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【リリなの】Nameless Ghost

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 なのはの曲解、もとい汚れ名のない視線にクロノは少し口を噤んで「むう」といううなり声を上げた。

「へえ、クロノ執務官は私を信頼してくれていたんだね。私も信頼しているよ、クロノ執務官」

 クロノとなのは達のちょうど真ん中を歩くアリシアは「ほう」と息をつき、ニヤニヤと笑いながらクロノちゃかした。
 クロノは下手に返したら墓穴を掘るだけだと経験則からそう判断し、肩をすくめるだけで特に何も返事を返さなかった。
 アリシアは少し面白くなさそうに口をとがらせるが、その仕草は後ろを歩く三人の笑いを大いに誘う結果となった。

「それにしても、改めてになるが随分久しぶりだね、高町なのは。まさか、一人であの手合いとやり合えるなんて思っていなかったよ。随分修練を重ねていたみたいだね」

 突然振り向いて後ろ向きに歩くアリシアに話しかけられたなのはは面食らってしまう。

「え、えっと……」

 なのははすぐに答えが返せず、隣のユーノをチラッと見る。

「アリシアがそうやって褒めるなんて珍しいね。僕も同感だけど」

 真正面から賞賛されることになれていないなのはの狼狽をユーノは少し面白く感じる。

「私もそう思うよ、なのは。凄いね、ずっと一人で訓練してたの?」

 フェイトも横から口を挟む。

「一人じゃないよ、ユーノ君と一緒に。ずっと見てて貰ったんだ。魔法がうまく使えるようになったのはユーノ君のおかげだね」

 なのはのその言葉に、ユーノは、

「なのはは優秀だからね。実際、僕は側で見ているだけで、それほど役には立っていなかったよ」

 そう言って自身の功績を否定するが、なのはは一生懸命首を振って「そんなことない」と必死になってユーノを讃える事例を取り上げるが、その必死な様子に皆の笑いを誘うことになってしまう。
 なのはは恥ずかしそうにしながら、不満に頬をふくらませる。

「さて、惚気話はそこまでにして。功労者達の見舞いと行こうじゃないか、諸君」

 アリシアは仰々しくそう宣言し、クロノの開いたデバイス保管庫にメンバーを率いるように立ち入った。

「あ、みんなきたね。ちょっと遅いぞ」

 若干照明が暗めに落とされているデバイス保管庫でコンソールを前に負傷したデバイス達の症状を確認していたエイミィは、そう言ってクロノ達を出迎えた。

「ああ、済まなかったなエイミィ。少し話し込みすぎた」

 クロノは軽くエイミィに詫びると、エイミィからコンソールを受け取りそれを確認した。

「レイジングハート!」

「バルディッシュ!」

 クロノ達の立つコンソールの前のケースに浮かぶ相棒の状況を見て、なのはとフェイトはあわててそれに縋り付いた。

「ごめんね、レイジングハート。私がだらしないせいで」

《Don't worry, master. if the end is good all is good. In fact, because of your one shot that battle was stopped》(気にしないでください。終わりよければすべてよしです。実際、マスターの一撃が戦闘を停止させたのですから)

 それはいつかの皮肉だったが、今ではそれは確かな慰めとなる。なのははそんなレイジングハートのデバイスらしからぬユーモアに、目尻に滲みかけた涙をぬぐい声を上げて笑った。

「バルディッシュも。ごめんね、私がもっとうまく扱えていれば……」

《Don't mind, sir. You were perfect》(お気になさらずに、サー。サーは完璧でした)

 寡黙な戦斧のデバイスはレイジングハートのようなユーモアは口にしないが、確かな言葉でフェイトの功績をたたえた。何より、あの手合いを前にして自分自身を小破で済ませたフェイトは確かに賞賛されるべきことだ。

「それで、状況はどう? リミエッタ管制」

 他のメンバーをそっちのけでデバイス達と健闘を讃え合う二人の少女に安堵しながら、アリシアはエイミィに回収されたデバイス達の状況を確認した。
 ユーノもエイミィの隣に立って、コンソールをのぞき込み少し複雑な表情を浮かべた。

「損害はそれほどでもないんだ。ちゃんと修理すれば元に戻る程度で、システムにも負傷した箇所はないから。だけど……」

 と、エイミィは浮かない顔をして新しいモニターを起動させ、彼女が危惧している情報を提示した。
 そこには、つい数時間前まで彼らが相対していた敵の映像が映し出されていた。正確には、彼女たちが使用していたデバイスに焦点が当てられている。

「結局、こいつらが使ってたデバイスっていったい何なんだい? 魔法自体も何か違ってて、バリア抜きがかなり厄介だったよ。それにあの弾丸みたいなやつは?」

 壁に背中を付けて腕を組むアルフが口を開く。彼女は戦闘中は積極的に連中にとりつき、その防御を崩す役割を担っていたため、その防御に使用されている術式の異質さを特に感じていたのだろう。
 ユーノも彼女たちが魔法を行使する際に足下に現れる魔法陣がミッドチルダ方式の円形とはかけ離れ、三角形を織り交ぜた形式であったことに疑問を持っていた。
 そして、あの形式の魔法にどこか記憶にあるような気もしており、少し感触の悪い気分が続いている状態なのだ。

「ユーノなら、分かるんじゃないかな?」

 アリシアはそう言ってユーノに目を向ける。ユーノは、考え事をする時の癖なのか、指で眉間をこつこつと叩きながらしばらく目を閉じ沈黙していたが、漸く合点がいったのか「あ!」という言葉と共に目を見開いた。

「ひょっとしてあれは。ベルカ式魔法?」

 ベルカ式と聞かされて頭上に疑問符を浮かべるメンバーだったが、その中で唯一頷いたのがクロノだった。

「さすがに知識だけは豊富だな。ユーノの言うとおり、あれはベルカ式と呼ばれる魔法だ。ミッド式とは源流を同じにするだけで全く異なる術方式をもつものだ。特に……」

 とクロノは先ほどエイミィが立ち上げた映像を操作し、彼女たちの持つデバイスが独特のアクションを行う場面をピックアップして投影した。

「このベルカ式カートリッジと呼ばれるものが厄介だ」

 その言葉になのはもフェイトも深く頷いた。

「そうだね。あの赤い子もこれを使ったと思ったらものすごい力で襲ってきてた」

 白煙の中、爆発的に高まる魔力と、それに応じてパワーを増したあのロケットハンマーを思い出し、なのはは包帯が巻かれた腕をわななかせた。

「うん、あの剣士もそうだ。バルディッシュがおられた」

 フェイトはその悔しさに拳を震わせる。自分の相棒が傷つけられたことだけではない、彼らはその力で最愛の人たちを傷つけた。特になのはを、姉であるアリシアを。

「このカートリッジがベルカ式の最大の特徴とも言えるんだ。あのカートリッジは魔力が込められていて、激発すると一瞬で爆発的なエネルギーを得ることが出来る」

 漸く拾い集められた記憶からユーノはそう説明を続けた。