VOCAROID's Spirit
What will I do?
カイトは気が重かった。なぜかと言えば、ついにカイトとレンでセッションするとマスターが言ったからである。
実を言うと、レンが来てからと言うもの、まともに会話ができていないのだ。セッションは二人の息をぴたりと合わせなければいけないのに、このままではレンとまともに歌うことができるかもわからない。
その上、マスターはことあるごとにレンとの関係はどうなっているのかとしつこく聞いてくる。会話できないのではどうなるもこうなるもないのだが、それがマスターからすればもどかしくてたまらないのだろう。こないだなど、「押し倒せばこっちのもんよ」なんてとんでもない解決方法まで本気で提案されそうになって、カイトは慌てふためいたのだ。
はあ、とカイトは大きくため息をついた。
「なにため息なんかついてるのお兄ちゃん」
突然後から来た衝撃に、カイトは一瞬あの世を見た気がした。リンにいきなりうしろからヘッドロックをかけられたのだ。
「リンちゃん、たのむから普通に声かけておくれ……」
ぜいはぁと荒い息を整えて、カイトはけろりとしたリンに訴えた。声をかけられるたびにあの世に逝かされていたんじゃたまったもんじゃない。
しかし、わかったのかわかっていないのか、リンは明るくうなずいただけだった。
だが問題はあるにしろ、リンは明るくていい。こっちも楽しくなる。それなのにレンはどうしたものか。
そういえば、クリプトンにいた間はリンはレンとずっと一緒にいたのだから、なにかいい解決策があるかもしれない。
「ねえ、リンちゃん。レンくんとどうやったら仲良くなれると思う?」
「レンと?」
リンはにっこりと笑った。
「無理ね」
自信たっぷりに断言されて、がっくりとカイトは肩を落とした。
「だってあたしが話しかけたって変わらないもの。あれはあきらめたほうがいいよ、カイトお兄ちゃん」
リンは、そう助言をくれる。けれど、そういうわけにもいかないのだ。マスターの命令があるのだから。あのマスターに背いたら、何が待っているか……。カイトは想像して身震いした。
「でもまあ、最初の頃は今とは違ったんだけどね」
「というと?」
新たな手がかりかと、カイトはリンの話に食いついた。
「うん。もっと明るかったんだよ。よく笑ってたし。それが、いつの間にかああなってた」
カイトはうーんとうなった。つまり、レンは何かがきっかけで今のように無愛想になってしまったというわけか。ということは、その何かがわかれば、レンとの仲もどうにかできるかもしれない。
カイトは俄然やる気が出てきた。
「よおし、がんばるぞ!」
「うん、お兄ちゃんガンバ!」
ばしっと背中に衝撃が走った。次の瞬間、カイトの頭はテーブルにめり込んでいた。
レンと仲良くなるとか、そういう前に、リンに手加減ということを教えたほうがいいかも知れない。いや、教えなければいけないだろう。でないと、命がいくつあっても足りない。
魂が抜けていくのを感じながら、カイトはそう決意した。
作品名:VOCAROID's Spirit 作家名:日々夜