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リオ・ナユ

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発散…群島諸国編



気付けば数日たっていた。

ナユは船内の事にかなり慣れてきた。
場所もまだまだ覚えきれない所はあるが、困らない程度に把握していた。

最初の頃はまだまだナユにちょっかいをかけてくる輩もいたが、その度に自分には“恋人のうみ”がいるから、と丁重にお断りしてきた。
そのお陰と、リオが皆の前でナユにいちゃついてくるお陰もあって、今では完全に公認の仲になり、何らかのちょっかいをかけてくる者はいなくなった。

そのリオだが、部屋で2人っきりの時は、最初の時以降は一切何もしてこなかった。
ナユは、演技ではない素の自分が、ホッとする反面、もの足りなさや寂しさを感じていることに気付いていた。

「・・・だから考えるなって・・・。」
「何が考えるな、な訳?」
「っぎゃあ!!」
「っー貴さ・・・君、その急に叫ぶ癖、どうにかしたら?」

知らないうちに声が漏れていたらしく、不意に後ろからリオに声を掛けられて思わず叫んでしまった。
リオは耳を押さえながらナユの前に来た。

「今の時間て、訓練所にいる筈じゃないですか。そのあなたがいきなり声掛けてくるからですよ。」
「へえ、そう。で?何を考えちゃだめなの?」
「っ!!いえっ。な、何でもありません!!」
「へえ、隠すんだ?」
「・・・脅す気ですか?何されようが、何でもないものは何でもないんです。で、何の用です?」

今はまだ午前中。
今日は特にナユは予定がなく部屋でゆっくりしていた。

「ふーん・・・、まあ、いいけどね?今日は久しぶりにミドルポートっていう島に上陸するらしいよ?船上が長かったから3日はここに留まるらしいから、ちょっと僕らも降りてみない?」

・・・殺戮魔が穏やかに人を、それも自分を誘っている・・・。

「何?そのびっくりしたようなまぬけ顔は?」
「い、いえ。そうですね、どんな所か興味もありますし、3日も滞在するっていうならいつもみたいに急にまったく違う所に船ごとテレポートするっていう芸当もないでしょうし安心して降りれますよね。」

ナユは初めて船ごとテレポートしている事を知った時はさすがに驚いた。
ビッキーの計り知れない力に少し、いや、かなり引いてしまった。
このでかい船まるごとって、どんだけすさまじいんですか!?
てゆうか、周りの船や島の人々も、こんなでかい船がいきなり消えたり現れたりして驚かないのか?どう考えてもまるで幽霊船じゃないか!?

驚いたといえば、またたきの鏡もだ。
聞いた話では、ここでは街中であろうがダンジョンの中であろうが、どこにいようと使用できるらしい。
そういえば船の中でもカイリが鏡を使って消えるのを見た。

なんだよ、僕の時代では手抜きしてる訳?
バナーの村なんか、鬱陶しい事に一度船に乗って外に出ないと使えないんだぞコラ。

そんな事をナユは考えつつ歩いていた。2人は明日戻ると報告して上陸した。

「わ、なんか地面揺れてます?」
「違うよ?今まで波に揺られ続ける事に体が慣れていたから、揺れていない地面に立って体がついていっていないだけ。」

サラッと言いつつリオはさっさと歩いていった。
ナユも慌ててついて行った。

まずは宿屋へ行く。
今日は混んでいるようで、なんとか一部屋とれた。
・・・しかし宿屋の名前。“うるわしの巻き毛亭”というらしい。
さすがナルシーが若旦那をやっている店だけはある。

「どこ行くんですか?」

リオが部屋に入って少しの荷物を置いた途端どこかへ行こうとしたのでナユが声を掛けた。

「ちょっとね?貴様は行きたいところに行けばいい。」

貴様という響きに妙に懐かしさを覚えた自分が嫌だと思った。

一緒に降りようと誘ってくれたのは多分船に1人にしないようにというリオの配慮だろう。
最近知らない場所に2人でずっといるので前よりもリオの事が分かってきたような気がする。

この人は意外にも人の事を考えてくれている。
前ならそんな所は見えなかった。
・・・でもいっそ見えないままの方が良かった・・・。

ってダメダメ。考えない。
えーと、そうそう、どこに行く気だろう。

はっ、まさか・・・。

前にシーナから、女性や少年が体を売る店があると聞いた事がある。
まさかそういった所に行く気では?
だったら邪魔してはいけないんだろうけど・・・でもそういう所には行って欲しくない。僕が横にいるのにーってあーもう。
だめだってば。
考えるなって自分。

「・・・いったい何をやってる訳?貴様は・・・?」

自分の頭の上で手をバタバタしている様子を見て、不可解なものを見るような怪訝な顔をしたリオが言った。

「い、いえ、何でもありませんよ。っえーと、僕1人では迷ってしまいそうなんで、ついて行っていいですか?」
「僕はちょっと発散しに行くんだけど、それでもいいなら好きにすれば?」

そう言うとリオは部屋を出た。
宿屋から出ると広場からどんどん奥ばった狭い通りへと向かう。

・・・発散って言ったし、なんだか奥ばった所に向かってるし、やっぱりそういう所に行くのだろうか・・・。
そうしたら自分はどうしようか・・・?
バカみたいに外で待つ・・・?
それとも店に入るこの人を止めて代わりに自分を・・・ってぎゃーっ、もう、だめだ。自分は末期だ・・・。

ため息をついて改めて周りを見たが、そういった所に向かっている割に立ち話している女性や、子供までも道端にいる。
そういう所に向かっている訳ではないのか?

そうこうしている内に突き当たりまで来た。
人の家というよりは空き家らしい家があり、リオはそのドアを勝手に開けて中に入って行った。

「ちょ、勝手に・・・」

・・・いや、自分も普通に人の家とかに勝手にどんどん入っていた。
よくまあ、不法侵入で訴えられない事だ。
今更ながらに思った。

リオは構わず奥に入って行き、足元の扉を開けて下へ降りて行った。ナユは慌ててついて行った。
作品名:リオ・ナユ 作家名:かなみ