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小説PSU EP1「還らざる半世紀の終りに」 第1章

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universe19 繋がってゆく、糸


 午後4:00。秋口の涼しい風が、日没が近い事を教えている。オウトクシティから2時間ほど歩いた時には、すでに太陽が傾きかけてた。
 自然の中を黙々と歩いていると、不意にオルハが「は〜ぁ」と大袈裟なため息をついた。
「どうしたの?」
 様子を察して、イチコが声をかける。
「昨日から、この辺に来るの三回目なんだけど……」
「おお〜。そんなにこの辺が気に入ったの?」
「そうそう、近くには温泉もあるしね……って違う! 任務だよ!」
「温泉ですか」
 二人の話に、意外にもファビアが食いついた。
「私、子供の頃からよく行ってたので、温泉が大好きなんですよ。何か良い効能があると聞いては、家族で出掛けたものです」
 体が弱いからだろうな……とオルハは思ったが、あえて声にしなかった。代わりにイチコが答える。
「へぇ、そんなにいい所があるの?」
「ありますよ。ニューデイズだと、自然と一体型の露天の温泉が多いですね。モトゥブ奥地には休火山の近くにたくさんありますし、パルムだと都市型の温泉があります。一番覚えてるのはモトゥブ奥地の秘湯ですね。周りが雪に囲まれていて、景色が最高なんですよ」
 ファビアはまるで、水を得た魚のように喋り出す。心からの笑顔で、楽しそうに語っていた。
「その効能も、女性が喜ぶようなものが多く、とにかくすごいんです」
「へぇ、どんなの? どんなの?」
 反応したオルハに、ファビアが笑顔で手招きする。オルハが嬉しそうに近づいて、耳を向けた。
「……オルハ、気づいてますか?」
「えっ?」
 急にファビアが真面目な顔で見つめるのに、オルハは一瞬戸惑った。
「……ああ、尾行ね。うん、もちろん。街を出てすぐ、ずっとだ」
 だが、オルハすぐにその言葉の意味を理解して答える。
「そんなに早くから? ……それをあえて無視してたんですか?」
「うん。昨日はダーククロウのボスと一戦交えたし、今日は昼にキャスト集団と一戦交えたし。正直、めんどくさい」
 オルハがため息をつきながら、両手を開いて答えた。
「……ほんとに豪胆な人ですね、あなたは」
 ファビアはあきれた、というよりほうけた顔で呟くように言う。それもそうだ、何があるのか分からないのに、その危険性を放置し続けていたのだ。
「それ、褒めてるの? ゴータンってどういう意味?」
「ねーねー、何そんなに楽しそうに話してるの? 私もまぜてよ」
(……どこが楽しそうに見えたんでしょうか……?)
 腕をばたばたさせながら言うイチコに、思わずファビアが心の中でツッコんだ。
「あのね、イチコ」
 オルハがささっと近づいて、彼女の耳元に顔を近付ける。
「なんか尾行されてるみたい」
「えっ! 尾行!?」
「ちょっ! 声がでかいよ!」
 オルハの小さな手が、慌ててイチコの口をふさぐ。もがもがとイチコはもがいて、ばつが悪そうに小さい声で話し始めた。
「ごめんごめん……で、どうするの?」
「とりあえず当面は……何も知らないフリをするのがいいんじゃないでしょうか」
 ファビアが会話に入ってきて、小声で提案した。その表情は予想外の出来事の対処に困っているように、わずかに眉をひそめて暗い顔だった。
「相手が何者なのか、目的は何なのか、何も分からないですから。機を見て情報を得ましょう」
「じゃあボク、今から見てこようか? そういうの得意だし」
 オルハが自分を指さして言った。確かに小柄で素早いオルハが適任ではあるが、役割が役割だ、危険性が高い。二人はそれを思い、渋い顔で唸る。
「オルハ一人じゃ危険だよ」
「へーきへーき。遠くから見てくるだけだよ」
 ファビアとイチコは迷った表情で顔を見合わせた。確かにそれは助かるのだが、そのリスクはどの程度のものか、想像もできないのだ。
「じゃあ、行ってくるね♪」
「ちょっ」
 無言を了承と捉えたのか、オルハはそのまま草むらの中に飛び込んで行ってしまう。
「行っちゃった……」
「……仕方ないですね。まあ、何かあれば携帯端末があるので、大丈夫でしょう……」
 ファビアがため息をつきながら、言った。
 それをよそに、オルハは来た道とつかず離れずの距離で、森の中を街へと走っていく。
 草木は少なくはなかったが、オルハも手慣れたものだ。足音の起こりやすい落ち葉や足跡の残る土の上は避け、素早く走ってゆく。生い茂る草木に触れる事は痕跡を残す事というのも当然理解しており、障害物を避けながら走り続けていた。
 500メートルほど走ると、人影が見えてきた。とっさに大木の影に隠れて観察する。
 ヒューマンが二人。黒い半被を羽織っているという事は……彼らは、ダーククロウの団員だ。
 一人は、左右の腰にこれ見よがしに二丁の銃を差している。パルムのデザインらしい、洗練されたラインの入った上着を羽織り、スリムなシルエットのパンツをあわせていた。髪形も短髪ですっきりとまとめており、細身の男性特有の色気を醸し出していた。もう一人はワイルドにモトゥブ製の上着に、ハーフパンツをあわせている。一見ぼさぼさの髪がワイルドさをさらに増長する。
 二人とも散歩気分なのだろうか、あくびをしたり雑談に花を咲かせたりと緊張感を感じない……が、油断はできない。これも作戦かもしれないのだ。
 さて、どうするべきか……オルハは腕を組んで、思考を巡らせた。
 優先事項はまず、相手の情報を少しでも多く。交戦する可能性は低くはない。
 次に、目的の見極め。尾行をすることによって、何を達成しようとしているのか。偵察? それとも斥候?
 しかし、彼らはあまりに緊張感が無いのでそれほど血生臭いことではないだろう。恐らくはイオリに言われてこちらの情報収集といった所だろうけど……でも、それならこんな奥地まで尾行しなくても良さそうなものだ。
「もしもし、ファビア?」
 埒があかないと思ったオルハは、端末を取り出して小声で話し始める。
「ああ、オルハ。いきなり飛び出していかなくても……」
「ゴメンゴメン。とりあえず奴ら、"ダーククロウ"の団員だよ」
「!」
「すぐに戻るね」
 ファビアが何か言いかけていたが、オルハは気にせず通話を切って、端末をポケットに放り込んだ。
 迷わず踵を返して、来た方向へと走り出す。ものの5分もかからないうちに、皆の元へ戻ってきた。
「おまたせ−」
 オルハは草むらから言いながら姿をあらわす。
「で、どうする? 向うはすっげーやる気なかった。なんか放置してても害はなさそうだけど」
「もうしばらく様子を見ててもいいんじゃない?」
「……そうですね。ですが……」
 言ってファビアは空を見上げた。西の空が赤く染まり、美しい夕焼けが見えた。木々の葉を赤く染め始めており、幻想的な光景が広がり始めている。
「陽が暮れてしまうと、怖いですよ。何をするにもやりにくくなります」
「うーん……それは確かに……。じゃあもう、やっちゃお?」
 オルハは腕を組んで眉をひそめながら、残酷な事をさらりと言い放つ。
「そんなぞんざいな」
 ファビアは苦笑しながらサングラスを中指でずり上げてから、答えた。
「……でもまあ、それが一番手っ取り早いでしょうね。増援や他の危険性は無さそうですか?」