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小説PSU EP1「還らざる半世紀の終りに」 第1章

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universe16 彼女からの極秘任務


「ランディ、誰も来てないよね?」
「安全でございます、オルハ様」
 ランディは腫れた両の頬をさすりながら、辺りを見渡した。顔にはあちらこちらに引っ掻かれたミミズ腫れができている。なぜこうなったかは、あえて追求しない方が幸せというものだ。
 そんなわけで、オルハとヴァルキリーはランディの事など気にもせず、昨晩テントを張ってあった場所を探索していた。その間無防備な二人を守るために、ランディが見張りをする事になっているのである。
「うーん……ものの見事にめちゃくちゃだなあ」
 オルハは腰に両手を当てながら、地面を見下ろしながらため息をついた。
 昨晩オルハは、テントの中でいくつかの機材を広げて偵察を行っていた。音声を拾い、その情報から位置情報を割り出し、同時に本部へと転送する装置である。小型化されているとはいえ、30センチ四方ぐらいの大きさに10センチぐらいの厚みはある。もちろん、それに付随するフォトンアンテナやスピーカー、モニタなどの小道具もいろいろと広げていた。
 それらは全て、テントごとめちゃくちゃに叩き壊されていた。壊れたテントの骨組みが風で少し揺れて、悲しい金属音を響かせる。
「……きっとデータを抜いてから破壊してるよねえ……」
 ヴァルキリーが呟く。データを分析すれば、"教団を偵察していたこと"が、データの形式と機材の形状から"ガーディアンズの機材であること"は容易に結論付ける事ができる。一番恐れていた事が現実になった事を思ってか、オルハはそれに答えずに、ゆっくりと小さなため息を返した。
「……だめね、特に何も分からないわ」
 ヴァルキリーがフォトンの流れを読んでから、首を左右に振りながら答えた。
「そっか……そりゃあそうだよね」
 オルハは肩をすくめて両手を広げ、なるべく明るく聞こえるようにそう言った。どうしようもない事態だと分かってしまえば、後は良い方へ向かうしかないため多少は余裕が出てくるものなのだろう。
 それに、こんな大げさな話になってしまうと、もうオルハの出番はない。政治的な方たちの出番だ。現実逃避にしか過ぎないとは分かっているが、少しはオルハの気も楽になる。
「オルハ、他に何かある?」
「うーん、あるようなないような……」
「?」
 いやに気難しい顔のままはっきりしない声で答えるオルハに、ヴァルキリーは首を傾げた。
 グラール教団の近辺をガーディアンズが探っていた、というだけでも大スキャンダルなのに……それ以上に困った事態? まったくもって想像がつかない。
 オルハは、眉をひそめたままでうーんと唸ってから、胸の前で腕を組んだ。
 人があまりいない地域という事もあり、テントの中に個人的な荷物の一部はずっと出したままだった。それは、着替えや暇潰し用の雑誌、後はおやつなどである。
 隠密行動中で最も困るのは、体を洗えないということ。オルハは決して綺麗好きというわけではなかったが、年頃の女性として当然の心理と言えた。いくら秋口とはいえ、まだ普通にしているだけで汗もかくし、運動量だって少なくないのが任務というものだ。なので、着替えは多く持ってきていた。
 そころが、その一部が見当たらないのである。
 近くを探しても風で飛ばされたわけではなさそうだし、だとすれば回収されたと思うしかない。問題なのは、その回収されたと思われる"一部"なのだ。
「……オルハ? 顔色悪いよ?」
 そっとヴァルキリーが顔を覗き込んだ。オルハは僅かに青い顔で地面を見下ろしたまま、動かなかった。額には脂汗が浮かんでいる。
(……まずい。これはまずい……!)
 ……子供の時から大好きな"甲獣戦隊コルトバン"。
 四足獣にしか見えない風体だが実は甲殻類である、"コルトバ"いう原生生物がパルムに生息している。"コルトバン"とは、それをモチーフとした子供向け特撮ヒーローアニメ番組である。
 その主役であるコルトバン・レッドが、尻に大きくプリントされたパンツをこの年になっても履いていたなんて……誰にも知られたくない。見られたくない。よりによって、なんでそれを持ってくんだよ……。
「な、なんでもない。なんでもないよ、アハハ……」
「……?」
 乾いた声で笑うオルハに、ヴァルキリーは首を傾げた。深く追求しないのが大人のマナーかな……と自己完結させておく事にする。
「そ、それより。そろそろお昼にしよ? ……おーい、ランディ! お昼食べるよ!」
「分かりました、オルハ様ー」
「それはもういいから!」
「……やれって言ったの誰だよ」
 三人は周辺にマットを広げて座りだす。ランディは市販の弁当を取り出し、ヴァルキリーは大きなバケツのようなもの――私物の弁当箱らしい――を取り出す。二人とも厳密にはまだ任務を開始していないので、食事もちゃんとしたものを用意してきたようだった。
「オルハ、案内ありがとうな。俺たちは奥地に向かう、現地を詳しく調べなきゃいかんからな」
 ランディが弁当箱から取り出した、サンドイッチを頬張りながら言った。
「そうだね、それが最優先だね」
 ヴァルキリーが弁当箱をいそいそと開きながら、同意した。高さ50センチはあるバーレルの中には、骨付き肉や唐揚げなど肉のオンパレードだったが、誰もそれにはあえて言及しなかった。
「しかし、変な話だね。死体からA・フォトンが検出されるって」
 オルハもゼリー状の携帯食料をすすりながら、不思議そうに言った。任務の内容については、道中一通り聞いていた。
「まあな、まったくもって意味が分からん」
「そもそもさ、アルファ先生に分からないものがボクらに分かるとは思えないよね」
「同感だ」
 ランディとオルハは、腕を組んで深く頷きあう。なんだか変な連帯感が生まれていた。
「……あ、しまった」
 不意に、オルハが声をあげた。
「そういえば朝、人員増強してくれるとか言われたんだよね。ボク、一旦報告も兼ねてご飯食べたらシティに戻る」
 そうだ、朝にそんな話があったが詳細を聞いていなかった。上司がドジなせいもあるが、オルハも負けてはいない。
「そうだな。気をつけて戻れよ」
「うん。ランディたちこそ、頑張ってね」
「ああ、ありがとうな。……さて、腹もふくれたし、行くか?」
 ランディがゆっくりと立ち上がりながら、言った。ヴァルキリーもそれに続いて立ち上がる。
「またね、オルハ」
「うん、ヴァルもね。じゃあ、またね!」
 歩き出す二人の背中を見送りながら、オルハはちょっと寂しくなっている自分に気づいた。一度パーティを組むと、一人になるのが寂しくなる。オルハはかぶりを振って、ゆっくりと息を吐いた。
 だが、同時にそれを普通だと思っている自分もいる。やるかやられるかの世界に長かったせいか、信じられるのは自分の能力という事実も、体感的に理解していた。
 そう、しばらく一人で隠密をしていたから、一時的にセンチメンタルな気分になっただけだ。そう結論付けて、シティへと向かって歩き出す。
 ……そういえば、ガーディアンズに入ってからいろいろと大事な思い出が増えている。初日から研修講師が気に食わなくて大暴れし、ついたあだ名が「腐れ山猫」だ。ロクなもんじゃないが、今となってはいい思い出だ。