a dog in wolf's skin
快晴、とは言い難い雲が疎らに広がる上空を仰ぎながら、この生殺し状態を只管耐えていた。ちょっと前の俺ならあんな言い付けを守る事なぞする訳もないだろうが、今正に俺の膝上で寝ているこの人に「イヌ」だと断定されちまったもんだから、手が出せない。あぁ、くそ、何故だか手が出せない。おいこら、そんな幸せそうな顔で熟睡してるそこの。感謝しろよ右代宮戦人。あんたの忠犬はこんなにも忠実で名犬ですぜ。
「―――言い付けは守りますけどね。」
視線を降ろし、頬の上に乗せた儘でいた手を横髪へと沈める。するりと髪質の感触を楽しみながら眠る相手の表情とか、風を受ける全貌とか、そんなのを眺めて身を僅かに曲げ額へと静かに口付けを落とす。
「でも、"飼犬に手を噛まれる"って言葉もあるって事、忘れちゃいけませんぜ。」
噛む、までは行かなくとも、じゃれる、くらいはご覚悟下さいよ。まぁ今は、舐める程度で我慢してやりましょう。
俺のキスなんか全然気付く素振りもなく、規則的な寝息を立て続ける青年から身を離し前方へと瞳を動かす。見ればまだ遠くではあるが視線の先に黒い影が窺えた。漸く島が見えてきたようだ。起こすべきかどうか少し迷った末に慌てて飛び起きる姿を見るのも面白そうだと思い、まだ寝かせてやるかと判断する。
早朝にはまだ存在も希薄であったの太陽は空の真ん中へと順調に進んでおり、時間の経過を感じた。
果たして、六軒島にもこの日の光とやらが届くものなのだろうか、とか無意味な事を過ぎらせるも深く考えるを止めた。
俺はこの人に付いて行くだけだ。その結果どう転んでも構わない。最後までとことん付き合ってやりましょう。それが、イヌと飼い主の、正しい姿ってモンだ。そうでしょう?
そして、船は進んでいく。
a dog in wolf's skin /
作品名:a dog in wolf's skin 作家名:こt