 作家名:柳沢紀雪