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欲しいなら与えよ

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ヘラりと板に着いた笑いを乗せながら、すっかり氷が溶けて薄まったコーラを再び啜る。俺は千景さんが「全くだ、折角の週末だってのに男二人なんて最悪だ」とか同調してくれるのを待っていたのだが、当の千景さんは目を逸らさぬまま此方を凝視している。
困った、予想外だ。


暫しの、沈黙。

なくなり掛けたコーラを吸い上げるストローと、氷が擦れ合う音が響いた。


……えーと、そんなに見詰められると紀田くん照れちゃう、とか何とか、言っとけばいいだろうか。って言うか割と迫力あるんで、怖いです。
やがて、少し困ったように眉尻を下げる表情になると短い吐息が聞こえた。

「…言いたくないならいいけどよ、悩んでんなら力になりてぇんだよ、その……一応大事な相棒だし、今夜はお前に付き合ってやっても……」

千景さんの途切れ途切れの言葉に思わず返答を忘れ双眸を広げる。すると向かいの顔がハタと我を戻したように一寸目が開かれ、次いで罰が悪そうに逸らされた。
自分で言うのもアレだが俺はポーカーフェイスには自信がある。確かに今はちょっと油断していたかもしれないが、大抵の人間ならば誤魔化しが利くし今回も大丈夫だと思った。思ったのだが。


俺は僅かに笑みを漏らす。


「…大事な相棒?今夜は俺と過ごしてくれんの?週末の夜に?俺と二人?」

念を押すように、または煽るように、何故か照れている顔を覗き込む。

「っあーー繰り返すな!……だから!そりゃハニー達も大事だけど、お前だって心配だっての。だからお前が元気ないなら週末ぐらい返上してだなぁ?」

焦ったように捲し立てる言葉に俺はすっかり肩先を震わせていた。それを見て、千景さんが「うぐ」と黙る。
何であんたは「俺が元気ない」って分かっちまったの?しかもあんたのハニー達怒ってんでしょうが。フォローせずに俺に付き合うと?何だよ、あんたは俺にまでその最高値で平等な愛とやらを下さるというんでしょーか。全くもって凄い人だ。尊敬するよマジで。
俺は片手で顔を覆い声にならない笑いを堪えている。千景さんの表情は見えないが、恐らく面白くない顔をしているんじゃなかろーか。「笑い過ぎだ!」と言う声が聞こえるので予想が付いた。
漸く笑いが収まった頃目を合わせると、眼前の人間はすっかり拗ねていた。何それ可愛いんですけど。

「ごめんごめん、千景さん。今夜は俺と過ごしてくれンの?」
「ヤならいい。」
「まさか!俺感激で泣きそうだよ!涙出てきたもん!ほら!超泣ける!!」
「嘘付け!すっげぇ笑ってんだろうが!!それは笑い涙以外の何物でもねぇ!」
「あはははは!!やー、付き合ってくれるついでに一つお願い聞いてくんない?」
「スルーすんな!聞けよ人の話を!!」

伸ばせば直ぐ触れられる距離。そろりと片腕を卓上に伸ばす。

「お願い、聞いてくんない?」
顔から笑みを薄めると千景さんも先刻までの騒がしかった空気を消し、向き合った。

「………何だよ、言ってみろ。」
「俺ね、欲しいものあんだ。」

ニコりと笑んだ後、唐突に襟元を掴んで強引に此方へと寄せた。するとガタイの割に意外と簡単に此方の言う事聞いてバランスを崩す。
「―――っん!?ンんぅ……ッ?!」
驚愕に見開かれた瞳を堪能するよりも先に唇を塞ぐ。ふわり、と鼻孔を擽るローズ系の香りは明らかに女のモノだ。ンにゃろ、俺に会う前にこんな場所に残り香を置いていくような事をしてやがったな。何か腹立っちまう俺は一体何なんですかね。
そっと舌先を滑り込ませ歯列をなぞる。ピクりと千景さんの肩が震えるのを確認して、口裏の窄みまで丁寧に丁寧に犯す。けれど舌は絡ませない。ちょっとコーヒーの味がした。さっきまで千景さんが飲んでいたものだ。物欲しげに千景さんの舌が震えたのを見計らって唇を離す。うん、何だ、中途半端に止めた所為か予想通りエロい顔してんな。

「――――――――っは…ぁ、…はぁ……っく……な、おま……何し」
「俺にもさ、ちょーだいよ。」
「………は?」
「千景さんの愛、俺にもちょーだい?」

襟元を掴んだ儘まるで何が起こっているのか分かっていない表情の相手を暫し堪能。いやはや、イイ驚きっぷりっすね。かく言う俺も結構自分の行動に驚いている訳だが、キスしたくなったんだからしょうがない。しょうがないとか、こんな考えをしている時点でガキだなぁと思う。思えば俺はいつも奪ってばかりで、与えるの下手くそだ。奪うだけ奪って与えないなんて、本当にガキだ。
ゆっくりと、拘束していた襟を離して距離を取る。千景さんは放心した儘だ。ちょっとちょっと、そんなにショック受けることはねえんじゃねえの?

「俺も、与えられるように頑張るから。」
「―――――――――?」
頬杖を付きながら呟けば、口元を押さえた儘の瞳が此方に寄越される。
まるで何だか分かってない表情。うん、それでいいよ。分かんなくていい。

「千景さんは居場所もくれるしさ。」
「………何の話だよ…?」
「千景を愛しちゃいたいなぁって思ったの。」
「―――――――っ!?ばっ…!お前呼び捨てんな……!」
「……突っ込むとこ、そこ?」

なら愛してもいいって事ですか?
そんな言葉を呑み込んで未だ混乱から抜けきれない千景さんの姿を一先ず眺める事にする。今週末はどうやら楽しめそうだ。いいか?千景さん、誘ったのはあんただってことをお忘れなく。すっかり空になった紙コップの細かい氷をガラガラと数度鳴らし近場のゴミ箱へと放る。結局俺たちは、千景さんのアイスコーヒーの紙コップがふやけてグニャグニャになっても席を立たず、やがて「閉店ですよ」と店員に声を掛けられるまでソコにいた。
作品名:欲しいなら与えよ 作家名:こt