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光の速さで、私達は。 蛇足。

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身動きが取れない。

取ってもいいのだが、どうしても末端まで動かせなかった。
瞬きも忘れ暗闇の中でただひたすらに与えられる感触を辿る。

額にエリザベータの唇が押しつけられているのを理解するのは早かった。

「んだよ、お前さんは」
「序幕にはヌルいでしょう」
「なぁにが序幕だ。…嫁入り前の娘が何してんだ」
「寝込み襲ってんのよ」

悪びれなくそのものズバリで言われて、サディクが怯む。
軽口叩いて、この後バカ言ってるんじゃないという反論を待っていたのに。それどころかストレートに言われて、呆気に取られてしまった。

「分かるでしょう?」
「分かるかってんだ!」

いつもだったら。サディクは一瞬だけそう思ったが、すぐに頭を振った。
いや、むしろ今で良かったかもしれない。

通常の自分だったら、間違いなく冷静でいられなかったと思う。
それでなくとも、自分は思うところあってエリザベータを手に入れている。
美しく成長するに従って、他の誰にも奪われたくないという気持ちが湧きあがらない訳がない。ここまで鍛えたのはほかならぬ俺だと自負出来るくらい、エリザベータとはやりあっている。

自分が弱ったのは仕方がない。
事実だ。

が、目の前で情が沸いた者をまざまざと持っていかれるのであれば、今の機会に乗じて食らってしまえばいい。が、それでいいのか。

様々な思いが降って湧いて、次の思考に入れ換わる。

「おい、エリザ、いい加減に…」
「…気にしないでいつもの通りヤればいいじゃない」

微動だにしないサディクを気にしてか、いつの間にか腹の上に跨っているエリザベータが訝しげに声を上げた。
とは言え、彼女もこういうのは初めてな筈。動揺する頭の中、彼女の顔が窺えない事は唯一勿体ねぇなとサディクは一人ごちた。

「おい、いつも通りってなんでぃ」
「綺麗なお姉さん連れ込んでるじゃない」
「…」

そりゃ全盛期の話しだろうが!…という言い訳が勿論聞くとは思っていない。
が、少なくともエリザベータが来てからサディクは露骨に女を連れ込む事はしなくなった。(しないとも言わないが)ヘラクレスになんと言われようとも、教育上良くないとちょっとは思っていたのだ。

エリザベータが来てからの約150年。
色々面倒くさい事もあったなと反芻し始めた矢先。

「私じゃ不足って?」

声に何かが含まれていた。その湿った声には覚えがある。

「そんな」

そんな事ねぇと、否定するつもりだった。


最初に訪れた変化は頬。
しっとりと冷えた細い指先が触れたのを皮切りに、耳の傍で彼女の長い髪が落ちた音がした。
唇に触れる感触は、なんとも言い難く、それと同時にわずかに湧き上がる罪悪感に、サディクは目を細めた。