ソルジャー淡々と覚悟を問う
クク、と喉を愉快気に鳴らす。さっきまであんな眼をしていたのが嘘みたいで戦人は戸惑いを隠さずにはいられなかった。もっとも、相手の手により密着した身体と身体との距離は本当に狭かった所為もあるのだが。銃を突き付けられた時よりも心拍が上がっているのが本当に情けなかった。
「何とか言って下さいよ、戦人さん。俺、告白してるんですぜ?」
頬に置かれていた手が再び降下し、顎先へとスムーズに掛かった。そして俯き加減だった顔を十三の目線まで強制的に持ち上げられる。
「この儘黙ってるんだったら、この口塞いじまいますよ?」
十三の唇が戦人の唇に迫った瞬間、羞恥心に耐え切れなくなったかのように反射とも言える動きで戦人が飛び退いた。顔面はすっかり紅潮している。
「おや?」
つまらなそうな声が漏れるも、戦人の顔色を見る隻眼は満足そうである。
「ばっ……ばばばっ、ばばば…バカかお前は…!!どど、どどどどどういうつもりだよ!?」
「坊ちゃん、ドモり過ぎです。」
「うるせぇ!!!」
「ほらほら、そんな所で立ってねぇで。どうせ船が揺れたら俺の胸の中にダイブイン!なんですから。」
「不可抗力だぁあああ!!!もう絶対にしねぇよ!!」
けらけらと笑う十三からそそくさと戦人は船室を出て行った。風に当たると言うのだろう。外の方が揺れを感じると思うのだが。そんな事を考えながら十三は戦人の背中を見送った。
さっき銃を突きつけたのは、勿論本気じゃない。そこまでの覚悟を持つと言うのなら、どれ程のものか、ちょっと意地の悪い方法で試してみただけだ。己は戦場を生き抜いてきた経験がある。死ぬ覚悟がある奴は、非常に強い力を発するが、こと切れた瞬間、死ぬ。そんな人間を幾度も見て来た十三は、あんな言動をした。ちょっとした実験だった。この人の意思は、如何なものかと。そしたらどうだ。予想外な反応が寄越された。
誰も居なくなった空間で十三は人知れず嗤う。愉しそうに楽しそうに。
そして、己が仕える主人が断言した「死なない」と言う信念を貫き通す為に、自分は何があってもあの人を護ろうと、十三は覚悟を決めたのだ。
ソルジャー、淡々と覚悟を問う
作品名:ソルジャー淡々と覚悟を問う 作家名:こt