Antinomy
結局試合には負けた。
当然のように我らがリーダーは怒り狂い、日向とユイはこっぴどく叱られていた。
そりゃあそうだ、あと少しで天使に一矢報いることができたかもしれなかったのだから。
小言で始まったゆりの説教は段々とヒートアップする。
「だからアンタ達はバカなのよ!」
ユイは不貞腐れながら「だって日向先輩が~」と反論し、日向も「俺は悪くないぜ!?このデスメタル野郎が…」とかなんとかわめいている。
俺はその様子を横目で見ながら…訂正、主に日向の横顔を見ながら、ぼんやりとした安心感に包まれていた。
日向が消えなくてよかった。
日向は俺がこっちに来てから初めてできた友達だし、冗談を言い合ったりもするけど、まだこの世界に慣れてない俺に何かと気をかけてくれるいい奴だ。
『大事な親友だから』
でも本当にそれだけかと問われると、きっぱりと肯定できない自分がいる。
日向が消えそうになったあの一瞬、俺の中を色んな感情が駆け巡った。嫌だとか、消えるなとか、寂しいとか。
結果日向はユイに邪魔されてボールを捕れず、この世界に留まったわけだけど。
でも、普通、同性の友人相手にそこまで思うものだろうか?
言い訳みたいに親友だからとかいい奴だからとか並べているが、俺は本当は、日向のことが…
「音無くん!」
ゆりの声にはっとして、一時思考を中断する。
いつの間にか下げていた顔を戻すと、彼女の怒りの元凶である「バカ」2人は、どうやらまた懲りもせずに取っ組み合いをしているらしい。
「あなたからもなんとか言ってちょうだい!!」
行き場のなくなったその怒りが俺にまで矛先を変えてきた。
「…まあ、バカは死んでも治らないって言うしな」
こいつらが死んだはずなのに(恐らく生前からずっと)バカである事実が、その言葉の信憑性を裏付けていた…日本のことわざって的を射ているもんだな。