美少女オタクと鏡音レン
12月27日
12月27日。
今日、初めて俺たちは世の中に出た。
俺たちがやってきたのは、生まれ故郷から遠く離れた片田舎。ネット環境もまだADSLという僻地。けど、そこに、今日から俺たちのマスターとなる人が居る。
まだ会っていないけれど、どんな人だろう。俺は期待半分、不安半分で、リンとダンボールが開けられるのを待っていた。
ガムテープがべりべりという音を立ててはがされた。心臓が飛び跳ねた。
ダンボールのふたが開き、顔を覗かせたのは、無精ひげの生えたのおっさんだった。きれいなおねえちゃんかと期待していただけに、すげぇがっかり。
いやいや、そんなことを言ってはいけない。たとえどんな人でも、この人は俺のマスターなのだ。ここはいっちょ元気に挨拶をしなければ。
「はじめましてマスター! 俺、鏡音レ」
「おーきたきたリンちゃん〜〜! 待ってたぜ〜」
マスターは俺の挨拶なんて聞きもせず、ひょいっとリンのことを持ち上げた。無精ひげが口元を盛大に緩ませて笑っている。
リンはいきなりのことで戸惑っているみたいだが、とりあえず笑っているみたいだ。
俺は、ちょっと拍子抜け。まあ、おっさんだったらリンの方が好みなのは仕方ないのかな、と気を取り直す。
「マスター、はじめまして。俺、リンの相方の鏡音レ」
「あー、おまえはいらん」
しっし、と手を振られた。
ひどい。
そりゃ、俺は男だし、おっさんのあんたには用はないかもしれないが、これでもクリプトンで修行してきたVOCALOIDなんだぞ。それなのに会って最初の一言でいらんだなんてひどすぎる。
こうなったらぐれてやる! 絶対あいつの思い通りになんて歌ってやるもんか!
俺は堅く決意した。
作品名:美少女オタクと鏡音レン 作家名:日々夜