二次創作小説やBL小説が読める!投稿できる!二次小説投稿コミュニティ!

オリジナル小説 https://novelist.jp/ | 官能小説 https://r18.novelist.jp/
二次創作小説投稿サイト「2.novelist.jp」

【リリなの】Nameless Ghost

INDEX|90ページ/147ページ|

次のページ前のページ
 

 その後ろでクロノは「ふう」と安堵の溜息を吐き、こっそりと彼女から離れた位置に移動した。

『貸しにしておくよ、クロノ』

 アリシアはそう言ってこっそりクロノに念話を送り、クロノも今回ばかりはアリシアに助けられたと肩を下ろし、

『今度何か食事でもおごるよ』

 と約束した。

「どうして知っていると聞かれてもねぇ。『イリアスティール・コースタス』英語の綴りはこうかな?」

 アリシアはそう言って空間上にモニターを生み出し、そこに『Iriasteal Coastas』の文字を浮かべた。

「うん、そうだねぇ」

 アリシアによって興味の矛先をそらされたロッテはそのままひょこひょことソファに座り、そのモニターに目をやった。

「ここでちょっとしたパズルをしてみると……」

 アリシアはそう言ってモニター上の文字をいったんばらばらにしてそれを再び並び替え始める。

(というか、アリシアちゃん。いつの間にこんなの作ってたの?)

 というエイミィの考えも尤もだが、ひとまずクロノとリーゼアリアも含めてその行く末を見守った。

「つまりは……こういうことだね」

 『Iriasteal Coastas』のアルファベットが先頭から順番に異なる配置に入れ替えられ、そして最終的に出現した『Alicia Testarossa』に面々は感心したような、何処か複雑な表情を浮かべた。
 正確に言えば引いていた。

「つまり、イリアスティール・コースタスと私アリシア・テスタロッサは同一人物でしたー。どう? びっくりした?」

 その表情は悪戯が成功した子供そのものだった。エイミィはそれを見て「うわぁ、可愛いな」と呟くが、その声はリーゼロッテがチャブ台返しよろしく目の前のテーブルを思い切りひっくり返した音に阻まれた。

「あんたかぁーーー! 小包にマタタビ爆弾仕掛けて送りつけやがったのは!!」

 ドンガラガッシャンという景気のいい音と共に宙に舞うティーセットを空中で受け取りながらクロノは『なにやってんだ、このガキ』と言わんばかりの視線をアリシアに投げ付ける。

「提督に対する贈り物のついでだよ。アリシアの名前で一緒に送っておいたブライア根のパイプには何も仕掛けられてなかったでしょう?」

「確かに、あれはお父様のお気に入りになったけど。だからといって私たちにあれは無いと思う」

 リーゼロッテと共にその餌食になったリーゼアリアも怒りにガタガタ震える腕を懸命に押さえながらついでに震える声でアリシアに抗議した。

 アリシアにとって、グレアムとは何かと恩のある人物だった。法的な保護者となってくれたリンディと同等、自分の法的後見人として戸籍の復活のために裏から手を回してくれた人物であるし、フェイトの保護観察の責任者となってくれた。
 このままして貰いっぱなしも何か感触が悪いと、アリシアはリンディ付きの民間協力者になった初任給をやりくりしてリンディと共にグレアムにも贈り物をしたのだ。
 グレアムが煙草を吸うかどうかは分からなかったが、イギリス紳士が感じのいいパイプを持っているだけでも絵になるだろうなと思い思い切ってそれを贈ることにしたのだ。
 ベルディナは、煙草と名の付くものは何でもやっていたので、それの善し悪しに関しては下手な愛好家よりもよっぽど造詣が深いのだ
 グレアムのお気に入りになっていると聞いてアリシアは嬉しく思う。

 しかし、グレアムに対する感情と双子のリーゼに対する感情には割と乖離がある。

「さて、ここでクエッション。アースラに逗留していたとき、リミエッタ管制主任やリンディ提督が勝手に撮ってた私の記録映像を裏で勝手に流して居た誰かさんの行為と私の行為。どちらが許し難いことだと思う?」

 そう、それは歴然とした復讐だったのだ。それを言われてはリーゼロッテは口を閉じるしか無く、実質的にそれには関わりのないリーゼアリアは姉妹のしでかしたことに恨みがましい視線を向ける。

「君たちはそんなことをしていたのか。まあ、とにかくこの件は喧嘩両成敗だな。リーゼ達は責任を持ってそのデータを回収して処分すること。アリシアはこの件をリンディ提督に報告する。減給なりなんなり懲罰は提督の方から追って下されることになる。いいな?」

 アリシアは誰にも与せず、誰のいいなりにもならない。やられたことは等しくやり返すし、作った借りは必ず返す。故に何があっても敵に回したくない類の人物なのだが、唯一彼女が命令に従うと言えばその直接の雇い主であり保護者であるリンディだけだろうとクロノは理解していた。
 故にアリシアに対するペナルティーはリンディによって直接下されるのが一番効果的なのだ。

 実に見事な執務官お裁きを受け、リーゼ姉妹共々アリシアも「ははぁーー」と平伏して了解した。リーゼ姉妹が素直にクロノに従うのも、このことを父グレアムに報告されればたまったものではないからだ。

「さてと。本題と行こう」

 ひっくり返されたテーブルをひっくり返した本人とその原因にやらせ、紅茶を入れ直して一息ついたところでクロノはようやく今日の本題に移ることを宣言した。

「リーゼ達には前もって伝えておいたことだけど。このアリシアを無限書庫で色々と手伝って欲しいんだ」

 座りながら上体を前屈みにし、両肘を膝の上に着きながらクロノはリーゼ姉妹の表情を伺った。

「それはいいんだけど、あたしらも教導とかお父様の手伝いとかあるから、常時無限書庫詰めは無理だよ」

「それに、書庫といってもあそこはどちらかと言えば倉庫。雑多なアナログ媒体の情報がまったく無秩序に仕舞われているだけだから、特定のことに関して調べるのは正味無理があると思う」

「十人単位の捜索隊が組織されて、数ヶ月かけてようやくそれらしいものが見つかるかどうかだからねぇ」

 二人の言い分は無限書庫の現状を如実に示すものだった。

 無限書庫。インフィニット・ライブラリィ。管理局が設立される前よりそこにあり、それはどういう作用かは不明だが、次元世界に存在する情報を本という媒体で保存する機能を持つ巨大データベースだ。誰がいつ何を目的にして作り出したのか。それさえも不明で今となっては管理局の誰もその実体を把握していないという状況だった。

 しかし、あらゆる情報が埋葬されているのなら適切な方法でそれが発掘できれば、ありとあらゆる情報を事前に入手することが出来るはずなのだ。
 何度かそれが試みられたが未だ無限書庫の有効活用が現実的なものとなった試しはない。
 発掘隊が任務後に口にする言葉は「あれは、巨人の胃袋だ」というらしい。
 ただひたすらに情報という名の餌を食らい、途方にもなく肥大化した巨人。まるで自分たちはそれと一緒に飲み込まれた餌のように感じられるとも言っていたとリーゼアリアは呟いた。

「なるほどね。巨人か……、色々な童話でかかれてるけど。巨人を倒すのは身体の中に侵入した小人というのがセオリーなんだよね」

 リーゼ達の言葉がアリシアをその気にさせるための策略であるのなら、それは全くの大成功だと言えるかもしれない。