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【リリなの】Nameless Ghost

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 なのははその鉄球の向かう先が自分だと気付いた瞬間、照準機をそれらの一発一発に合わせ各個迎撃を開始する。
 幸い、その鉄球の軌道は非常に単純でなのははヴィータに照準を合わせながら別の照準機で鉄球に狙いを付けることが出来たが、その分ヴィータに対する照準が甘くなってしまう。

「今度こそ!」

 甘くなった弾頭軌道。それを最後のチャンスとばかりにヴィータは推進器を点火し、ユーノへと襲いかかる。

「ラウンド・シールド!」

 ユーノは先ほどの間違いを犯さないと歯を食いしばり、バインドの構成をキャンセルしそれらのリソースをすべてシールドへと叩き込んだ。

「フォース・ワークス! 貫けぇぇぇぇ!!」

 ヴィータもそれが最後の手段。すべての力を込めて発射されたハンマーはインパクト時においてもフレームをスライドさせカートリッジを激発させる。
 これは、あの時と同じだ。
 ユーノはそう判断し、すぐさまバリア・バーストを敢行させる。

 爆発と閃光。そして、まき散らされる魔力の奔流に一瞬フィールドがホワイトアウトし、レイジングハートのアクティブ・レーダーもヴィータの姿を見失う。

「ようやく、捕まえた!!」

 その声がしたのはなのはの背後だった。
 振り向いたなのはの目に映るのは、バリアバーストの余波に晒されジャケットに穴を設けながらも猛禽類のごとく視線を浴びせつつグラーフ・アイゼンを振りかぶるヴィータの姿だった。

《Protection》

 なのはの判断では間に合わないと悟ったレイジングハートは自身に備えられた自動防衛機構を発動させ、障壁を生み出す。

 なのはは驚きを隠せなかった。この少女は、いったいどれほどの戦力を秘めているのか。鉄球を放つことで自分の照準を甘くさせ、その隙にユーノに襲いかかる。そして、ユーノのバリアバーストを見込んだかのようにその余波に紛れ本来の目標へと肉薄する。
 まだ、全然駄目だとなのはは実感した。これだけやってもまだ相手を制御下におけない。むしろ、自分たちがいいように活用されている。
 1+1を3や4にするのが戦術ではあるが、彼女はこちらの1+1を2以下にしてしまった。それもまた戦術のなせる技なんだ。

 プロテクションを直接叩かれ、なのははその衝撃のままに吹き飛ばされ、その先に未だ困惑して立ち止まるユーノに向かってぶつけられた。

「ぐぅ。な、なのは……」

 飛来するものがなのはだと確認したユーノはシールドを貼ること共出来ず、所々ヒビの入ったバリアジャケットでなのはを受け止め、かなりの距離を後退させざるを得なかった。

「ゴメン、ユーノ君。油断した」

 肩口を思い切りユーノの腹に撃ち込んでしまったなのははすぐさまユーノから離れ、彼に顔を合わせることも出来ないまま謝る。

「だ、大丈夫だよ……ゲホ、ゲホ。これぐらい、へっちゃらさ」

 やせ我慢をしている事はなのはにも理解できた。ユーノの咳き込みに違和感を感じるのは、ひょっとしたら骨に異常を与えてしまったのかもしれない。すくなくとも身体の中がでんぐり返っていることは確かだろう。
 この状態でユーノに前衛をさせるわけには行かない。かといって今の状態では、とてもではないが自分が彼女と接近戦をやり合うことは出来ない。

(積んじゃったかな?)

 かたかたと震えるレイジングハートの先端はなのはの感情を如実に物語る。

 しかし、すぐさま襲いかかってくると思われたヴィータは何故か明後日の方を向いて念話で何者かと会話をしているように思えた。

 そして、ヴィータは「チッ、シャマルのドジ!」と呟くと、改めてなのは達の方へと向き直り口を開く。

「あんたら、防御しといた方が良いよ」

 ヴィータのぶっきらぼうな物言いに、一瞬「えっ?」と言葉を失うなのはだったが、次の瞬間、強装結界の頂点から響き渡る轟音に上空を見上げた。

「なに? あれ」

 それは、全天を覆う半球状の結界の頂上になにやら真っ黒な雷が落ちたような光景だった。それは、結界に阻まれ、まるでボールの表面を伝って地面に流れる水流のように分解されていくが、その圧倒的なエネルギーを前にして強装結界は徐々にヒビを生み出していく。

「ま、守らなきゃ……」

 いち早く状況を察知したユーノは印を結び、なのはを抱きかかえ地面へと急降下を敢行した。

「とりあえず勝負はお預けだ。だけど、次会ったら……命の保証はしないから」

 命の保証はしない。そう言ったヴィータの声がとても悲しいものに包まれていたのはユーノの気のせいだったのだろうか。
 そして、彼女が去り際に『楽しかったよ、イージス。また、会おうな……』と念話で話しかけてきたように思えたのはユーノの錯覚だったのだろうか。

 ともかくユーノは念話でフェイトとアルフを呼び出し、四人で円陣を組み考え得る限り最高の結界を構築しその災害に備えた。

 黒の雷が結界を打ち破り。漆黒の波動が激流となってユーノ達を襲いかかる。

『目標撤退。追尾開始!』

 ノイズだらけの通信を通してエイミィの声が彼らに届けられるが、彼らがそれに耳を傾けていられる余裕はどこにも存在しない。

 時間にして数秒の爆撃。しかし、それは結界を保持するために魔力を放出し続けたユーノ達にとって100年にも思える時間だった。

 霧が晴れるように徐々に輪郭を取り戻していく視界。結界が破られ、光が戻っていく町並み。ユーノ達はバリアジャケットを解除し徐々に雑踏を取り戻して再生していく町並みの中にたたずみ空を見上げた。

「負け、ちゃった……」

 なのはの呟きが星のない空へと消えていく。

「エイミィ、追尾は?」

 いつの間にかなのは達の側に下りてきていたクロノが独白のように呟く。

『ごめん、間に合わなかった……』

 現実を取り戻した街の中にモニターを生み出すわけには行かず、エイミィの声は念話の回線を通じてのものだったがクロノには彼女が今コンソールに突っ伏して自責の念に駆られている様子が目に映るようだった。

「そうか……ご苦労」

 クロノはエイミィに慰めの言葉を掛ける間もなく武装局員全員へ念話回線を開き速やかに撤収することを決定した。

「ごめんなさい、クロノ。止められなかった」

 人気のないところに向かう途中、フェイトは重々しく口を開きクロノに詫びた。
 アルフもそれに同意するように口を噤み表情に暗い影を落とす。
 ユーノとなのはがヴィータとやり合っていた時、同時にフェイトとアルフはシグナムとザフィーラと相対していた。実質的な一対一。ある意味望んだその状況にフェイトは善戦したが、その刃先が終ぞシグナムに届くことはなかった。
 フェイトとアルフの連携は完璧だったとクロノも思う。しかし、相手の連携はその何倍も熟練したものだったというだけだ。むしろ、あれだけの歴戦の勇士達を前にして無事に戻ってこられたことこそが何よりもの功績だとクロノは確信する。

「いや、フェイト達は完璧だった。なのはとユーノもね。今回は僕の失態だ。僕が油断していなかったら、あの爆撃は無かったはずだから」

 クロノは手を握りしめた。