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雪見の現

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「あはは、何をおっしゃいますかヌシサマ。自分の胸に手を当ててよーく考えてくださいよ。貴方様のこれまでを。」
「・・はあ、静、離れて。」

静雄が格子から離れると、奈倉が手で印を組み、何事か呟いた。すると、スッと檻の中を満たしていた空気が変わる。正臣の言う結界が解かれたのだろう。静雄はなんとなく名残惜しい気がしたが、檻の中に入り込んだ正臣が静雄の胸に飛び込んできたため、それ以上のことは考えなかった。ふわり、暖かい日の香り。奈倉より遥かに暖かい温もりに気が緩む。

「あちゃー、けっこう濡れてますね。ま、いいや。静雄さん眠いでしょう?着替えメンドイでしょう?このままお昼寝しましょう。そうしましょう。」
「いいのか?」
「俺今日はもうお仕事終了につき無問題、ノープロブレム、オールオッケーです。服も乾きますし、静雄さんも俺もぽかぽかラブラブハッピーエンドですね!」

静雄には正臣の言っている言葉の内容はよくわからないが、力いっぱい抱き締めてくる正臣に嬉しくなり、ふわふわの狐耳に顔を埋めた。柔らかく毛並みのいいそれは静雄のお気に入りだ。正臣の背中に遠慮がちに緩く回された静雄の腕に正臣も答えるようにふさふさの尻尾を絡めた。暖かい。眠い。くすぐったい。

「正臣、くすぐってえ。」
「静雄さんこそ耳の近くで話されるとこそばゆいですよ。」

笑いながら会話を交わして、どちらからでもなくじゃれあいながら布団に倒れこんだ。一通りふわふわの感触を楽しむと、本格的な睡魔が静雄を襲い始め、静雄は微睡みに身を委ねることにした。そこでようやく成り行きを見守っていた奈倉はむくりと起き上がり、音をたてないように2人に近づき、すぐ傍に腰を下ろした。

「・・仲良いよね2人とも。普通主を仲間外れにするかなあ?」
「しー、ですよ奈倉様。静雄さん眠りたいんですから。」
「はあ、新しい着物着たとこ見たかったのに。」
「まーた赤いやつでしょう?たまには、別の色の物でも着せてあげたらいいのに。」

静雄を起こさないように、小声で会話する正臣と奈倉。正臣は、静雄に抱きついたまま目を閉じている。奈倉が話しかけるのを止めればすぐにでも寝入ってしまうだろう。奈倉は文句を口にしつつも穏やかな表情で静雄の髪を梳いた。ゆったりとした時間が流れる。窓が無い檻の部屋からは見えないが外はまだ雪が降っているはずだ。窒息してしまいそうな白で音も色も塗り潰していく。黒と赤と白の空間には、安らいだ静雄の寝息と、2人の声、わずかな衣擦れの音だけが存在していた。

「緑・・青竹色とか鶯色とか、ああ、水浅葱や藤色なんて似合うんじゃないんですか?毎回赤い着物ばっかじゃあさー。まあ似合ってますけど。」
「新しいのは銀朱。今着ているのは深緋。模様も違うし、色々見たいから用意してるのに。まあ、いいか。明日着てもらうよ。それにね、正君。静に一番似合うのは白だよ。」

正臣の髪を撫でる奈倉の手に気付き、正臣は目を開けた。視界にいっぱいに映る赤い着物。奈倉の声はいつもと変わらない。ただ、ほんのすこしの違和感を正臣は感じた。今の奈倉の表情はどんなものだろう。そう思いつつも正臣は、少し濡れている赤い着物だけを視界に映し続けた。

「雪の中一人で佇んでいる静はきれいなものだったよ。あれは、人ではないとすぐわかる。誰だって一目見てすぐにわかるさ。それくらいきれいだった。きれいだったんだ。」

それを知っていいのはたった1人だけであることを正臣は知っていた。

「・・・・、奈倉様。」
「なんだい?正君。」
「今日だけ特別です。奈倉様も一緒にお昼寝してもいいですよ。」
「・・・うん、ありがとう。正君は優しいね。」

正臣の言葉に一瞬固まった後、奈倉は嬉しそうな笑顔で正臣を一撫でし、静雄の髪にそっと口づけて立ちあがった。

「残念ながら本家に呼ばれていてね。帰ってきたらお邪魔することにするよ。」
「そうですか、まあいいです。それまで静雄さんは俺が独り占めしてますんで。どうぞ、ゆーっくりしてきてください!」
「うん、前言撤回しよう。正君はもっと主に対して優しくあるべきだ。」
「寝言は夢の中ででもほざいててください。さっさと行ったらどうなんですか?」

お互いに薄く笑みを顔に引きながら、器用にも小声で罵り合いのような戯れをする2人をよそに、静雄は深く深く、眠りの奥で息をついた。
作品名:雪見の現 作家名:がーと