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小説PSU EP1「還らざる半世紀の終りに」 第1章

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universe11 再度、森へ


「……と、いうわけなんです。すいません」
 オルハは、座っている膝に頭がくっついてしまうぐらいに、下げながら言った。
 一部始終を聞いてから、向かいに座るビーストの女性は深く頷いた。肩口までの栗色の髪が揺れる。ビーストらしいしっかりとした体つきに、ニューデイズ製の鎖帷子を模した衣服を身に着けている。
「まあ、怪我が無かっただけで良かったじゃない」
「えっ? 一部の機材はきっと押収されちゃってますよ? ちょっと調べればガーディアンズ製なのはすぐにばれちゃうじゃないですか?」
「ところが、ね」
 言って彼女はモニタのスイッチを入れ、画面に触る。
「全然、話が来てないのよ。毎朝、重要な連絡のために定時通信をしてるのは知ってるでしょ? 今朝の定時通信で、"ダーククロウがガーディアンと交戦した"って話は、まったく出てないの」
「へ? なんで?」
「それはむしろ私が聞きたいけど。ねぇ、ほんとにグラール教団とモメちゃったの?」
「……?」
 オルハは首を傾げた。
「あ、あと、嬉しい知らせよ。ガーディアンズ本部から連絡があって、明日には補助人員が来るらしいわ。これで任務も一気に進むと思うの」
「……はい」
「そんなに落ち込まなくても大丈夫よ。ミッションに失敗なんてよくあるし、そんなこといちいち気にしてたら、私なんてとっくにクビになってるじゃない」
 言いながら彼女は笑う。ビーストらしく、あっけらかんとした明るい笑顔だった。
「はぁ……」
 それとは対象的に腑に落ちない様子で、オルハは答えた。

