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杏里の膝枕。柔らかな太腿に頭を乗せた状態の俺。見上げればローアングルナイス角度から見えるデカい乳が。
ぼんやりと出た俺の呟きは見事に誤解を生むことなった。杏里の顔が真っ赤に染まっていて、バックに見える青空といいコントラストを演出している。
俺は一瞬やべぇ、と思ったが慌てる態度は俺じゃない。何食わぬ顔で「エロ可愛いぞっ!杏里っ!」と親指をグッと立て言おうとした瞬間、俺の頭に星が舞った。



―――……帝人、お前……、中々いい拳、持ってんじゃんよ………















夕方、帝人と杏里に挨拶をして一足先に学校を出るとする。無論、ナンパに行く為だ。呆れを隠しもしない帝人に顔を寄せ「お前も杏里と放課後デート出来てラッキーじゃん。」と言えば見る見るうちに染まる顔にニヤついた笑みを浮かべる。今一理解していない杏里に一瞥をやり、再度すっかり固まった帝人を眺めファイトを送るべく肩先を数度叩いた。

「じゃーねーーお二人さん!また来週!!素敵な週末を!俺は千景さんと美女たちに囲まれるゴージャスウィークをレッツ・エンジョイしちゃうから!!帝人、明日休みだからって持ち帰んなよ?」


背後で聞こえた、まるで日本語になっていない叫びをBGMにしながら俺は最早日課となった千景さんとの待ち合わせ場所に向かう。
お持ち帰り、まあ絶対そんな展開にならねぇけどな、奥手くんたちにゃ。どっちかっつーと帝人の一方通行だし、両思いにでもならない限りあいつには女を食う度胸はないだろう。しかし端から見ていい感じの二人なのは確かで、もし二人が付き合うなんて事になったとして、だとしたら俺はどうするんだろうか。


……ここまで考えたのだが不毛な気がして止めた。










「やーー!!今日は沢山の可愛いお嬢さんとお話出来て良かったですね!」
「全くだ!お茶は出来なくとも実に有意義な時間だったな!間違いない!」

やけにテンションが高い語調で男二人が深夜も近いファーストフード店を賑わす。つまり俺と千景さんであり、俺たち二人であり、女子の姿と言えば夜勤に当てられた店員ぐらいで、元々少ない店内の残りはパートナーと言うコブ付きばかりだ。俺たちはカップル達を避けて人がいない二階の一角を陣取った。
しくじりました。休日前の夜だと言うのに、いや、休日前の夜だからこそ?しくじりました。女子のグループはまぁいた。ええ勿論、声を掛けましたとも。数も打ちましたとも。しかし何故だか今夜は悉く惨敗で結果はご覧の通り。普段はここに千景さんの彼女たちがいて、嗜めたり励ましたり、この儘カラオケでオールしましょ!ってな展開になったりするんだが、予定でもあるのか今は二人きりと言う悲しい事態だ。
暫くは自棄になったように本日の出来事をさも勝者気取りで話していたが、どちらとともなく溜息が漏れ、重なった。


「なんで今日千景さんのハニーたち、いないの?」
「何か今日彼女たち機嫌悪くて、『ナンパならろっちー1人で行ってよ!』の満場一致でよ。」
成程、今日揃いも揃って千景さんのハニー達がいない訳だ。この人にしては珍しく女心が分かってない。どうしたんスか?
「そりゃ週末だから皆デートしたかったんでしょ。」
「…………俺は馬鹿か。」
「何で千景さんってモテてるの?」

まるで悪びれもなく言い、向かい合う二人席に浅く腰かけながら俺は紙コップに刺さったストローを弄ぶ。向かいの千景さんときたら俺の発言が効いたのか片手で顔を覆い項垂れている状態だ。その姿をチラりと見て苦笑を漏らす。

「彼女たちじゃなくて、俺とナンパな週末を選んじゃったから今日は駄目だったのかもねー」
「……………俺は馬鹿か。」
「ンな事言わないで。しかも二回も。紀田くんじゃあ役不足ですか?」
「――――だってお前野郎じゃん…!」
「まごーことなき野郎ですけど。」

当然のようにしれりと返せば返答に困ったのか今度はテーブルにずるずると突っ伏した。炭酸が抜けかけたコーラを啜りながら沈没している姿を眺め俺は思う。ハニー達がいないならいないで、これは調度いい機会かもしれない。

「ねぇねぇ、千景さん。」
コップの底で頭部を軽く叩く。結露した水滴が千景さんの額を滴り顔を顰められた。億劫そうに顔を上げ「何だよ?」と問われる。あ、結構沈んでましたね?俺が相手じゃ不満ですかやっぱり。
「千景さんはさ、あんだけいる彼女たちのこと本気で愛しちゃってんだよね?」
「今更何を。当たり前だ。」
「全員?平等に?分け隔てなく?」
「当然だろ、全員大事な俺のハニー達だ。平等とか差とかはねぇよ。あるのは最高値だけ。」
「わお、流石と言うか何と言うか!懐がデカいなぁ!ろっちーカッコいい!」
「何なんだよ、いきなり囃し立てて。煽てても奢らねえぞ。」
「あっはっは!乗せられませんか!?……―――や、……………やっぱすげぇなって思ってさ。俺無理だから。」
「……―――正臣?」

突っ伏した顔を少しだけ上げ怪訝そうに千景さんが双眸を細めているのにも気付かずに、俺は頬杖を付いて今まで付き合った女と、とある女を思い出す。
俺は、唯一の一人ですら、全力で愛せては、いない。
彼女に会うまでの俺はどうしようもないクソ野郎で、何と無く好きだと言って、何と無く付き合って、何と無くまぁ寝て。何と無く別れる。俺が他の女に目移りした所為もあったし、相手の方から見切られたり、その逆だったりと、そんな繰り返しだった。
正直に言おう。あの時、俺の持っちまった小さな、しかし中坊の双肩には重くデカい組織に、俺は天狗になって酔った気分と、どうしようもない不安の二つを抱えていた。正直、不安定だった。その為に恋愛は御座なりになっちまっていた節もある。
そして「私だけを見て!」と泣いて縋る女は苦手だった。俺は彼女を愛しているつもりなのだが、彼女が求める愛とやらは異なるようで、やはり俺の愛情の希薄さを知った。
「君以外何も目に入らないよ」とかいう恋愛は、憧れちゃいる。だから口にするけど今の俺じゃ誰も本気にしないだろう。俺も信じない。
とある女―――、沙樹と付き合った時はそれに近い感情に近付けたんじゃないかと思った。しかし、思っただけだった。結局、俺は自分が可愛かった。でも信じてくれ。俺は、いつでも全力で好きだった。でもしかし、だ。千景さんといると思い知らされる。俺の愛は、実に実に薄っぺらい。

「ッつべてっ!?」

声を上げたのは俺だった。一気に身を引く。何時の間にか身体を起こした千景さんが氷の入った紙コップを俺の頬に押し当てていた。視線を合わせれば面持ちを渋めた儘此方を見つめている。微かに濡れた頬を軽く拭って口を開いた。

「なーにすんスか?構ってほしいの?」
「馬鹿どっちが。………なんかあったのか?」
「え?何も?」

嘘は言っていない。今日だって変わらず普通の日だった。ただちょっと羨望とか嫉妬とか疎外感とかを勝手に感じていただけだ。だがしかし、失敗はしていない筈だ。少しボーーッとした程度だ。

「お嬢さんたちとラブラブナイト出来なかったから、ちょとブルー入っちゃっただけっすよ~」
作品名:欲しいなら与えよ 作家名:こt