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そして、それから先は誰も知らない

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 あと少しで、指先が触れる、そんな時。
「――イギリス!」
 鋭い声が、真っ直ぐにイギリスの体と胸を貫いた。
「アメリ、カ……」
 どうして。
 どうしてこんな時間に。
 どうしてこんな場所に。
 会いたくなんか、なかったのに。
「探したぞ」
 隣に座っている日本に声を掛けることすらなく、アメリカは真っ直ぐイギリスに向かって来て、イギリスだけを見つめていた。
「話があるんだ。良いかい」
「……俺は無い」
「日本、イギリスとの話はもう済んだかな。彼、ちょっと借りて良いかい?」
 その言葉に、一瞬空気が固まった。
 小さく、本当に小さく、日本の唇が引き結ばれたことに、アメリカは気付かなかっただろう。ずっとイギリスから視線を外さなかったから。
 けれど、変わらず日本と向かい合っていたイギリスには分かった。
 日本の悲しげで、でも何処か苛立たしそうな表情の意味が、これからもアメリカとこの関係を続けていくという大切な友人の行動そのものなのだと。
 「来て」
 アメリカの大きな手で引かれながら、普段とは違う歩調で中庭を歩いて、まるで大切にされているようなこの感覚が錯覚であれば良いのにと思う。
 二人を見送る日本の目が、悲しげに揺れてアメリカの背中を見つめているのも。
「何だよ、話って」
 繋がれた手は離されないままで、だからイギリスは、逃げることも叶わない。
 ほんの少し、握る手に力を込めた後、意を決したようにアメリカが顔を上げた。
「昨日は、ごめん。謝っても許されるようなことじゃないけど、でも、謝らせて欲しい」
「別に構わねえよ。俺もお前に迷惑掛けたしな。酒の所為ってことでお互いチャラにしようぜ。ほら、日本の所で言う、水に流すってやつだ」
「それは……」
 それは嫌だよ、イギリス。
 いつもは無駄に自信満々なアメリカの声が、どうしてだか泣き出しそうに聞こえた。
「無かったことになんて、しないでくれ」
「なんで。お前、さっき謝っただろ後悔してるんじゃないのか」
「してるよ。何回もしてる。こんな筈じゃなかったのにって」
 ごめんね、ごめんなさい。
「もっと優しくしたかった。ううん、違う。ちゃんと言葉で伝えたかった。でも無理だったんだ。そんな余裕なかった。君があまりにも、日本日本っていうから。だから……」
 アメリカは、一体何を。
 何を言おうとしているのだろう。
 何を、伝えようとしているのだろう。
「イギリス、聞いて。俺はね、君のことが好きなんだ。君が例え、他の誰かを――日本を、好きでも」
「アメリカ……?」
「君が好きだよ」
 これは、夢だろうか。
 夢ならば、どうか覚めないでくれと祈った。同時に、今直ぐ覚めてくれとも祈った。

『こんなこと、イギリスさんにしか打ち明けられないですけど』
『君が好きだよ』

 どうしたら良い?
 だって、どちらも失いたくないんだ。
 我が儘だと知っていても。

「俺、は――」

 神様。
 教えて下さい。
 自分の幸せを願うのは、いけないことですか?
 教えて下さい。
 神様。