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欲しいなら与えよ

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さて、いきなりですが問題です。紀田くんは今何をしているでしょーか。
ナンパ?惜しい!普段なら大抵当たり。正解率86パーセントは切ってる解答なんだが、違ぇんだなーこれが。
ナンパはこれからする予定。しかし一人じゃない。加えて連れは帝人じゃあない。さて、誰でしょう。
ヒントは俺と同じ趣味を持つ年上の野郎。趣味、って言うとどのナンパにもマジで本気なあの人に怒られる気がするが、まぁここは一つ置いておこう。


人混みからすっかり見慣れた癖のある茶髪を見付けて、俺は背中を預けていたコーヒーショップの壁から身を浮かせた。夕方の池袋は休日程ではないが人が多い。とは言え、あの人は割と長身なので例え制服姿でも目立つのだ。まったくナンパを組む相手としては申し分ない、イッツパーフェクト。しかし正直な所悔しい気持ちがあるのも確かだ。

ではでは、正解にご登場頂こう。

「おう。お待たせ、正臣。」

ヘラりとした緩い笑みを浮かべる男の名前は六条千景。俺のライフワークであるナンパで引っ掛けた、いやいや、運命的な出会いをした女子に同時に声を掛けたと言う妙な縁。最初こそはお嬢さんを巡り火花バチバチの戦争展開が繰り広げられるかと思ったが、何故か意気投合し連むようになった訳だ。まぁアレだ。ナンパするのならば、一人より二人がいいし、無理やり付き合わせていた帝人に文句を言われることもなくなったので結果オーライ、怪我の功名と言えよう。


「遅いっすよー、千景さーん。罰として夕飯は千景さんの奢り。」
「2分遅刻しただけで?!」
「この120秒でどれだけ俺の目の前に麗しいお嬢さん達が通り過ぎたと思ってるんスか!その中に運命の相手がいたかもしれないのに!」
「それはごめん。謝る。マジで、ガチで。」


俺の冗談としか取れない発言にも関わらず、途端マジ顔になるサマに思わず小さく笑う。
千景さん、あんた本当に女の子ラブだね?まぁ俺もそうなんだが。
でも違う。同じ事を同じ風にしていても確実に俺と千景さんのナンパには相違点がある。分かり易く言えば、千景さんにはたくさんの彼女たち、俺は一人身。つまりはそーゆーこと。
しかし、俺はこの状態が不満ではない。実際、エレガンスキューティな美女達と俺は話すだけで十分だし、年が上だの下だのはこだわらない。その時楽しめればそれでいい。まあ余り相手にされないのがタマに傷と言うか、寧ろ殆どスルーでロンリーナイトコースなのだが!年配のご婦人方はお優しいんですぜ?こんなガキにのんびり付き合って下さる。


人と会話をするのは好きだ。会話ってのは話す相手がいないと出来ないだろ?そこには確実に自分の居場所が存在する。例え、ほんのひと時でも。だから、俺はホッとするのだ。俺がナンパをするのはそんな理由。なら男でもいいのではないか?フフフ、馬鹿め。そんなの愚問だ。どうせお話するならむさ苦しい野郎どもより、華があるお嬢さん方の方がイイに決まってンじゃんよ。


「んじゃ、行きましょっか」
「おう」

俺の言葉をきっかけに本日もめくるめくナンパタイムが開始された。









欲しいなら与えよ










「正臣、最近放課後忙しそうだね?」

昼休みの事だ。帝人が聞いてきた。隣には杏里が慎ましやかに自作であろう弁当箱をつついている。お馴染みのメンバーでの仲良しランチタイムは一年の時から続いており、今日も変らず三人揃って屋上にいた。早々にコンビニのパンを食い終えた俺は食後のデザートならぬ紙パックのジュースをベコりと鳴らせてからかう笑みを作る。

