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小説PSU EP1「還らざる半世紀の終りに」 第1章

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universe14 これからも、よろしくね。


「……暇ですわ」
  どうせ誰も答えてくれないと分かっていながら、アナスタシアは呟いた。
「ひーまーでーすーわー」
  あまりにも暇すぎて子供じみた声をあげてみるが、作業に一所懸命で誰もかまってはくれない。
  ここは惑星パルムにある、カズン・ドッグ。パルムはキャストの星だけあって整備施設がかなり充実しており、ここもガーディアンズ公認ドッグの一つであった。
  機械の体というのは、それほど便利なものではない。アナスタシアの体は、昨日のモトゥブの任務でかなりのダメージを受けてしまっていた。部品は砂を噛み、動力炉は地熱でやられ、派手な戦闘のせいでボディもあちこちガタがきている。そんなわけで緊急整備が必要と判断し、パルムに降り立った。
 そういったわけで今アナスタシアは、ワイヤーで首だけを宙に吊られて様々な配線をつないだまま、目の前でエンジニアたちがボディのメンテナンスをしているのを眺めている真っ最中だった。
「よう、アナスタシア。暇そうだな?」
「あ、カズじぃ。そうです、退屈してますわ」
  カズンはすでに高齢のキャストだった。肩幅の広いボディ、太い角張った腕で、全体的にずんぐりとした体躯をしている。白い髭は生えている、というより顔の下半分を覆っていると言った方がよいほどだった。
  彼は腕の良いエンジニアで、同時にアナスタシアの産みの親でもある。そのせいか彼女もまるで実家に里帰りでもしているようにすっかり気を緩めており、ついついはしゃいでしまうのだった。
「しっかし、今回は派手にやったな」
「ええ。丸一日の探索と戦闘でした。モトゥブでの任務はしばらく御免ですわ」
「がっはっは! そら大変だったな。まあ、完璧に整備してやるから安心しな」
「期待しています。……ああ、あとアライメント調整がちょっと甘かったですわ」
「了解了解。お前さんの生体脳は繊細だからな」
  言ってカズンは道具を取り出し、頭部の整備に取り掛かる。手際良くパーツを外し、スロットを開いて覗き込んだ。
「……しかし、大人なったな」
「また。人を子供みたいに」
「何を言っておるんじゃ、お前はワシの大事な子供の一人だ」
  臆面もなく真面目な顔でカズンは言う。彼は、「"子供たち"を作るのに生涯をかけている」といつも口癖のように言う。そして「種族や性別を越えた繋がりを生み出したい」……と。ガーディアンズの公認ドッグは、決して給料が特別いいわけではない。それでも彼は、キャストの、そしてグラールの未来のために"子供たち"を作り続けていた。
「……そういえばカズじぃ、バーバラという人を知ってますか?」
「いや、知らんが。それがどうかしたのか?」
  もしかしたら何か知っているかもと思ったが、聞いてもしょうがなかった。カズンもいきなりの質問の意図が分からないらしく、目をぱちくりと広げて見つめている。
「いえ、別に……なんでもありませんわ」
「そうか。……ところで、パーツのサイズは? 今のまま、子供用のボディのままでいいのか?」
「構いません。わたくしはこれが気に入っているのですわ」
「そうか。しかしお前ももう大人だろ。今で15年だから、人間で言や、25歳ぐらいか」
  キャストは物理的に成長しないため、年を取ると年齢相当のボディへと取り換えて外見を成長させていく。それをアナスタシアはあえて止めていた。また、キャストは人間とは学習能力についての考え方が違うため、年齢の感覚も人間のそれとは違っている。
「これが気にいってるんですの。放っておいて欲しいですわ」
「そうか? ほら、やっぱり女はこう、ばいんばいんのぼいんぼいんでなくちゃいかんわい。がははは!」
(おやじですわ……)
  あえて声にせず思うだけにした。いつもの事で慣れているからである。
「……それで、整備に何か問題はありそうですの?」
「いや、別になさそうじゃ。日が沈むまでにゃ終わるじゃろ」
  話題が変わり、流れが変わった事と予定が明確になった事にアナスタシアは安心した。
「……じゃが、そろそろこいつは叩かんといかんかもな」
  渋い顔でカズンが言うのは、アナスタシアの下半身のパーツの事だった。「エラシエルシリーズ」と呼ばれるパーツで、伝承に語られるキャストのパーツをモデルに作られている。市販品の中ではよくあるものだったが、愛好家が多い品である。アナスタシアは製造されてからずっと、このパーツを愛用していた。
 もちろん、カズンが"叩く"と言っているのは、金属疲労が激しいので板金加工をする、という意味である。
「こんな過酷な任務があるのなら、もっと戦闘向けのパーツの導入も検討してはどうだ?」
「嫌です」
  ためらいなく、アナスタシアは言い放った。
「これはわたくしにとって大事なこだわりですの。違う種類のパーツに変えるのも嫌ですわ」
「分かった分かった。……ところで、たまにはうちにも顔を出してくれんかの。カミさんが会いたがっとる」
「そうですね、またお邪魔しますわ。それに……そろそろ、あの味が懐かしくなってきましたわ」
  アナスタシアは思い出す。カズンの妻であるレミィは、キャスト向けの菓子を作る有名なパティシエだった。手軽に摂取できて有益な栄養の菓子を作り、キャストの間で食事の楽しさを広めるのに貢献しているのである。
「あのお菓子は絶品でしたわ……」
  粉を練ってふっくら焼いた生地に、甘いクリームをふんだんに。もちろん皮はパリッとした歯ごたえに、とろけるクリームが口の中で絡み合う……。彼女の作る"シュク・リーム"は絶品だった。最初に食べてからしばらく、いろんな店をまわってみたがあれを越える味には出会えなかった……。
「……よだれ出とるぞ」
  完全に我を忘れて、悦に入っていた。
「はっ! わたくしとした事が。はしたない」
  カズンがやれやれといった感じで、首に掛けていたタオルでアナスタシアの口元を拭いてやる。されるがままに顔を拭かれながら、ふと気づく。視界の端に、見慣れた影が映った。
「あら、アンドリュー?」
  見えたのはシルバーのボディのキャストだった。がっしりとしたパーツで全身を包み、身長も高い。そんな彼は壁に向き合って、銃型の電動ドライバーの引き金を引き続けている。
「ああ、ガーディアンズの工作班の方が暇らしいんで、こっちを手伝ってもらっとる」
  しかし、彼の様子がおかしかった。かれこれ数分はあのままだ、そんな長いネジなどあるわけがない。それに、よく見れば、そもそも壁にはネジ穴など無かった。
「……また、"あれ"ですか?」
「最近、頻繁に発症するようになってな。どうにも原因が分からん」
  カズンが頭を掻いて言う。"あれ"とは、アンドリューが持つ"キャスト・ナルコプレシー病"の事だった。時々不意の強烈な眠気に襲われ、省電力モードに入るという奇病である。その原因は様々な研究がなされているが未だ解明しておらず、"ごくまれに起こる、電子頭脳と、その周辺機器の相性によるバグ"と定義されていた。何せ、一部の部品を交換しても同じ症状が発生してしまうのだ。製造メーカー側もお手上げ状態で、所有者が望めば部品の交換はいくらでもしてくれるが、それによって解決する事はまれだった。