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a dog in wolf's skin

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えー……、…さて、いきなりですが俺は困っています。それは何故でしょう。

1、膝の上に何か乗っかっているから。
2、乗ってるのが男だから。
3、更にその男が無防備過ぎるから。

正解は全部です。意地悪問題でしたスンマセン。とにかく、俺が困ってるって事はこれで伝わりましたかい?まぁアレだ。言いようによっては、ラッキーとも言えるんですけどね。いや、このお預け食らった状況は結構辛ぇと言った方が正解です。はぁ、全く。こいつはァどうしたもんだ。





a dog in wolf's skin





船の揺れに合わせて膝上に乗った自分以外の身体が緩い振動を伝える。潮臭い海風を頬に受けると、在り来たりにも気持ちいなぁ、等と思いながら同様に下方に居る我が主も擽る風に促されるよう視線を下げた。独特の赤髪が緩やかに靡くのを見下ろしぼんやりと眺めていると、多少もぞもぞと身じろぐ仕草に思わず溜息が出ちまった。
ええとね、あんた。一体何処までリラックスしちまってるんですかい。

先刻、船室で俺は主であるこの青年に銃を向けた。殺意こそは毛頭無かったが銃口は確りと彼の額を定めて。なのにだ、恐怖を露にする所か堂々たる虚勢を張ってみせたのだ、このお人は。強がってるってのは容易に分かりましたよ、ええ。だって普通銃なんか向けられたらビビりますよね、普通。それでも、俺が見たものは彼の確固たる覚悟、死なないという意思だ。いやぁ、ホントに――…面白い。
俺は惹かれるようにこの人の頭髪へと手を伸ばし軽く撫でつける。すると、何処か気持ち良さそうに表情が緩んだ。犬とか猫とかみてぇだな、とか漠然と思いながら髪から皮膚へと手を潜らせ頬へと指先で辿り徐に柔らかな肉を引っ張ってみる。今度は不快そうに表情が歪んだ。おぉ、やっぱり面白ぇ。俺はこの程度なら手を出した内に入らないだろうと飽きもせずに小さな刺激を与え続けていると静かな寝息が呻きへと変ったのでここらで自粛しておくことにした。いけねぇいけねぇ、早速期待を裏切る事になりかねん。
そう言えば、何でこのデカイお坊ちゃんがゴツい俺の膝枕でなんか寝てるっていう、人間の歩んできた歴史からして比較的稀有であろうこの状況の経緯を説明してなかったな。











甲板に出る、って言ったこの人を俺は少ししてから追い掛けてみた。そうしたら、案の定と言うか何と言うか手摺りにがっしりと捕まってガタガタ震えてたモンだから手助けとか心配とかを忘れ面白くなって一頻りゲラゲラと笑っていた。
ふと我に返ると、視界に入れた相手が正しく涙目で睨んでいたので―……、いや、睨んでいたから我を戻した俺は笑いを引き摺りながら漸くフォローに入った。
「ほら、やっぱり俺の胸に飛び込みたくなったでしょう?」
おや、可笑しいな。俺としちゃフォローのつもりだったんだが、睨みが凄んだ気がするのは気の所為だろうか。気の所為じゃねぇな。止めて下さいよ、そんな顔。苛めたくなっちまうじゃないですか。

