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【一時間SS】夜空に響く、涼の…

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【一時間SS】夜空に響く、涼の…

「はぁ、今日も一日疲れたなぁ。」
 真っ暗な公園のベンチにもたれかかって、つぶやく。
 いつのまにか、一日の仕事が終わって家に帰る道の途中のこの公園で一休みすることが半ば日課になっていた。
 あまり明かりのない、夜になると不気味なほどに暗くなる公園。もちろん、普通の女の子は寄りついたりしない。
 少し怖いけど、人気のないことが僕にはなにより一番都合のいいことだ。

 アイドル活動を始めた最初のうちは、女装したままの姿を家族に見られるのは気まずいからと、公園のトイレで着替えをしていたのだけれど。
 最近は、女装のまま帰っても平然と出迎えられるようになった。
 売れてきたのが認められてるのは嬉しいと言えば嬉しいんだけど、僕の中ではそれで納得したくない気持ちもどうしても残っているわけで。
 ご近所の目もあるし、出来る限りは、男装に戻ってから家に帰りたいと思ってる。

「さてと、そろそろ着替えるとするかな…。」
 着替えを入れた袋を抱えて公衆トイレに向かおうとしたとき、こちらに近づいてくる足音と、女の子の声がしてきた。
「たぬ五郎〜! ジブンが悪かった! 戻ってこい、たぬ五郎〜!」
 な、なんだこの女の子の声は! やたらと大きくて通るぞ!
 そして女の子は、夜の暗闇の中でもギラッと光るような瞳を僕に向けるやいなや、さささっと近づいてきた。
「ねえ、君、君! たぬ五郎を見かけなかったか? ジブンのペットで、タヌキなんだけど…。」
 物凄い勢いで問い詰められる。
「い、いや、見てないよ。」
「そっかぁ…。どこ行っちゃったんだろうなぁ…。ねぇねぇ、一緒に探してくれない?」
「え、えーと…。」
 ど、どうしようかなぁ…。でも、この子なんだか真剣そうだし、こんな夜の暗い公園で一人で探させるなんて危なくてしょうがないよな…。
「わ、わかった。一緒に探すよ。」
「ほんと? キミ、とってもいいヤツだな! あとでたぬ五郎のエサのさつまいもをあげるよ!」
「ええっ? い、いいよそんな。」
「遠慮するなって、ホントに美味しそうに食べるんだぞ! あぁっ、それを見てついジブンがさつまいもを食べちゃったから逃げられちゃったんだよな…。」
「いや、だからいいって。とにかく、早く探そうよ。もう夜も遅いし。」