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小説PSU EP1「還らざる半世紀の終りに」 第1章

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universe08 闇烏と、山猫と


 オルハは、インカム型のヘッドホンを耳に当て、流れてくる音声に耳を傾けた。
「……で、その時に巫女様がさ……」
「……来月から……だからさ……」
「……そして、……でね……」
 小型端末のパネルを叩き、集音場所を調整して音を拾う場所をいろいろ切り替えてみる。地図と見比べてみると、外と接している部分は全て音を拾える事が確認できた。
 ここはオウトク・シティ近辺の森の中、その中にオルハはテントを設営している。だが、狭苦しいテントの中にずっといると気が滅入ってしまうので、外に出て音声受信用の機械も広げながら、音声のチェックを行っていた。
「こっからが本番ね」
 オルハは口に出して、拳をぐっと握りしめる。
 そう、ここからが本番なのだ。なにせ、星空殿の構造など当然ながら一般公開されてはいない。毎日の偵察で少しでも内部を探り、より深い所に入ってゆかなくてはならないのだ。
 ……だが、これはボクには向いてないなぁ、とオルハは思う。
 彼女はあまりこういう細かい作業は得意ではない。二人で対局するボードゲームのように、先を読んで手を考えるだとか、じわじわと包囲網を作っていくとか、そういうのは向かない。もちろん彼女はまだ若く経験が浅いという事もあるが、性に合わないのだ。
「だからこそ、勉強してこいって事なんだろうけど」
 しかし、こんな重要な任務を一人に任せるなんて、英断もいいところだ。
「あーもう」
 オルハはヘッドホンを放り投げ、両手を伸ばして後ろに倒れこんだ。どうにも集中できない。確かに重要な任務ではあるんだけど、どうにもモチベーションが上がらない。
「なんでボク、ガーディアンになったんだろ……」
 ゴーヴァ鉱山というパルムでもかなり大きな鉱山を営む父のもとに生まれ、『お嬢様』としての華やかな生活が保証されていたはずだ。
 ……父が死ぬまでは。
 起業費用の返却が終わっておらず、鉱山は他の企業に取られる形となり、家以外何も残らなかった。そんな生活の中で母も心労に倒れ、オルハはローゼノム・シティ――パルムの中心に位置する水上都市で、研究施設として発展した街である――近辺の『鉄クズ街』と呼ばれるスラムに流れ着き、ロクでもない生活を送っていた。生きていくために、人殺し以外の悪い事はほとんどやった。
 ……もしあの時、”彼女”と出会っていなかったら、今どうなっていたんだろう……?
「みんな元気かな……」
 懐かしい顔を思い出す。
「おい、娘」
 不意に、声が耳元で響き、仰向けだった視界に人の顔が。わずか30センチの眼前にある。
「!!」
 弾かれるように右側に転がる。右手で体を起こしながら、左手でナノトランサーから愛用の鋼爪をひっ掴みながら立ち上がる。フォトンの刃を発生させた鋼爪を右手に持ち変え、腰に下げている短銃を左手で抜きながら、数歩分後ろに飛び退き、シールドラインのスイッチを入れる。
 ……自分の心臓の音がやたらと大きく聞こえた。気配を一切感じさせず、ここまで近づかれるなんて。向こうがその気だったら、とっくに死んでいた。
「なかなか精進しているようだな、娘」
「……」
 オルハは喋らなかった。向こうの目的が分からないからだ。
 男は、着流しのような浴衣のような、ニューデイズらしいゆったりとした衣服を見につけていた。色は闇夜のように黒く、模様が白く染め抜かれている。腰には長い鞘をぶら下げており、どうやら、斬突を目的とした軽量両手剣……「刀」の使い手のようだった。
 また、目をひくのはその異常なまでに細い体駆だった。身長は180センチ近くあるが、余計な脂肪が一切ついておらず、骨格があらわに感じ取れた。頬骨が四角い顔に目立つ。それがまた、不気味さを増長していた。
「もう夜も遅い。このような時間に、わざわざ隠れて何をしている? 回答次第では、このまま返すわけにはいかぬ」
 オルハはしまった、と思った。思わず条件反射で飛び退いて武器を抜いてしまった事で、一般人でない事がばれてしまったからだ。
「団長、いかがなされましたか」
 複数の人影と、呼ぶ声。オルハは絶望した。包囲されている。闇の中から姿を現したのは、多数の団員たちだった。
 種族も服装もばらばらだ。だが、全員黒色の半被のようなものを羽織っている。また、一人だけいる女性が目立っていた。
「ダーククロウ……」
 オルハは呟いた。噂は聞いたことがある。タカ派の人間たちで構成される、グラール教団に所属する自警団のひとつだ。その実、己の力を高めることのみに腐心している連中ばかりで、荒事には事欠かない連中だと聞いている。
 オルハは右手の鋼爪を握りなおして、息を飲んだ。……よりによって、こいつらも巡回中だとは……。
「じゃああなたが……イオリ?」
「ほほう? 拙僧を知っているか」
「噂は耳にした事があるよ。シールドラインをつけない、剣の達人だって」
「鎧は重いのでな。……それに、それぐらいの緊迫感が無ければ死合いはつまらん」
 言いながら、イオリは右手で剣の柄を取る。ゆっくりと前方で構え、青いフォトンの刃を生み出した。
「さあ娘、かかってこい。楽しませてもらうぞ。……お前らは手を出すな」
 イオリの声で兵たちが各々の得物を降ろしながら動きを止めた。
 しかし、その目は獲物を見つけた虎のように、ギラギラと輝いている。もし負ければその後どうなるか、想像がついた。
「……オモシロイ」
 オルハは絞り出すように呟いた。
 これだ……この殺すか、殺されるかという空気。久々に味わうこの緊張感。この空気はどんなドラッグよりもアドレナリンを引き出せるのを、彼女は知っている。
 まるで猫のようにフーッと息を荒げて、僅かに前傾姿勢をとった。
「はあッ!」
 先に仕掛けたのはオルハだった。まずは短銃を眉間をめがけてぶっぱなす。イオリはわずかに体を屈め、一歩踏み出して避ける。
 もちろん、銃はオトリだ。イオリが一歩踏み出し終える前に、オルハも走り出していた。そのまま勢いをつけて飛び込む。
 イオリが反応した。……近すぎる、刀の有利な範囲には近すぎる。
 とっさに踏みとどまろうとして、ほんの一瞬動きが止まった。
「はッ!」
 それをオルハは見逃さない。勢いを乗せた左足で、前に出ている左足首を右へと蹴りつける。イオリの体がわずかに揺れた。そのままの勢いで右手を突き出す。狙うは左脇腹、つまり内臓だ。
 バチッ、とフォトンの火花が散る。鋼爪と刀がぶつかった。イオリは、とっさに左手で刀を地面に向け、体を守っていた。
「ふむ……速い」
「ボクを甘く見るなッ!」
 左手を持ち上げる。短銃の引き金を絞り、右の脇腹をぶち抜くために。イオリはその銃身に右手をかぶせる。外側へと押され、フォトンの弾は地面へと打ち込まれる。
「まだまだッ」
 体を左に揺らされた勢いのまま、右手を振ってフック気味に突き刺す。狙いは左側頭部。こめかみから脳までぶち抜いてやる。
 イオリは銃身を掴んだ右手を、そのまま正面へぐいと押した。
 オルハはバランスを崩された。上体を大きく上に反らす体制になって、オルハの鋼爪は前髪をかすめて空を斬る。