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【リリなの】Nameless Ghost

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「だが、その不安定さと危険性から結局ミッド式に競り負けてマイナーになった。今では、ベルカの騎士と呼ばれる者達の一部が使用するだけにとどまってる。とてもじゃないが、デリケートなインテリジェント・デバイスに組み込めるようなものじゃない」

 クロノはそう断じて、モニターを閉じた。

「対策が必要だね。少なくとも、連中の攻撃に耐えられるぐらいの強化は必要だと思うよ」

 アリシアはそう言うと、起きたてで少しだるく感じる身体を壁に寄りかからせ、そのままずるずると床にしゃがみ込んだ。膝を立てて座る彼女の脚の隙間からはむやみに見せるものではない布地を伺うことが出来るが、緊張に包まれた部屋の中にはそれを咎める余裕のある人間はいない。

「ともかく修理を優先に。対策は、その後に考えることにしよう」

 クロノはそう言うと、エイミィにデバイスの修理部品の発注を命令し、なのはとフェイトに声をかけた。

「どうしたの? クロノ君」

「君とフェイトには会って貰いたい人がいるんだ。フェイトの保護観察責任者になる提督だ」

「ああ、確かグレアム提督だったね。そう言えば、今日が面接だったかな」

 アリシアは、膝頭にあごを預けながら地球での戦闘でうやむやになってしまったスケジュールを思い出した。
 フェイトは確かに裁判には無罪となったが、それは数年間の保護観察を置いてのことだった。そして、その処置はこれからその責任者となる管理局の重鎮との最終面接をクリアした後に与えられるものだ。
 つまり、先ほどの戦闘がともすればフェイトにとって余り良くない結果を生み出すことにもなりえたのだから、今になってアリシアはフェイトを連れてきたことは失敗だったかと思う。
 だが、既にグレアム提督との面識を持つアリシアはあの提督がその程度のことで決定を翻したりはしないとも推測することが出来た。

「それじゃあ、僕たちは行く。後のことは任せたぞ、エイミィ」

「じゃあ、後でねユーノ君、アルフさん、アリシアちゃん。それにレイジングハートとバルディッシュも」

 なのははそう言って手を振りながら保管庫をあとにしクロノについて行った。

「それじゃあ、私は修理部品の発注に行ってくるよ。みんなはどうする?」

 エイミィは、コンソールから必要部品のリストをメモリーに抜き出し部屋を後にしようとする。

「僕は少し休憩しようかと。アルフは?」

 漸く一段落したことにユーノは肩の緊張を抜き、先ほどまでは分からなかった疲労にため息をついた。

「あたしもちょっと休ませて貰おうかな。アリシアも来るだろう?」

 アルフは部屋の隅で膝を立ててうずくまるアリシアに目を向けるが、アリシアはひらひらと手を振ってその申し出を断った。

「なんだか身体が怠くて。少しここで休憩させて貰ってもいいかな」

 そう言えば話の途中でへたり込んでしまっていたことをユーノは漸く気がつくことが出来、少し心配そうに彼女をのぞき込んだ。

「大丈夫? アリシア。何なら部屋まで運ぶけど」

 ユーノはそうアリシアに提案するが、アリシアは「そんな大げさなことじゃないよ」と笑ってその申し出も遠慮した。
 見たところ顔色もそんなに悪くなく、医者先生からも問題なしと太鼓判を押されたことからエイミィも出るときにはロックをかけていくように言って、ユーノとアルフと共に部屋を出た。

「何かあったら呼ぶんだよ? あんたに何かあったらフェイトが心配するからさ」

 去り際にアルフが心配そうにそう言い残すのにアリシアは「アルフは心配してくれないの?」と悪戯っぽい笑みを送り返し、真っ赤になって憎まれ口を叩くアルフを見送ってしばらくクスクスと笑い声を漏らしていた。

「さてと……」

 アリシアはそう呟いて、静かになった保管庫を見回した。先ほどまで人の声に満ちていた小さな部屋は今ではダクトが排気する空気の音と、コンピュータの駆動音のみが響く空間となっていた。
 アリシアは少し難儀した様子で立ち上がり、服についたほこりを軽く払うとその視線の先に浮き上がる三種のデバイスに目を向けた。
 レイジングハート、バルディッシュ、バルディッシュ・プレシード。その三つのデバイスは、まるでアリシアを待っていたかのように一瞬明滅し彼女の行動を見守った。

「なにか、話がありそうな様子だったけど、私の勘違いじゃないよね?」

 アリシアは三機が保管されている特殊硬化樹脂ケースに歩み寄り、もう一度その側に腰を下ろした。
 彼女がこの部屋にとどまりたかった理由は確かにデバイス達に何か相談事があるのではないかという予測からだったが、実際身体の疲労が限界に達しつつあることも事実だった。
 実際、彼女の幼い身体は先ほどから睡眠を要求し、しょぼつく瞼を彼女はこすりつけ何とか彼らの話を聞く用意を調えた。

《The elder sister who doesn't have a tired place excuse》(お疲れの所申し訳ありません、姉君殿)

 バルディッシュのどこか恭しい物言いに、アリシアは薄く笑みを浮かべ、バルディッシュのねぎらいに礼を述べた。

《It is Lord Rasingheart and Balldish that have consultation. Is it possible to hear a story from two? Your hightness
》(相談があるのはレイジングハート卿とバルディッシュです。話は二人から聞いていただけますか? ユア・ハイネス)

 プレシードはそう言うと、何度か光を明滅させそれ以降沈黙を守った。どうやら、スリープモードに移行した様子だ。主を前にしてそれは少し不義ではないかとバルディッシュは一瞬思うが、自身の姉が主であるフェイトの姉からまともに魔力供給を受けていないことを思い出し、それは自身の保全には必要なことだということを思い出した。
 そう考えれば、自分自身はなんと主に恵まれていることか。バルディッシュは改めて自分がフェイトのデバイスであることを誇りに思い、レイジングハートの言葉を待った。
 やはりこういうことは目上に譲るものだ。人間ではないデバイスであってもそういった配慮は存在し、やはり自身も圧倒的な活動年数を誇る主の友人のデバイスを前にすると僅かな気後れを感じるようであるとバルディッシュは自己診断をした。

《I can say …… and Balldish could not have won with me. It will have won to the battle but it is the victory of Alicia. We are Alicia, losing》(私は……いえ、私とバルディッシュは勝てなかった。戦闘には勝利したでしょうが、それはアリシア嬢の勝利だ。我々は敗北したのですよ、アリシア嬢)

 普段のテンポの良い会話は、どうやら成り立ちそうにないなとアリシアはどこか悲痛な叫びのように聞こえるレイジングハートの言葉にそう感じ、表情を改めた。