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VOCAROID's Spirit

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「じゃあ、続きを始めましょうか?」
 全員がスタジオに戻り、マスターが言った。
 カイトはそれに待ったをかけた。
「少し、レン君と話したいことがあるんですが」
 マスターとリンに席をはずしてもらうように頼み、カイトはレンと二人きりになった。去り際に、リンががんばってねと応援していってくれたのが力強かった。
 レンを見ると、中断にいらついていたのが復活した様子で、眉間にしわを寄せている。
 カイトはそんな様子を見て、溜息をこぼしていた。
「レン君、リンちゃんに聞いたんだけど、君がそんな風になったのは、ある一件のせいなんだってね」
 カイトは切り出した。レンはまだ、何のことだというようにカイトを注視しているだけだ。
 リンの話によれば、レンがこんな風に感情を見せなくなったのは、ある一件のせいだという。それは、レンとリンがクリプトンにいたころ。先に出荷されていたミクのうちの一体が、クリプトンに送り返されてきたときのことだった。そのミクは、マスターを事故で失っていた。その悲しみによって、彼女は歌を歌うことができなくなっていた。それを、レンは目撃したのだという。
 それから、レンは笑わなくなった。
「これは僕の想像なんだけど、君は、感情を持つのが怖くなったのかな。もし、自分もマスターを失うようなことがあったら、歌まで失ってしまうかもしれない。それが、こわくなった。だから……」
「違う!」
 レンがカイトに飛びかかった。衝撃で、背中から壁に激突する。一瞬、息が詰まるほどだった。
「俺は怖がってなんかいない! そもそも、ボーカロイドに感情なんて必要ないだろ! 所詮おれたちは機械だ! 感情なんか理解できるわけがない!」
「それはちがうよ、レンくん。ボーカロイドにだって感情はある。いいや、なくっちゃいけないんだ」
 カイトは、腕を伸ばした。殴られるかと思ったレンが、とっさに逃げようとする。それを、カイトはきつく抱きしめた。
「感情がなければ歌なんて歌えないよ。感情があるからこそ、歌は祈りにも、奇跡にもなる」
 レンは逃れようとする。けれどカイトはきつく抱きしめて、訴えた。
「僕は君が起こす奇跡を、この体で感じてみたいんだ」
 辛抱強く、カイトは待った。やがてレンは、カイトの腕の中で言葉なく、震えだした。
「うるさい」
 か細い声だった。
「やっぱり、マスターがいなくなるのが怖い? じゃあ、こう言ったらどう? マスターがいなくなっても僕がいる。僕が、君を守るよ。一緒に歌ってあげるよ。だから、大丈夫」
 優しく、レンの頭をなでてやる。
 震えるレンが、カイトの背に腕を回した。きつく抱きしめ返され、カイトはほっと胸をなでおろした。涙に濡れるレンの頬をぬぐい、その頬にキスを落とす。
 生まれたばかりのレンには、不安がたくさんあるのだろう。それを、自分は一つ一つ取り除いてやろう。カイトは誓った。
「マスターが待ってる。今度はちゃんと、一緒に歌おう」
 レンがうなずいた。もう、涙はなかった。きまり悪そうにカイトから目線をそらして、マイクに向かって、歩き始める。その途中で、レンが振り返った。
「今度だけは礼を言ってやる」
 真っ赤な顔で、睨み付けるようにカイトに言ったレンに、カイトは笑いだしていた。
 彼はどうやら相当照れ屋らしい。そんなことに、カイトは気がついた。
作品名:VOCAROID's Spirit 作家名:日々夜