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【一時間SS】夜空に響く、涼の…

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「そうだね。いや、ほんと助かるよ。正直、女の子だけじゃ心細かったし。」
 やっぱそうだよね。いくら元気そうに見えても、こんな暗くて寂しいところを女の子一人だけでなんて…。
 え? あれ?
 いま、この子、『女の子だけじゃ』って言った?
「あっちの植え込みのあるあたりが怪しいと思うんだ。一緒に来てくれない?」
「う、うん。」
 聞き間違いかな、うん。まだ僕は女装のままだし。男の子だなんてバレてたら、あんな余計に暗がりになってるような所に一緒に来てなんて言わないよな。
「たぬ五郎〜! ジブンが悪かった〜! タヌ五郎〜!」
「あ、あれ!」
 暗い中で、ビー玉のように光る目を二つ見つけた。僕が指さすと、女の子は、獲物に襲い掛かるネコのように夜の闇の中でしなやかに身を伸ばし、そして、タヌキをがっしりと掴んでいた。

「もう逃げちゃだめだぞー、たぬ五郎。」
 ペットのたぬきにそう話しかけながら、女の子は運搬カゴにたぬきを押し込めた。
「いや〜、ほんと助かったよ。キミ、名前はなんて言うの? ジブンは響。我那覇響って言うんだ。よろしくっ。」
「あ、はいっ、よろしく…。私は、秋月涼と言います。」
「ふ〜ん、涼って言うんだ。男らしい、いい名前だね!」
 え? 男らしい?
「それにしてもキミ、よく見てみたら、どうしてこんなところで女装してるの? げげっ、キミ、もしかして変態? 夜の公園によくいるという、女装変態か?!」
「ち、違うよ違うよ…。そ、そもそもどうして女装だと思うの?」
 そんな、女装だなんてバレたこと一度もないのに?
「アハハ、何言ってるんだよ。君はどこからどうみたってオトコノコじゃないか。でも、ちゃんと化粧もしてるし、女の子の格好もちゃんと似合ってて可愛いじゃん、キミ。ひょっとしてアイドルやれるんじゃない?」
「いや、あの、その…、実は…。」
「え? 君もアイドルなの?」
「え? ということは、響さんも?」
 そう聞くと、響ちゃんはとても力のこもった、魅力的なまなざしを僕にくれた。
「そう、ジブン、我那覇響。カンペキなアイドルさ。」

 そして響ちゃんは、「今度はキミのことを教えてよ!」と強引に迫ってきて、僕がアイドルを始める顛末からどうしてここで着替える羽目になっているかまでを根掘り葉掘り聞いてきた。
「ふーん、女装アイドルってのもタイヘンなんだなぁ」