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そして、それから先は誰も知らない

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 溜め息を吐くと幸せが逃げる。そんなことを誰が最初に言い始めたのかは知らないが、その論理でいくなら自分の幸せはさぞかし勢い良く減っているのだろうと、イギリスは思った。
 尤も、人生とやらは幸福も不幸も平等に与えられるというから、極端に考えればこれから先に待ち受けているのはこの世の楽園なのかも知れない。
「……はぁ」
 ほら、また一つ楽園へと近いた。そう考えれば、溜め息を吐くことだって案外悪くない。
 そんなことを考えて、それは一体何処のヒーロー気取りの主張だよ、ともう一人の自分が厳しく突っ込んだ瞬間、イギリスはあっという間に現実へと押し戻されてしまった。
 今は、世界会議の真っ最中だ。ドイツが主催で議長国の。
 だから、いつもの世界会議よりもずっとスムーズに進んでいる。イギリスとフランスの席は遠く離れているし、何より――アメリカが大人しいから。
 今回の席順はドイツが決めたもので、流石に毎回苦労させられているだけのことはあって、その席順は実に合理的と言うしかない。昼寝や内職、そして許容範囲内の私語に目を瞑れば、トラブルらしいトラブルなど起こっていないのだから。
 イギリスは、今までの世界会議で殆どのトラブルの原因となっているアメリカに、それとなく視線を向けた。意識しないようにと極力注意していたから、こうしてまともに見るのは今日これが初めてかも知れない。
 アメリカは、いつも通りにハンバーガーの山とコーラを会議室に持ち込み、好き勝手に喋っていた。今回アメリカは単なる参加国の一つでしかないから、やる気が違う方向に向いているのだろう。
 此処からではアメリカがどんな話をしているのかは分からないが、多分ヒーローとかヒーローとかヒーローの話だ。もしかしたら、新作のアニメやゲームの話かも知れない。アメリカの話に相槌を打っているのは日本だったから。
 アメリカと日本が、所謂恋人同士……という関係になったのは、一体いつの頃からだっただろう。二人が宣言したわけでもなく、誰かがそう明言したわけでもない。けれど、二人が恋人同士であること、それは今や周知の事実だった。
 手を繋ぐ、抱き寄せる、キスをする、所有権を主張する。
 そんなことは今まで一度も起こらなかったけれど、二人を見ていれば、その関係が単なる友人同士でないことは明白だった。だって、まるで違うのだ、空気が。
 空気を読まないアメリカと、空気を読むことが趣味の日本。元々この二人の相性は抜群に良かったが、今の関係が築かれてからは、それにより一層拍車が掛かったように思える。
 言葉を交わすこともなく、それこそ仕草一つ、目配せ一つで相手の考えを汲み取る様は、端から見ていて熟年夫婦のようにさえ感じられる。
 中国などは、そんな二人の関係を、アメリカが日本に強制しているだけだと言っているが、イギリスはそうは思わない。何故なら、日本が本当に幸せそうだからだ。
 今だって、そう。
 一方的に喋ってばかりいるアメリカに相槌を打つ日本の様子は、決して義務や愛想から来るものではない喜びに満ち溢れていた。それは何故か。そんなのは決まっている。日本がアメリカを愛しているからだ。
 過去にどんな仕打ちをされていたとしても、今の関係が対等のものだとは言えなくても、日本はアメリカを変わらずに愛している。
 アメリカも、きっと。
 日本は沢山の国と交流があるし、アメリカも超大国として良くも悪くも大勢の国から注目されている。だから、こうした特別な関係を持つことに対して、好意的な意見を持たない国だって少なからず存在していた。
 国の感情が世界情勢に影響を及ぼすことはないとは言え、それはやはりそれである。面白くないものは、面白くない。
 イギリスにとって日本は数少ない良き友人であったし、アメリカも今となっては昔の確執を水に流して、今ではそれなりに良い関係を築けていると信じている。
 だから、イギリスに困るようなことなどないのだ。
 絶対に、無い。
 例えイギリスがアメリカのことを好きだったとしても、それは全然、全く関係の無いことで。
 二人の関係には、無関係で。
 泣こうが喚こうがそれは影響を与えることは出来ないし、もしかしたら泣いたり喚いたりする権利もないのかも知れないと、最近イギリスは思うようになった。
 だって、間に割って入るのが躊躇われるくらいに、其処は二人だけの世界で。
 敵わないってことはずっと昔から知っていて、だからそれは、自分の気持ちとは違う所で凄いと素直に思える。羨ましいとすら、思う。
 だから、キュキュッと小さく自分の気持ちを丸めて固めて、隅っこの方に目立たずに置いておくことくらいしか、イギリスには出来なかった。
「――――」
 アメリカが、ハンバーガーを二・三個日本に向かって差し出す。多分、君はもっと太った方が良いぞとか、そんなことを言っているに違いない。普段どんなに傍若無人に振る舞っていても、アメリカだって日本のことが大切なのだから。
 ――敵わない、な。
 そんな、とっくの昔に分かりきっていたことを、再認識すらして。
 あまりにも遠く、自分には手の届かない光景を無かったことにするように、イギリスはそっと目を閉じた。
 一刻でも早く会議が終わってくれと、ただそれだけを祈りながら。