【リリなの】Nameless Ghost
クロノが追っていたもの。それは前回アリシアの不意を突き――あれはアリシアがあえて誘導しそうなった結果だが――彼女のリンカーコアを収集した魔導師を捕縛する事だった。
ユーノの索敵に頼ることが出来ず、駐屯所のエイミィの力を借りることでようやく発見できた彼女だったが、逮捕を目前にした寸前、それに介入するものがあった。
「あの仮面の男。いったい、何者なんだ?」
現在駐屯所の電算室ではエイミィがその解析を行っているはずだった。あれも、騎士達の一員なのだろうか。いや、吹き飛ばされる寸前に見たあの魔導師の表情から察するに、彼らは初対面であるはずだ。
「三つ目の勢力ということか。忙しくなるな」
特に最重要案件である闇の書を目前にして回収に至れなかったことが最大の失態だとクロノは判断する。
作戦失敗の責任は誰にあるかと言われれば間違いなく自分にある。
わざわざ本局より優秀な武装局員の一個中隊を借り受けて立案した本作戦。騎士達を閉じこめ、全員の捕獲までは行かないにせよ、最低一名の捕獲と闇の書の奪取。そのどれもが成し遂げることが出来なかった。
AAA+ランクの自分、AAAランクの魔導師二人と、推定Aランクの魔導師二人を投入してさえ成し遂げられなかったとあってはなんの言い訳の言葉も浮かんでこない。
(アリシアなら。何とか出来ただろうか? 初見とはいえ、前回は今回に劣る戦力しか持たずフェイト達を勝利に導いたアリシアがここにいれば、結果は変わっていたんだろうか?)
しかし、アリシアを戦場に投入しないことを決定したのは他でもない自分と母、リンディだ。いくら有能とはいえ、幼児の域を脱しない少女を戦場に送り込むことは出来ない。
だが、そんな管理局の正義や自分たちの倫理観でこの場を危険にさらし、今後さらにこの世界や他の世界に与える危険を増大させることになってしまったことも事実なのだ。
今後、さらに犠牲者は増えるだろう。今のところは人的な被害は出されていないが、追い詰められた彼らが最終的にどのような手段を講じるのか、それを推測することは容易にも思えた。
(いったい僕たちは、何を優先しないといけないんだ。管理局の正義か? 次元世界の法か? 自分たちの既存概念か? それとも、この世界の安全か?)
この世界の安全と自分たちの正義感。それのどちらが果たして優先するのか。クロノは答えをだす事が出来ないまま駐屯所への転送を開始する。
嵐の過ぎ去った町並みは、それまでそこで何が行われていたのかも知ることはなく、ただ日常という名のノイズの渦へと埋没していった。
作品名:【リリなの】Nameless Ghost 作家名:柳沢紀雪