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リオ・ナユ

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焚付…ティント編



「ちょっと借りるよ・・・?」

リオはティント市に到着した夜、ナユの部屋に忍び込んでまたたきの鏡を手に取った。

ナユを部屋に押し込み、自分もとっとと別の部屋に入った後、夜更けにリオはそっとその部屋から出てナユの部屋に忍び込んだのであった。
ナユは死んだようにぐっすりと眠っていた。

「・・・。」

何を考えてるか分からないような無表情な顔でナユを見下ろした後、リオはそのまま街の外まで出て手鏡を使った。
城にもどると、リオはルックの部屋に忍び込んだ。

「おい。」
「・・・なんなのさ・・・。」

リオが入ってきた時点で気づいていたルックの不機嫌そうな声が聞こえた。ただはっきりした声だった為、寝ていなかったのかもしれない。

「あれからジーンは何か言ってきたのか?」
「・・・いや・・・。」
「ジーンのところに移動。」
「ちょ、こんな時間に?ていうかなぜ僕があんたの言う事を聞かなくちゃいけないのさ!?」
「お前も変だと思ってるんだろ?知りたくない?」
「・・・。」

ルックはため息をつくと、手を挙げた。
気づくと紋章の店内にいた。

「・・・あら・・・。こんな時間にどうしたのかしら・・・?殿方が訪問してくる時間には少し遅いと思うわよ・・・?」

ぼんやりとともった明かりのもとで、ジーンもまた、起きている様子であった。

「悪いけど、僕はあなたに興味はない。」
「ふふふ・・・はっきり言ってくれるわね・・・。・・・ナユの事ね?」

ジーンは妖艶に笑うと、店内にあるテーブルの横の椅子に2人を勧めた。

「ジーン。あなたがただのいたずら心でアレにあんな事をして放置してるとは思えない。・・・なんの為だ?」

ジーンも席に着いたとたん、リオは無表情なまま彼女に問うた。
そういえば・・・ルックは思った。
久しぶりにリオに会って以来、いつだってたいてい、まがいもののうすら笑いをしているようなリオが。先ほどからずっと無表情だった。口調だって昔のように少し堅い。

「獣魔の紋章の眷属・・・。珍しい紋章に間違いはないわ・・・。たしかに耳や尻尾が生えるのは予想外だったけど。ナユがあの姿になってから、動きが敏捷になったとは思わない?」

ふふふ、と笑いながら、あいかわらずゆったりとした様子でジーンが聞いてきた。
リオは黙ったまま頷いた。

「野生の生命力をね・・・少し借りようと思ってね。」

それまで微笑みを浮かべていたジーンが少し目を伏せて言った。

「そう。分かった。・・・ありがとう・・・。」

リオが静かに言った。
あのリオが礼・・・?だがルックはあまり驚かなかった。

リオは「夜分に失礼した」と言うと椅子から立ち上がり、ルックを見てうながすようにしてから店内を出た。
ルックも、じゃあ、と言いつつ後に続く。
ジーンは片肘をつきながら手を顎らへんにやり、そんな2人を黙って見送っていた。

ルックが店を出ると、リオは店から背を向けたまま立っていた。だがルックが出てきたのに気付くと振り返り、言った。

「明日早くに行きたいところがある。とりあえず手鏡をもとに戻しておきたいし、ルック、僕をアレのところに送ってから、早朝、そっと迎えにきてくれない?」
「・・・どうしたのさ・・・。」

リオが歩き出したのでルックも後に続く。しばらく歩くとまた立ち止り、リオが言った。

「お前も分かってるくせに。前から知ってはいたが、最近のアレの体力の落ち具合は尋常じゃないね?遠征といえどもあれほど疲れるのは問題がある。・・・ジーンのつけた紋章のおかげなのか、まだなんとか元気でいられてるようだけど・・・それも怪しいものだね。」
「・・・不完全だからね・・・。」
「にしても、だ。もう一つの紋章の状態も見ておきたい。」

相変わらず無表情なままリオが言った。

「ちょ・・・それって・・・。何を言ってるのさ、敵国に忍び込むっていうの!?無茶な。ナユだってなんて言うかっ・・・」
「黙れ。俺が行くといえばその通りに動け。何かあってもお前はきちんと守る。だから明日、必ず来い。お前ならもう一つの紋章の存在をたどるのはそう難しい事ではあるまい?」

リオの目が光っているように見えた。
まるで戦時中の統率者のように、命を下すように言うリオ。

「・・・分かった。」

ルックはただ同意するしかすべはなかった。

早朝、約束通りルックが来た頃にはもうリオの準備は整っていた。

「・・・ほんとに・・・知らないよ・・・。」

ルックはため息をつきながら手を掲げる。リオはいつものようにニッコリとする。
知った場所に移動するのではなく、気配をたどるようにしての移動の為、いつもより長い呪文を唱えつつ、ルックは少し難しそうな顔つきをしていた。
そのルックがふと気付いたような表情をした。

「・・・場所が分かった・・・ハイランドじゃない・・・ここは・・・ミューズだ。」

そうつぶやくと杖をふるう。

「え・・・?」

気づけばそうつぶやき、ポカンと口を開けている少年がいた。

確かにあの会見で見た少年だと分かると、リオはニッコリとして近づいた。
どうやら事務処理でもしていたのか、書斎らしき場所で机に向かって何かをしているようであった。

「安心しなよ?別に皇王サマを襲いにきた訳じゃないから。」

そんな事言っても信じる訳ないだろ、とルックは思ったが、目の前にいる少年は何かに気づいた様子であった。

「・・・ああ、あなたはあの会見の時にナユと一緒にいた人!!」
「よく覚えておいでで?そう、僕はリオ。よろしくね?」

あきらかにうそくさい笑みを浮かべてリオが言った。
ルックはもはや何も言うまい、とそれでも一応いつでもテレポートだけは出来るように構えていた。

「皇王サマが早起きで良かった。寝ているところにお邪魔するのも無粋だしね?」
「いえ・・・それより、何用です?」

腰が据わっているのか、あまり驚く様子もなく落ち着いた感じでジョウイはリオに聞いた。

「聞きたくてね。」

またニッコリすると、リオはさらにジョウイに近づき、手前の机に腰掛けた。
そんなリオの行動をとがめるでもなく、ジョウイは黙ったまま先を待っているようであった。

「体調はどう?」
「・・・は・・・?」

まさかそんな事を聞かれるとは思っていなかったようで、少し拍子抜けした様子でジョウイはポカンと口を開けた。
それはそうであろう。
いくらもと親友とはいえ今は敵対する者同士のナユの傍にいた人間である。そんな相手がわざわざ危険をおかしてまでここにやってきて、自分の体の調子を聞いてくるとは誰も思うまい。

「ふ・・・普通ですが・・・?」
「そんなはずはないよね?今までに何度倒れたの?今はどうなの?最近特にひどくなったとか?」

ニッコリとしたまま、リオは立て続けに聞いた。

「な・・・。」

それからハッとしたように改めてリオの顔を見て、ジョウイが青くなりながら言った。

「ま、まさかナユの身になにか!?」
「・・・いや?だがその様子だと先ほどの質問、心当たりがあるようだよね?」
「・・・。」
「紋章・・・。皇王サマはいったいどれほど紋章を使ってるの?」
「なぜ・・・。やはりナユにも何か・・・?」
作品名:リオ・ナユ 作家名:かなみ