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小説PSU EP1「還らざる半世紀の終りに」 第1章

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universe18 このけだものめッ!


 二人は、樹海に近い森の中を歩いていた。周りはほとんど木で埋め尽くされ、空は半分以上が隠されてしまっている。足元もたくさんの雑草が生え、落ちた枝や葉などが散乱しており足場が悪い。もともと湿気を多く含んだ土が、それに拍車をかけていた。
「ね、ねぇランディ……休憩しない?」
「何言ってんだ、さっき休んだばかりだろーが?」
 音をあげるヴァルキリーに、ランディは振り向きもせず答えた。確かに足場が悪く歩いているだけで体力を持っていかれるが、ランディはそれを意に介さない。
 何より、すでに午後3:00を過ぎていい時間になってきていたからだ。例の死体が発見された場所まではあと少し。陽が完全に傾くまでに目的地に到着しておきたかった。
「きーっ。ランディと違って私はか弱いんですからねっ」
「……」
 それには答えず、ランディは前を見ていた。違う事を考えていたのだ。言うまでもなく、今回の事件についてである。
 不可解な事が多いのもあるが、嫌な予感がする。理屈じゃない、野生の勘がそれを告げている。
 よくよく考えれば最近は悪い事続きだ。SEED襲来、"カマイタチ"なる事件の発生。そして不可解な死体。おまけに今日は、おかしなキャストに蜂の巣にされる始末。不快な話題は枚挙にいとまがない。
「……考えても仕方ねぇか」
 ランディは独りごちた。小さく息を吐いてかぶりを振る。
 それから、ふっと我に返ったように首をもたげる。鼻を鳴らしながら前方を見つめる瞳は、いやに真剣だった。
「ヴァル」
「……ん?」
 少し後ろで汗だくになっているヴァルキリーに、いきなり振り向いて言った。
「なんか獣臭くねぇか?」
「……? あぁ、それ自分の臭いじゃないの? ぷぷっ」
「……これは……?」
 ヴァルキリーのからかいを気にせず、五感を研ぎ澄ませて感じ取ろうとする。
 ……なんだ? この匂いは。獣のような、それでいて人間のような。だが、それだけではない何かが混じっている。獣……いや、だが原生動物などではない……。
 空を見上げて空気を見る。こちらが風下なのが幸いしていた。
「……ただの野良ならいいんだが」
「?」
 頭上にハテナマークを浮かべたヴァルキリーをよそに、呟いた。
 どちらにせよ、得体の知れない"何か"がいるのは確かだ。
「ヴァル、警戒した方がいい。変な"臭い"だ」
「……? うん、分かった」
 ヴァルキリーも勘付いたようだ。すぐににガーディアンの顔になってゆく。
「ついでに、フォトンの流れを見てくれると助かる」
「OK」
 ヴァルキリーがすっと視線を上げた。フォースの知覚でフォトンの流れを感知し始める。
「……わずかに、不自然な流れがあるよ」
「やっぱりな……何か分かるか?」
「……自然界にないフォトンが混じってる。SEEDに侵食された生物や、人造生物に近いけど……なんか違う。こんなの見た事ない……」
 不思議そうな顔で彼女は言う。
 ……なんだろう、このフォトンは? 今までに感じた事のないものだ。
「強いて言うなら……不自然すぎる」
「?」
 ランディは返答に迷っている。それもそうで、フォース独自の視点は、彼には分かるわけがない。
「何にも当てはまらない。でも同時に、何者でもある」
「? 矛盾してるな」
「そう、矛盾してる。……例えるなら……デザインは同じだけど、左右色違いの靴を履いてるようなもの……気持ち悪い」
 その言葉にランディは首を傾げる。意味はよく分からなかったが、ひとつだけはっきりした事がある。
 それは、"違和感"。
「……とにかく、だ。謎の生き物がいるのは確かだな」
「うん」
 頷くヴァルキリーに頷き返してから、ランディはナノトランサーから鋼拳を取り出して両手に着けた。
「すでにここは戦闘区域か……パーティの始まりだぜ」
「今日のメインディッシュは何かしらね?」
「さあな」
 つっけんどんに言いながらも、その口元は笑みを浮かべていた。
 ――どうにも最近はイラつく事が多い。スッキリさせてもらおうじゃないか。
「俺が先に進んで見てくるから、様子を見ててくれ。何かあったら、端末で教えて欲しい」
 ヴァルキリーは頷いて、自らも両手杖を取り出した。そのまま、その場に待機して辺りを警戒する。
 ランディは拳を構えて、ゆっくりと前に進み始めた。
「ヴァル、なんかあった時の手筈は分かるな?」
 端末のマイクを通して、ランディが言う。
「ランディが突っ込むのを、補助と回復で援護……そればっかりだね」
「理にかなってるだろ?」
「まあね」
 吹き出すヴァルキリーの声に不敵な笑みを浮かべながら、ランディは前へと歩いてゆく。
「……臭いが近づいてきた。近いな」
 鼻をすんと鳴らして、辺りを見渡した。前だけでなく、木の上や陰も警戒する。
 相手の正体が分からないというのは、大きなマイナスだった。相手が分からなければ作戦の立てようがない。つまり何の準備もできないという事だ。それがランディをあせらせていた。
「……ん? ちょっと待て。これは……」
「どうしたの?」
 思わず洩らした言葉に、ヴァルキリーが答えた。
「……まずいぞ。血の臭いがする」
「!」
 その時だった。
 二人は弾かれたように顔を上げる。
 わずかに声が聞こえたような気がしたのだ。
「……ヴァル、今の声、なんと言っていると聞こえた?」
「……"助けてくれ"、と……」
 次の瞬間、ランディは走り出していた。
「! ちょっと、ランディ!」
 慌ててヴァルキリーも駆け出す。
 先行するランディが200メートルほど走って、その視界に何か動く影が目に入った。人影だ。
 人影は五人。明らかに一回り大きいのが一人いて、そいつが残りの四人と戦っている。
 すぐに、ぎゃあという叫び声と同時に、小さな影が一つ、崩れ落ちた。
「なんだかよく分からんが……!」
 その場まであと100メートル。状況が見えた。
 大きな影は金髪のヒューマン男性だが、両手がやや長く、大きい。あれは……ビーストフォームをとった者の手ではないか。大きく見えるのは、手足が大きいのとその長さが常人より長いからだった。
 小さな影は、どれもビーストだ。しかも、よく見ると地面にはさらに数人、ビーストが倒れていた。
 ランディの判断に、迷いはない。
「俺はこっちの味方だぁ!!」
 叫びながら、金髪の男に突進してゆく。
「!?」
 突然の増援に、男はひるんだ。その隙にランディは一気に懐に潜り込み、その右の拳を脇をしめて握り込む。体を右に大きくひねり、振りかぶる。左足を踏ん張り、勢いを乗せた拳をまっすぐ伸ばして叩きつける。どずんと鈍い音が響いた。
 伸ばした拳はちょうど巨体の腹部をえぐるように突き刺さ……ったのだが。
「……?」
 感触がおかしい。柔らかい腹部を殴った感触はちゃんとある。だが、明らかにいつもと違う。
「……なんだ? 素手でシールドラインを殴ったような……」
 自分の拳に視線を移して、ランディは目を疑った。巨体に触れている箇所のフォトンが、消えている。これでは、籠手でぶん殴っているのと同じだ。シールドラインに阻まれて、効くはずがない。
「……たまの模擬戦なんだから、邪魔しないでよ」