「へっ、へへ……それだけは断じてねぇな…!」
俺が来た事により多少意地が出たのか屁っ放り腰宜しくしてた背筋をちゃんと伸ばして立つという、人類的に基本的な姿勢を取り出す。まぁ語調も平素を保とうとして……いる努力は認めてやりましょう。ぎこちないのは誰が見てもバレバレですけど。ちょっと坊ちゃん、そんなに力んでたら手摺りの強度も下がっちまって、あんたが不安がってる海へと真っ逆さまですぜ?
緩く溜息を付きながら相手の元へと足を運べば先刻の悪ふざけが過ぎた所為か多少警戒されるように改めて身構えられた。…まぁ、仕方ないか。一方の俺は構わず距離を詰める。手摺を必死で掴む主人の隣に悠々と位置しては、のんびりとした所作で手摺に両腕を引っ掛け、軌道に乗ってきた船の速度をひとしなみに楽しむ事にした。おぉ、やっぱり速いと風が気持ちい。
俺が海外を飛び回ってた頃を何と無く思い出してちょっとばかり懐かしさに浸った。海やら太陽やらって言う自然のモノってのは変わらないかと思いきや、意外とその土地独特の匂いを持っていやがる。南国辺りなら湿度が高かったり、ヨーロッパはやっぱ寒いっつうか、ひんやりした空気だった。特にフランスのは―……あぁ、あんまり思い出したくないから止めにしよう。日本であるこの地は結構落ち着く気がするのは、やはり母国だからだろうか。等と、取り留めなく考えていた。

さして距離のない隣の相手の事は窺わず、眼下の海波へと視線を下げながら伸ばしっ放しにした前髪で此方の様子が汲み取りにくい右目のみを動かす。見え難い視界の端から見えた表情は何処か居心地が悪そうな、渋みを帯びた具合だった。
さてさて、18歳とも言えば多感な年頃だと聞くが一体何を思ってそんな表情になっているのやら聞きたい所ですね。大体察しは付きますが。
原因は間違いなく俺で、考えてる事も俺の事だろう。でも俺は意地が悪い奴なので、敢えてその件には触れずにどうでもいい世間話に興じる。外は気持ちいですねぇ、とか。最近ガッコはどうですか?とか。全ての返答は生返事で、表情を眺めている限り不満と言うか不服と言うか、煮え切れないと言った感情が増している気がする、と思った矢先、相手の口が動いた。

「―――なぁ、天草。さっきの……」
「はい、何でしょう?さっきの?」
「とぼけるなよ。だから、……あー…その、…さ。」
初々しいもんだ。実に歯切れが悪い。あからさまに目線を逸らさなくてもいいだろうに。そんでもって目が泳いでますぜ。戦人坊ちゃんは高校生だって聞いていたが俺の記憶ミスだろうか。しかし何だ。余計にからかいたくなるってもんだ。俺は漸く相手へと顔を向ける。
「俺は鈍いモンではっきり言って頂かないと分かりませんなぁ。」
「絶対嘘だろ!てめぇ、性格悪ィぜ。」
「ヒャッハ、控え目だって言ってくださいよ。」
「あんだけの事しといてよく言うな、この口は。」
――あんだけの、か。そう聞いて疑問が過ぎる。心当たりが有り過ぎた。



「どっち、ですか?」
「え?」
「だから、あんたの中で悶々としちまってるのは、銃を向けた事?俺の告白?あぁ、それともキスしようとしたことですかい?」
「――なっ、」
反射的に相手の顔に熱が集まる。ほうほう、この反応は後者か。銃を向けた事に対してはそこまで意識してなかったのだろうか。こいつは大物だな。少し愉快になって小さく笑う。
「怒ってないんですかい?」
「……どれだ?」
「んー、…銃向けたこと。」
少し、双眸を見開いた後、相手の表情が引き締まった。
「そりゃ、驚いたけどよ……別に怒ってはいねぇ。実際撃たれてねぇし。」
「ふーん?」
「それに、お前が俺に銃向けたのって俺が甘い覚悟でいねぇかって試したんだろ?あそこで撃たれちまってたら、いずれお前にじゃなくても殺されるかもしれないしな。そんな運命ならあの時殺されちまっても、仕方なかったんじゃないかって、今は思う。」
「………。」
「でも、お前は撃たなかった。」
「ええ。」
「逆に、銃を向けられたからこそ俺は俺の目的を果たさなきゃ、って意思が固まった気がする。だから、サンキュ。」
作品名:a dog in wolf's skin 作家名:こt