リオ・ナユ
死神…ティント編
「ナユーっ、朝だよ!!いつまで寝てるのかなー?」
元気な、大好きな声が聞こえる・・・。
「ん・・・」
ナユはぼんやりと目を開けた。そこにはいつもと変わらないナナミがいた。
「ナ、ナナミ!?」
「なーに?朝から寝ぼけてるの?さあ、もう起きなさいよ。珍しくぐっすり寝てたみたいね。」
「あ・・・うん・・・。」
昨夜の事は・・・なかった事に・・・したいの、かな・・・?
ナユはとりあえず起きた。
部屋を出る時、先に出ようとしてドアノブに手をかけたナナミが後ろにいるナユにそっと言った。
「昨日は・・・ごめんね?お姉ちゃん、大丈夫だから。とりあえず、これからも一緒に、がんばろうね。」
「ナナミ・・・。」
「まずはあの変なおっさん退治だよね!!」
そう言って、ナナミは振り返り、いつものようにニッコリと笑った。
「うん!!そうだね。・・・ありがとう、ナナミ。」
「じゃあ、行こっか、それにしてもお姉ちゃんて呼びなさいって言ってるでしょー?」
朝食を食べに行くと、すでにビクトール達がいた。
「おう、起きたか。」
「おはようございます。・・・殺戮魔は?」
「あ?あいつなら既に部屋にいなかったみたいだぜ?てゆうかいい加減、ちゃんとした名前で呼んでやれよ?」
ナユはそれには答えずに、席についた。
・・・あの人が僕を貴様呼ばわりするからですよ、とすねたように思った。
どこに行ったのだろう。ていうかなんでそんなにフラフラするんだ?
それに人に変なもの飲ませやがって、と思いつつも、夢も見ないほどにぐっすりと寝ていた事を思い出した。
食後、幾人かで街を歩いていると、街の入り口で何やら軍隊がいるのを発見した。
急いで近寄ると、どうやらジェスが独断で出陣しようとしている様子であった。
どうやら、スパイの情報により、ネクロードの居場所をつきとめた、との事であるが罠の可能性が高いように思われる。
「こちらから討ってでます。死者の群れはネクロードの術によって操られています。ならばネクロードを倒せば敵は一気に壊滅します。」
「だが罠の可能性だってあるんだぞ?よく確認してからだな・・・」
「ほんとうに・・・罠だった場合、ここの守りが手薄になるんですよ?そして罠なら・・・あなたに、あなたを信じた兵士達を守る事が出来るんですか!?第一、普通にネクロードを倒す事はっ」
「なんとでも言うがいい。お前のような奴には言われたくはないがな。」
ビクトールや、そして憤慨したナユの言葉をも聞かず、ジェスは軍を引き連れて出陣してしまった。
とりあえず知ってはいるであろうが、グスタフに報告してくる、とビクトール達は行ってしまった。
ナユとナナミは一応街を見てまわるから、と皆からはずれた。
しばらくは街やお店などを特に異変はないか見て歩いていた。坑道の近くにくると、何やら人が集まっていて何かあったらしい。
「どうしたんですか?」
「お、猫耳ッ子じゃねぇか。」
その言葉にムッとしたが、ナユは黙っていた。
「いやな、どうやら中の坑道で落盤があったみてえんだ。」
「え!?それでみなさんは大丈夫なんですか?」
「いやあ、とっさの事でよ、よく分からねえんだが・・・見当たらない奴が何人かいる・・・」
じゃあ様子を見ないと、とナナミが坑道の中に入る。
「ちょ、ナナミ!!危ないから、ねぇ、聞いてるの!?」
ナユが言ったにも関わらず、ナナミはそのまま中に入ってしまった。
「お、おい・・・」
「・・・しかたありません、彼女を連れ戻すついでにちょっと様子を見てきます。」
「わ、分かった・・・でも、気をつけろよ・・・?」
まわりの男どもはおどおどとそう言った。ナユは黙ってうなずくと、ナナミを追って中に入って行った。
ほどなくナナミに追いつく。
「ナナミ、一旦もどろう。どんな危険な状態かも分からないのに僕達だけだと・・・」
「そ・・・そっかあ、そうよね、うん、ごめん、ナユ。あたし、もし誰かが中で困ってたらって思うと・・・。」
ナユに言われてハッとなったナナミが謝った。
「ううん、だいじょ・・・」
「?ナユ?」
「しっ。」
ナユは耳をすませた。何か違和感を感じた。なんだろう。なにか・・・
そうしているうちに腐臭がただよってきた。
「まさか!!」
「・・・何がまさか、なんでしょうか?」
2人の目の前に、少し前までは炭鉱の男であったであろうゾンビ数人とネクロードがいた。
「っ彼らは!!」
「ああ、その辺に転がってましたのでね、ちょっと仲間にね・・・」
そう言うとネクロードはそのゾンビをしかけてきた。
「ナナミ、気をつけて!!」
「うん!!ナユも!!」
2人は襲いかかってくるゾンビを次々に倒していった。
倒した後もナユはトンファーを持ち構えたまま、ネクロードに言った。
「・・・ジェスさんや兵士達はどうした・・・?」
「ジェス?ああ、あの罠に簡単にだまされてくれたまぬけな彼の事ですか?」
ネクロードはさもおかしそうに言った。
「今頃はわたしの新しいお仲間になっている頃でしょうよ。そしてわたしが仕向けた仲間とともに、この街を襲っているでしょう。」
「そんな、そんな・・・」
ナナミが悲痛な声をあげた。
「そんなに悲しむことはありませんよ。あなたもすぐにそんな彼らと一緒になりますからね。ああ、ナユ。あなたは特別にわたしのものになるがいい。」
「なっ。」
「だっだめ!!そんなのダメなんだから!!」
「うるさい小娘ですねえ。そうゆうのはわたしはあまり好みではないのですよ。」
ナユは浅く息をした。どうする・・・。せめて、せめてナナミだけでも・・・。
このネクロードに勝つことができないのは百も承知だった。
ビクトールの持つ、星辰剣でないかぎり、ダメージ一つ、負わせることすらできないのである。
「とりあえずあなたがたは大人しく言うとおりにはならなさそうですのでね、大人しくしていただくために、呪いをかけさせていただきましょうか。」
月の紋章か・・・?
「幻惑」と「狂気」を司る紋章だと聞いた事がある。呪い・・・。
そういえばこの紋章を持つものから血を分けあたえられる事により、吸血鬼になると聞いた。そして吸血鬼になれば・・・血をすすって生きながらえねばならないが、この月の紋章の力を享受される事でその必要がなくなる。
呪い・・・多分吸血鬼にされ、そしてネクロードの奴隷として生きると言う事・・・。
「く・・・冗談じゃない!!」
「ふふふ・・・もう遅い・・・わが月の紋章よ・・・」
ネクロードはニヤリとしながら詠唱を始めた。
「ナナミ、逃げろ!!」
「だめ、だめよ、ナユこそ!!」
何やらとてつもなく忌まわしい気がたちこめる。
まずい、もうだめなのか!?
いや、だめだ!!ナナミを、ナナミを助けないと!!
その時ナユの右手が光り出す。
ネクロードが詠唱を終え、忌まわしい光を放ってきた。ナユは光り出した手を掲げる。
「たっ、盾の紋章よっ、どうか、どうかっ」
ナナミを守って・・・
膨大な輝く緑色の光があたりを照らす。
そうしてネクロードが放った紋章の力をも飲み込んでしまった。
「な・・・」