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VOCAROID's Spirit

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Nice to meet you



 12月27日。今日、我が家にリンとレンという双子の姉弟がやってくる。カイトは初めてできる妹と弟に、胸を膨らませていた。
 カイトになら初音ミクという妹も居るじゃないかって? それが、この家には居ないのだ。なぜかと言えば、この家のマスターは腐女子だから……。つまり、男の子にしか興味ないのである。
 今回も主目的は弟の鏡音レンの方。だが、一緒に来るリンにも珍しく萌えている。だから、カイトに向かってマスターはこう言う。
「カイト! あんたレンがきたらしっかりモノにするのよ! あたしはリンちゃん頂くから!」
 マスター、それはちょっといろいろ間違っていると思うのですが……。
 とにもかくにも、配送の人たちが大きなダンボールを置いていった。なんだかんだ言っても、わくわくとしながらカイトはそれが開けられるのを待っていた。
 べりべりとはがされていくガムテープ。蓋が開き、そのむこうに金色の二つの頭が現れる。
 眠たそうに、リンは起き上がると、大きなあくびをした。それからマスターを見るとぱっと表情をほころばせた。
「はじめましてマスター! これからよろしくお願いします! カイトお兄ちゃんもよろしくね!」
 元気がいいのはいいことだ。カイトもうれしくなる。
「よろしく。リンちゃん。それから」
 カイトはレンに視線を移した。レンはこちらを見なかった。
「よろしく、レンくん」
 にっこり笑ってみたのに、レンの反応はない。まるっきり無視された。
「さてと、あんたち部屋はリンはあたしと一緒。レンはカイトと一緒ね。これからよろしく!」
 マスターがリンとレンを二人丸ごと抱え込む。それにすら、レンはただうるさそうにそっぽを向いただけだった。
 ちょっと、気まずい。
 けれど、マスターはリンをつれて、自分の部屋へとそそくさといってしまう。そのとき、しっかりカイトの耳元でこんなことを耳打ちして。
「あんたもしっかりやるのよ!」
 何をしっかりやれというのですか、マスター。カイトは心の中で泣いた。
 だがとにもかくにも、仲良くやらなければいけない。カイトはなるべくフランクに話しかけてみた。
「えっと、レンくん。ずっとダンボールの中で、疲れたんじゃないかな? 何か飲む?」
「別に……」
 ただそれだけ。一体自分にどうしろと。
「あ、じゃあ、アイスでも食べる?」
 そうだ、こんなときは甘いものに限る! アイスを一緒に食べながらならきっと打ち解けてくれるはず。
そう思ったのに。
「俺、甘いの好きじゃないし」
 マスター、これはどう考えても俺には無理です。
 カイトはさっそくマスターに泣きつきたくなった。
「部屋、どっち?」
 ふらふらとマスターが立ち去った部屋に向かいかけたとき、後ろでレンがそんな言葉。やっと自分にもできることが!
 カイトは転げそうになりながら、いそいそと部屋に案内した。
 部屋に入ると、マスターの台詞がよみがえってきた。しっかりやれというのは、腐女子のマスターの台詞なのだから、つまりそういうことなのだろう。いやしかし、会ったばかりのこんな若い男の子にそんな破廉恥なことができるわけもない。いや、そもそも、カイトにそんなことができる度胸もないのだが。
「えっと、ベッドはそっち使ってね。俺はこっちだから。あと、わからないことがあったら……」
 気負っていろいろ説明しようとしていたら、レンはすでにベッドに入っていた。すぐに、すーっと寝息が聞こえてくる。
 疲れていたのだろう。カイトは拍子抜けした。
 もしかしたら、案外シャイなだけなのかもしれない。
 こっそり、カイトは近づいた。レンの寝顔は、その態度とは違って、十四歳の幼さを残した、あどけない寝顔だった。
「これから、よろしくね、レンくん」
 そっとささやき、うーんと伸びをする。
 緊張したら肩がこった。せっかくだから自分も一緒に寝よう。カイトはそう思って、自分も自分のベッドに入った。
作品名:VOCAROID's Spirit 作家名:日々夜