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ティル・ナギ

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記憶喪失?



前日まではいつもの如く絶好調だった。

「あーもーうるさい、シュウ、ハゲろ!!」
「ちょ、もう、熊っ。お前もうちょっと早く攻撃しろよーっ。遅いんだよー。」
「青いって、もー。そこのブルーサンダーってば、大人なんだからさー、青いコト言ってないでやっちゃってよもー。」

リーダーとしての指示・・・?
・・・絶好調だった。

だいたいナギは外見が本当に女の子みたいなので、それくらいの口調でなんとかバランスが取れているのかもしれない。
むしろそんな口の悪さであっても皆から好かれている(一部邪な好意)ので、バランスはすでに偏っていると言えるかもしれない。


翌日、朝から会議と聞いていたが、前日ついつい遅くまでちんちろりんをしてしまい(要は賭博)、寝るのが遅くなったナギはやはり寝坊してしまった。
よく起こしにやってくるナナミはメグ達女の子とパジャマパーティとか言って昨夜からいないので、勿論起こしにも来ていない。

「うわやばっ。またシュウに怒られるー。」

慌てて準備し部屋を出たナギは、エレベータは使用せず階段を駆け下りた。
そして慌てていた為か、運動神経の発達しすぎている筈のナギは階段を踏み外し、そのまま受身もまともに取れないまま落ちてしまった。
運良く通りかかった人により伸びているところを発見され、ホウアンの所へ運ばれた。

「っう・・・ん・・・」
「あ、先生。ナギさんが気付かれたみたいです。」

誰か子供の声がした。
次に落ち着いた大人の声が続いた。

「目、覚めましたか。どうですか、ご気分は?」

ナギは気絶したままで、会議はとりあえずナギ抜きで始められていた。
余計な不安を呼ばぬよう、会議に出ている者以外の周りにはナギがここにいる事は伏せられている。
発見した者も問題ないからと言ってこのことは口止めされている為、この病室は静かなものだった。

目が覚めたナギはキョトキョトと辺りを見回してから、ホウアンの方を向いて言った。

「あ、えっと、大丈夫です。」
「・・・?一応ご自分の名前をおっしゃってみてもらえますか?」
「はい。ナギです。」
「・・・。えーと、どういった経緯か覚えておられますか?」
「はい。僕が急いでいて、階段から落ちてしまったんです。その後の事は分かりません・・・。」
「・・・。ちょっと、頭を拝見しますね。」
「はい。」

難しい顔をしたホウアンはナギの頭を調べた。
ナギは大人しく調べられるに任せている。

「ふーむ・・・。たんこぶが出来てますけど、どうですか、気分が悪いとかふらつくとか、何かありますか?」
「いいえ、何ともありません。お手数をお掛けしてすみません・・・。僕は大丈夫です。」
「・・・そう、ですか・・・。」
「あっ、会議。会議があったんです。ホウアン先生、僕行っても・・・?」
「―そうですね・・・。とりあえずシュウ殿にも私から報告したいですし、一緒に行きましょう。トウタ、すみませんが暫くお願いします。」
「はい、先生。」

ナギとホウアンは会議をしているところへ向かい、入っていった。

「お、ナギ。」
「ナギ殿。」
「ナギ様。」

やってきたのに気付いた面々はナギに声をかけた。
ビクトールが聞いた。

「もう大丈夫なのか?」
「はい。大丈夫です。ご迷惑お掛けして申し訳ありませんでした。」

ナギは皆の前で恥ずかしそうにペコリと頭を下げた。

皆が一斉に青くなり固まった。

「?どうされました・・・?あの、僕、何かしちゃいましたか・・・?」

皆の様子が気になって、ナギは困ったようにおずおずと上目遣いで聞いた。
部屋の空気まで固まったようである。

「ホウアン殿・・・。これはいったい・・・」

シュウまでもがやや冷静に欠けつつ、ホウアンに聞いた。

「どうやら落ちた時に頭を打たれたみたいですね。多分そのせいで・・・。他には特に症状はないようですし、自然に治るのを待つしか今のところないとしか・・・。」

なんですとーっ、全員がそう、心の中で突っ込んだ。

会議中皆は何だか落ち着かなかった。

ナギであってナギでない状態だが、他に問題がないので通常通り生活しても問題はないでしょう、とのホウアンの診断により、ナギはそのまま席に着いていた。
いつもなら居眠りをしたり落書きをしたりと、何らかの原因でシュウの突っ込みが入るのだが、今のナギは大人しく真面目に話を聞いている。
そして目が合うとニッコリと笑いかけてくる。

いつもなら有り得ない状態に慣れなくて、ほとんどの皆が意味もなく、怖かった。
そして、まずい、と危惧していた。

「ナギ殿、ちょっとそのままお待ちください。」

会議が終わるとシュウはナギにそう言って待たして、真剣な顔を寄せ合っている上役達の中へと入っていった。

「どうしましょう。あんなナギさんをこのまま1人で放り出したらどうなる事やら・・・。」

テレーズが口を開いた。ビクトールが続ける。

「まずいぜ。ただでさえ手を出そうと狙ってる奴がうようよいんだぜ?まさに狼の群れに子羊を投げ出すようなもんじゃねえか。」
「なあ、おい、ルックはどうだ?あいつ普段からナギの事、守ってやってるみたいだし。よくシーナとかが切り裂かれてるのを見るぜ?」

フリックが提案した。

「あと、トランの英雄殿はいかがでしょうかな。英雄殿が一緒なら周りも下手に馬鹿は出来ないのでは・・・」

キバが続けたが、その英雄をよく知る者は、あいつがある意味1番ヤバいわーっと心の中で突っ込んでいた。
シュウが考えながら言った。

「ふむ・・・。そうだな我々がずっとそばにいる訳にはいかないし、ルックなら・・・。まあティル殿もある意味適役かもな。下手にナギ殿に近づこうものなら、それこそ何をされるか・・・。奴らもそれは良く分かっているだろう・・・。」

ビクトールとフリックは心中、そのティルがナギに何かするのでは・・・?と思っていたが、そう言ってしまって万が一後でティルにばれたら・・・と思うと何も言えなかった。


「という訳でルック。後は頼む。」
「ちょっと、何が、という訳、だよ!?」

シュウを睨みつけてルックが言った。

今、石板前のルックを囲むように、またナギを隠すようにシュウ達は立っていた。

「諦めろ。お前さんだってナギが変態共の餌食になるのは良しとしないだろ?」

ビクトールがニヤリと笑って言った。
ルックはぐっと詰まってしまった。

「でだ、ティル殿も周りの牽制にはなるので近づいてもらうのは結構なんだが・・・、まあ、その辺の事もよろしく頼む。」

シュウは目を泳がせてルックに言った。

「何がその辺だよ。ちょっとあんた達いい加減にしなよね。」
「何がいい加減にしなよなの?てゆーか今日はどうしたの?ここにお偉いさん方が集まっちゃってさあ。」

その声を聞いてルックを含むほぼ全員が青くなった。
ナギは首をかしげている。

「あ、ナギー。」

ナギに気付いたティルはひらひらと手を振った。
それを見たナギはニコッと微笑んだ。

あれっ?
とティルは違和感を感じた。

「えーと、ナギ?」
「はい。何ですか?」

ー敬語は別に前にも聞いている。
しかし、この雰囲気、何か違う。
作品名:ティル・ナギ 作家名:かなみ