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闘神は水影をたどる<完>

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私たちは大きくなっていた



 リグドが沈鬱な表情で溜め息を吐き出し、もう一度細く吐いて円卓の上に両手を着いた。なにか毒の込められた言葉も一緒に出されたが、サルガンは知らぬ顔をして円卓に寄りかかり、外を眺めた。雨は変わらず降り続いていたが、時折、雲の切れ間から夕焼けの赤い光が差し込まれるのが美しかった。雨上がりは近い。
「行きましたね、また」
 サルガンがつぶやく。リグドは乱暴に息を吐いた。
「もう、馬鹿馬鹿しい。あのひとと話していると、本当に、虫唾が走る」
「お気づきですか。あのひと、最近なにもしていない」
「それに怠慢以外のなにがあると」
「私たち、大きくなったものだと」
 リグドは円卓に屈み込んだまま、女副官を見つめた。
 彼はきょとんとしているといってよかった。
 サルガンはまるで朝焼けの前に祈りを捧げる僧侶のように、いつのまにか窓辺から部屋を明るく照らす斜光のなか、穏やかに微笑んでいた。リグドは彼女の待つ懺悔室の前で躊躇するかのように目を泳がせて、言うべき言葉も忘れた。
「リグド殿、総督に報告を。ユーレスク妃のところにおいでだろうから私は遠慮しよう。あの者たちの尋問を開始します」
 白い外套を翻したサルガンは確かにサルガンそのひとだったのだ。
 リグドはサルガンと別れ、速やかにユーレスク妃の寝所に赴いた。
 早朝から続いていたお産は母子共に無事終わり、昼間の殺気だった空気が嘘のように、寝所の前は新しい命の誕生への喜びに溢れていた。小さく扉を叩いてスカルドへの目通りを願い出るとすぐ、ユーレスク妃に呼び込まれた。
 数人の女官に囲まれた王妃の傍らで、スカルドが、深紅の外套に皺が寄るのも厭わず跪いて寝台を覗き込んでいた。そこに生まれたばかりのきょうだいがいるのだろう。リグドは一瞬相好を崩しかけ、咳払いをして静かに歩み寄った。
「義母上、お加減いかがですか」
「もう五度目ですもの。母は心得たものですよ」
「無粋をして申し訳ありません。あらためてこの愚息がお祝いに参じるのをお許しください。総督、少々よろしいですか」
 リグドは穏やかに頷くユーレスク妃に恭しく頭を垂れ、スカルドに向き直った。スカルドは細やかな刺繍が施された小さな寝台を名残惜しそうに離れ、王妃の頬に唇を寄せると、リグドと共に部屋を出た。そのときにはもう、厳しい海軍総督の顔になっている。
「進展はあったか」
 短く問われ、リグドはファレナ嫡子の救出に向けて海兵を動かす許可を求めた。慎重な行動をと難しい顔で顎をさすった提督が、海兵長の行方を思い出したように尋ねると、リグドは、海兵長は本日非番であり連絡が取れないと答えた。
 スカルドは次男の淡々とした様子に、鈴でも付けるかと豪快に笑い飛ばした。
 
 
作品名:闘神は水影をたどる<完> 作家名:めっこ