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そして、それから先は誰も知らない

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 そうしてずっと世界会議の間中、自分の殻に引き込もっていたものだから、イギリスは世界会議の終了が告げられたことに気付けなかったし、アメリカが側にやって来たことにも気付けなかった。
「……イギリス」
 肩を揺らすでもなく、大声で呼ぶわけでもない。アメリカは囁くようにイギリスの名を呼び、机を指先で数回叩いた。ひどく優しげな仕草で。
 その行為は、イギリスが目を覚まさなくても良いという風に取ることも可能だったし、イギリスを気遣ったからこそそんな密やかなことをしたという風に取ることも可能だった。
 今となっては分からないことだし、どちらでも構わないことだ。兎に角イギリスは、その小さなアメリカからのサインを正確に受け取ったのである。
「アメリカ……?」
「何ぼんやりしてるんだい? 君らしくないぞ」
 そう言われて会議室を見渡せば、あんなに居た筈の参加者達は忽然と姿を消しており、今この空間には自分とアメリカしか存在していないのだと、イギリスは漸く気が付いた。
「日本は、どうしたんだ」
「……何でそこで日本が出て来るんだい?」
「何で……って」
 仲睦まじくいつも一緒に居るだろう、なんて、言えるわけがなかった。絶対に嫉妬していることが伝わってしまうだろうから。
「……別に、お前には関係無いだろ」
 結局そんな言い方しか出来なくて、その返答にアメリカは面白くなさそうに目を眇めた。アメリカは、兎に角自分が蔑ろにされることを嫌う。
「残念だけど、日本なら先に帰ったぞ。中国に引っ張られてね」
 しかし、イギリスのその考えは、アメリカの提示した答えによってあっけなく崩れ去った。
 イギリスが、日本の方を気にすることに対して不満を抱いているのではない。アメリカは、イギリスの質問によって、日本が中国に浚われたことを思い出すのが不愉快だったのだ。
 よくよく考えてみれば、イギリスが何処の誰を気にしようと、アメリカには何の関係も無いだろう。アメリカは、イギリスに対して特別な感情など抱いてはいないのだから。
「……なら、これから飲みにでも行くか?」
 そんな時に口から滑り出したのは、いつもならば絶対に言ったりはしないこと。
 己の酒癖の悪さを不本意ながら良く知っているイギリスは、滅多にアメリカを酒の席には誘わない。それは、自分のみっともない姿を見られたくないという理由からでもあったし、アルコールが入ることによって、普段ひた隠しにしている想いを口にしてしまわないように……という理由からでもあった。
 アルコールが入っていれば、どんな言動だって冗談で済むかも知れないが、冗談にされたらイギリスの心が耐えられない。それに、一度口に出してしまったら、もう二度と歯止めが効かなくなりそうで。
「日本の代わりにはなんねぇけど、まぁ良いだろ」
 ちゃんと分かっているから、だから、せめて隣で酒を飲むくらいの付き合いを許してはくれないだろうか。
 そんなことを願いながら、イギリスはあくまでも軽い口調でアメリカを誘った。
 期待などしない。そんな馬鹿げた行為は、とっくの昔に火にくべて燃やしてしまった。期待をすればするだけ失望するのだと、そうイギリスに教えたのは他でもないアメリカだったから。
「そうだね、たまには良いんじゃないかい」
 だからアメリカが了承の意を示した時、イギリスは咄嗟に理解出来なかったし、理解が出来ても俄には信じることが出来なかった。それでもアメリカが、どうしたんだい、早く行こうよと促してくれば、これは自分の夢でも妄想でもなく、間違いなく現実なのだと信じることが出来た。
 アメリカの気が変わらない内に。
 そうイギリスは自分に言い聞かせて、机に広がったままだった資料を片付け始めた。