「何だよ~帝人ー。やっぱり放課後も俺がいないと寂しいのか~?」
「いや、ナンパの惨敗記録がどれくらい更新されたのか気になって。」
「………お前の言葉のナイフの切れ味は絶好調だな。」

仕掛けたつもりがこの反撃。帝人…お前はそんなにカットアウトな奴だったか!?ガクりと肩を落とし、ほぼなくなりかけたパックをベコベコ鳴らす。全く、こいつの所為で紀田くんの繊細なハートもべっこべこっすよ。そんな俺の様子を見てか、杏里が食べる手を止めて、おずおずと口を挟んできた。

「……あ、あの……私は、…やっぱり紀田くんがいないと…寂しい、です。」

ああ、杏里は可愛いなぁ。ホント俺が入学当初から目を付けただけはある。ソーキュート。可愛いだけじゃなく気も使える。少し大人し過ぎるけどそこもまた魅力。更に言えば豊満なボディラインもまた、艶かしくてグッド。

「あーーもう杏里だけだぜーーー俺のドライなハートを癒してくれるマイえんじぇ~!杏里はホントにいい女だな~優しくてー可愛くてーエロくてー」
「まっ、正臣っ!!?だからエロはないよ、エロは…!」

俺がデレデレになりハートを飛ばす勢いで語気を弾ませ杏里に擦り寄れば、慌てた帝人が直ぐ様引き離しに掛かる。当の杏里は困ったように赤くなりながら俯くだけだ。もう見慣れた光景で、当たり前で、日常。
だから、俺は杏里に恋をしてはいない。杏里に触れてドキドキしたり、杏里を思って胸が苦しくなったりはしない。そんな感情抱けたら日常ではないのだ。勿論、好きか嫌いかと聞かれたら大好きレベルまでいくと答えるさ。それ程に杏里はイイ子でいい女だ。だが、その役目の席は既に埋まっている。そこにいる意気地なしの席だ。ならば俺は謹んで身を引くだけだ。

帝人は杏里に恋をしている。
俺がさっき言った、杏里に関してあらゆる事でドキドキする筈だ。あいつの挙動は大変分かりやすい。ならば俺より全然あいつの方が杏里に好きと言える権利がある。いいですねぇー青春真っ盛りって感じじゃないですかぁ~?
まぁ俺は普段から杏里に愛をアピってはいるが、この「カップル成立!」にも「告白して破局!」にもなっていない現状をみると、まぁそういうことだ。俺の愛はそんなものと言う訳だ。


勘違いしないで欲しいのは、俺が生半可な気持ちで杏里と付き合いたいと言った訳ではないという事だ。
俺が「付き合って!」と言う子にはいつだって本気だし、真剣だ。付き合うとなった子には俺が持てる限りの愛情を一心に注ぐし、大事にしたいし、愛したいと思っている。

ただ、俺は「君以外もう何もいらない」とか「君以外何も見えない」と言った情熱的な、互いが互いしか必要としないような燃え上がる恋愛をした事がない。付き合った子は何人もいるのに皮肉な話だ。『ラブハンターまさ』とも名乗る俺が。

なんとなく、少し落ち込んだ気分になって俺は飲み終えたパックを丸め捨て、調子に乗り「膝枕して癒して~」とか言いながら杏里の膝の上に寝転んだ。帝人が声にならぬ音を出すのが分かった。やい、帝人。さっきのお返しだ。ざまあみろ。




情熱的、と言えば浮かぶ顔がある。千景さんだ。あの人はマジで、彼女達は疎か、声を掛けた女も全員、本気の愛を注ごうとする。正直有り得ない。非常識だ。しかし、千景さんの周りにいる『彼女』とやらのお嬢さん方は文句を言いつつも幸せそうだし、千景さんが新たにナンパをしても何だかんだ言いつつ一緒にいる。……改めて、有り得ない。


「………すげぇー……よなぁ……」

作品名:欲しいなら与えよ 作家名:こt