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りりなの midnight Circus

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第十七話 大空の乙女


 エルンストはベルディナから行き先を聞いていなかったが、とにかくミッドチルダを抜け出す予定のようだった。
「それにしても、裁判所の最深度地下から何の障害もなく抜け出せたのは驚きだった。あんた何かしたのか?」
 ミッドチルダ都市部の環状線に座りながら、エルンストは目の前で車窓を移りゆく景色に目をはせるベルディナにそう聞いた。
「別に。ちょっと警備の奴らを眠らせて、監視装置にちょっとした細工をしただけだ。たぶん、準備さえすればおまえでもできる程度のことだぜ」
 さすがに電車内でたばこを吸うわけにはいかないらしく、彼はさっきから懐に手を忍ばせながらいらいらとした様子で、足をこつこつと鳴らした。
 これからどこに向かおうというのか。環状線はただミッドチルダの都市内をぐるぐる循環するだけで、降りさえしなければ永延と同じところを回り続けるだけだけだ。
 もう、三週ほどはしただろうか。いい加減同じ風景ばかりを見続けるのには飽きてきた。
「そろそろか」
 ベルディナはそうつぶやくと、窓の外から車内へと視線を動かせた。
「尾行は三人ほど。入れ替わりで乗車しているようですが、練度は低そうです」
 エルンストはすでに彼らをつけ回す人間の存在に気がついていた。公安か、警察か。それとも、秘匿組織に捜査官か。
 ベルディナは、気づかれずにその三人に目を配った。
「公安だな。捜査課の連中だ。こんな休みの日にご苦労なことだ」
 ベルディナがそういったところで、懐に忍ばせていた携帯端末が静かにふるえた。
「俺だ。……ようやくか。そっちの準備はどうだ? OK? よし優秀だ。すぐに向かう」
 ベルディナは通信を切り、立ち上がり車両の出入り口に足を向けた。
 次の駅で降りるのだろうか。
 次の駅は、ミッド空港前。外に逃れる準備ができたのか。
 エルンストはそう考え、彼を追った。
(しかし、こいつはなんてふてぶてしいやつなんだ)
 彼の後ろをついて、改札を降り、そのまま空港への連絡通路を行くエルンストは、ベルディナの態度を見て呆れにも似た感想を持った。
 後ろをつける捜査官たちも、エルンストたちが彼らに気がついているということをうすうす感じてはいるのだろう。それにもかかわらず、お前達など端から気にもかけていないなどといわんばかりのベルディナの行動は彼らをいらだたせるのには十分なほどだった。
作品名:りりなの midnight Circus 作家名:柳沢紀雪