 ここはニューデイズのガーディアンズ・オウトク支部。夜が開けるのを待ってから帰還し、直接の上司に報告したオルハだったが、なんだか消化不良に終わった気持ちで一杯だった。
 イオリはなぜ、今回の件を報告しなかったのだろうか?
 オルハは支部入り口近くの川沿いで、体育座りでその流れを見ながら考えていた。
 押収した機材を調べれば、ガーディアンズが教団の事を探っているのはすぐに分かるはずだ……。
 確かに、ダーククロウという組織はグラール教団の自警団の中でも異彩を放つ集団ではある。所詮は外部の雇われ者なので、報告をして得られる直接的なメリットは確かに無い。考えられるのは、彼ら自身に弱みがあること。本来の自警ルートから外れてよからぬ事をしていただとか、教団から直接戦闘を禁じられていただとかである。
「あーもうメンドクサイ。考えるの好きじゃないんだ」
 言いながらオルハは頭をぶんぶんと振った。
 なんにせよ、あの場所にはもう一度行かねばなるまい。荷物がどうなったかも確認する必要がある。
「ん? オルハじゃねぇか」
「ランディ!」
 不意にかけられた声に振り向いて、そこに立つビーストの青年の姿に、オルハは満面の笑みを浮かべた。今年やっとガーディアンズ二年目を迎えたオルハは、一年先輩のランディと実地研修などで何度か同じ任務に就いた事があった。種族も性別も違う二人だったが、生い立ちが似ておりノリが近いのか、まさしく"ウマが合う"という感じで親しくなってしまっていた。
「最近見ねぇと思ったら。何してんだ?」
「川の流れを見てたんだよ」
「そりゃ見れば分かる。最近どうしてたんだ、って話だ」
「んー、ちょっとした任務。あ、他の人に喋っちゃダメだよ」
 ランディはなるほど、と真剣に頷いてから続ける。
「まあ極秘任務はよくある話だ、細かい事は聞かないけどさ」
「それよりランディこそ、こんなとこで何してんの?」
「ああ、これからちょっとしたキャンプだ。調べたい事があってな。……どこ行くんだったっけ、ヴァル」
 ヴァルキリーの方を振り向いてから、ランディは首を傾げた。そうだ、そういえばこの二人は初対面のはずだ。
「紹介が先だな。オルハ、今回パーティを組んでいるヴァル……キ……リーだ」
「はじめまして、ヴァルキリーです。……あいたた」
「? どうしたの?」
「ちょっと二日酔い……」
「ぷっ」
 笑い出したランディを見て、オルハも吹き出す。ヴァルキリーはこめかみを指で押しながら、目を閉じて眉をひそめる。
「大丈夫、ぐっすり寝たからすぐ良くなるはず。二日酔いに利くテクニックがあればいいのになぁ……」
「ははっ、俺は潰れた事が無いからその気持ちは分からねぇな」
 渋い顔のヴァルキリーに、笑いながらランディが言った。さすがは身体能力が高い、ビーストらしい意見だった。
「あ、ヴァル、パートナーカード交換しよ?」
「あ、うん、いいよー」
 これはガーディアンズでいう所の名刺交換だ。とはいえ実際に名刺やカードを渡すわけではなく、ガーディアンズから支給されている携帯端末のデータをやりとりする事によって、通信や任務の情報を共有するための仕組みである。
「ん、OK。よろしくね、ヴァル」
「こちらこそ、よろしくねー。……じゃ、地図出すね」
 ヴァルキリーが端末の画面に地図を映し出す。地図はオウトク山の麓を示しており、オウトクシティからは半日はかかると思われた。
「あー、ここだ、ここ。ちょっと調べ物があるんだ」
「ああ、ここかぁ。途中までなら案内できるよ。ちょうどボクも、これから近くまで行くんだ」
「お、それは助かる。じゃあ途中まで頼むぜ」
 言ってランディはオルハの頭にぽんぽんと手を乗せた。
「むっ。ボクを子供扱いしてるな?」
「してないしてない。もしそのつもりなら、持ち上げて高い高ぁ〜いとか言って遊んでるぜ」
 ランディの言い草にヴァルは吹き出した。確かに、身長2メートル以上のランディが、140センチぐらいの少女を持ち上げている様は親子に見えなくもない。そんなビジュアルが浮かんだのだ。
「ぶはっ! あはははははは……!」
「そこ、笑いすぎっ」
「ごめんごめん、つい……あはははっ」
「まあまあ。本当の事を言われるから怒ってんだよな? あっはっは」
「むっ!」
 オルハは不意に右側にいるランディに向き直って、両手で彼の左手を掴んだ。そのまま体を左にひねって足から飛びついて、右足のかかとで顎を、左足で膝の裏を蹴る。
 ランディがバランスを崩したところで一気に左腕にしがみつき、地面に倒しながら絞め上げた。
「あははは……お、おおお!?」
 不意うちにランディは抵抗できない。そのまま後ろに倒れこみ、左腕は完全にオルハに腕ひしぎで決められてしまっている。
「すまん。調子に乗った俺が悪かったごめんなさいあいてて」
「ギブ?」
 ランディの右手がオルハの足をぽんぽんと叩く。ギブアップの合図だ。
「はいすいません、もうオルハさんの事を子供扱いしないので勘弁してくださいあいててててて」
「よし、じゃあ今日はこれで許してやろう!」
 立ち上がり、腰に手を当てて勝ち誇るオルハに苦笑しながら、ランディは立ち上がった。
「ランディの筋力なら、跳ね返せそうなもんだと思ったけど……」
 ヴァルキリーが素直な感想を述べる。
「無理無理。関節技は筋力があればあるほど抜けにくいもんだ」
「だね。それが分かってるからボクも関節技を覚えたの」
「ふーん……」
 なるほど、前衛で戦うための戦術にもいろいろあるんだな、とヴァルキリーは納得する。
「さて、準備ができてるならすぐ出発するぜ。OK?」
「はーい」