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【土沖】「さらば惑星」同人誌サンプル

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さらば惑星





夜になり、薄墨を流したような暗闇が空に広がるころ、河川敷を見下ろせる場所にある土方の家のドアを沖田が叩く。こんこんと、音は決して大きくないが、はっきりと聞こえるノックを二度繰り返すのである。


土方がここに越してきたときに、この部屋の鍵はちゃんと沖田に渡してあった。しかしてそれが使われることは滅多になく、大概は、土方がチェーンをはずしてドアを開けてやるまで外でいい子にして待っている。ときどき出るのが遅くなると、あたかも一昔前の借金取りのようにチャイムを連打し始めること以外は、大人しいものなのだった。


けれど、その日は少し違った。土方がドアを開けるなり、靴をぽいっと脱ぎ散らかすと、こんばんはと挨拶をすることもなく土方の手を取った。そうして、そのまますたすたとリビングへ向かって歩き出す。あまりにも唐突なものだから、土方は驚いて声を上げた。


「おいこら、総悟!」


白いシャツに黒のベストを着た後姿は、いつもの通りに背筋が伸びてまっすぐしている。その背中に声を投げると、沖田はリビングのドアノブに手を掛けながら振り返り、至って真剣な顔をして、何をしているんですかィ土方さん、と言った。


「今日は牡牛座がすごくぴかぴかしてるんですぜ。早くしないと、曇って見えなくなっちまうかも」

はっきりとした声だった。自分は宇宙人だというときと同じ、淀みなく、真摯なさまで。


「牡牛座?」


怪訝に思って眉を顰めるが、土方の疑問などお構いなしだ。有無を言わさずリビングのソファに座らされ、そのソファの正面にある、部屋の壁の半分を占める大窓へ向き合う形になった。

珈琲色をしたこのソファは春先、土方がこの部屋に越してきたばかりのころは、背凭れをあちらの壁にくっつける形にして置いてあった。それがどうやら沖田のお気に召さなかったらしく、座ったまま窓の外を眺めやすい今の配置に変えさせられた。

重労働だった。しかし、「恋人を喜ばせる義務がお互いにあるんでさァ」と沖田は言う。「恋人の幸せが自分の幸せ」と、恐ろしいことを平気で口にするのだ。そうして、「俺はもうすぐ帰るんだから、それまでの少しの間だけ、恋人らしく過ごしましょう」。


土方は宇宙人など信じないが、沖田がどこか遠い場所にいつか帰らなくてはならないことぐらいは本当のことかもしれないと思っているので、その提案を飲んだのだった。



本文に続く
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