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カイトとマスターの日常小話

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あらしのよるに。







 窓を叩く雨音に顔を上げる。…心なしか、遠くで空を揺るがす音が聴こえる。

 …こりゃ、こっちに来るな。

念のため、パソコンのコンセントを抜いておくか。実行したところで、ピカッと稲妻が空を走る。それを、きれいだと思う人間は多いのか少ないのか…。…多分、今、落ちた雷に大音量で悲鳴を上げたカイトには雷は恐怖の対象か…。

「ひゃ〜〜〜ッ!!!!」

音がなる度に隣の部屋からは悲鳴と、ガタガタと物音がする。…大丈夫か、アイツは。心配になって、寝床を出て、カイトの部屋のドアを叩く。
「カイト、大丈夫…っのわッ!?」
ドアを開けた瞬間、突進され俺は強か頭を壁にぶつけた。痛ぇ。怒鳴ろうと口を開きかけて止めた。カイトはぎゅうっと俺に抱きついて、涙をぽろぽろ零しながらでガタガタ震えていた。この状態で怒鳴りつけたら俺の方が悪人だ。
「いやっ!!」
ピカッと稲妻が走るのと同時に轟音が鼓膜を震わす。それと同時に俺に抱きつくというよりしがみついてるカイトがぐりぐりと頭を擦り付けてくるので肋が折れそうだ。
「カイト、落ち着け」
後頭部は痛い、肋も痛いが、カイトを宥めるのが先だ。肩を叩いて、頭を撫でてやると、カイトは顔を僅かに上げた。
「っ、ふぇっ、」
「男前が台無しだなぁ」
カイトのきれいな顔は涙と鼻水でぐしゃぐしゃ…鼻は擦れて真っ赤、目も泣き腫らして大惨事になっていたが、それを可愛いと思ってしまうあたり、俺の親(カイト)馬鹿っぷりも筋金入りかもしれない。
「…ま、ますたぁ、っひゃっ!!」
また雷が落ちる。既にオレの寝巻き代わりのシャツはカイトの鼻水と涙でぐしゃぐしゃ…。拭くものもないので、それで情けないカイトの顔を拭ってやる。
「雷、怖いのか?」
カイトはそれにこくこくと頷いて、身を竦めた。
「…あんなおおきい、おと、…こわい…」
そう言えば、カイトが雷を体験するのは初めてだったかもしれない。
「もう少ししたら、遠くにいくから」
震える肩を抱いて、あやすように背中を叩く。カイトはぎゅうっとオレの背中に腕を回してきた。
「…ほんとに?…ひゃあ!!」
伺うようにおずおずと見上げたカイトが差し込む雷光にきつく目を閉じ、胸に伏せる。
「カイト」
「…ふぁい」
くぐもった返事が返ってくる。
「…俺の部屋に来るか?」
「え?」
顔を上げたカイトが驚いたように俺をぽかんと見上げた。それも束の間、轟音にまた悲鳴を上げて、これ以上縮こまれないだろうに、俺とそう変わらない図体をカイトは縮こめる。…何か、小動物みたいだ。
「…ま、まますたぁ」
「今日だけな」
雷が鳴り止まない限り、カイトは俺を放すつもりはないようだし。隣で雷が落ちるたびに悲鳴を上げられていたのでは、俺も寝付けない。カイトはそれにぐしゃぐしゃの顔で嬉しそうに笑った。




「…あんまり、くっくな」
「ううっ、だって、こわいんですもん」
俺がそばにいるからか、安心したのか…カイトは時折、音と光に反応するものの落ち着いてきたようだ。俺の懐に潜り込んで、もそもそと動いていたがそれもなくなり、静かになる。
「…カイト?」
呼びかけても返事はない。頭の先まで布団の中に潜り込んだカイトの蒼い髪の毛先が少し覗いているだけ。布団を捲るとカイトはオレの胸にぴたりと顔をくっつけ、寝息を立てていた。息苦しくないのかと思ったが、寝顔は安らかだ。目尻に溜まっていた涙を拭って、布団を戻すと、俺も目を閉じる。…雷鳴は既に遠い。

「…おやすみ…」

胸の中にある体温が眠気を誘う。いつもよりも眠りに落ちていくのに時間はかからなかった。






小鳥の囀りで目が覚めた。
寝起きはいつも最悪なのだが、今日はそうでもない。外は嵐が去って晴れたのか、カーテンの隙間から差し込む光が眩しい。
(…たまには俺が朝飯作るか…)
朝に弱い所為で朝食を作るのはカイトに任せ放しだ。カイトは珍しく、まだ眠っている。布団を少しだけ捲ると、胎児のように身体を小さく丸め、寝息を立てている。起こさないように身体を起こす。…が、5センチのところで俺の身体は動かなくなった。
「………」
カイトがしっかりと俺のシャツを掴んでいた。…どうしたもんかと思い、俺はまたベッドの住人になる。それにしても、寝苦しくはないのだろうか?長い脚を折りたたみ、ひたりとシャツを掴むカイトに、

 胎内回帰…。

そんな言葉が寝ぼけた頭の中に浮かぶ。不安や恐怖も感じない、柔らかく暖かな自分を包む母親の胎内は至上の楽園だ。その楽園を追い出されて、人は生まれてくる。…カイトは母親の胎内など知ってるはずがないのに、まるで母親の胎内でそのぬくもりを感受し、与えられ奪うことを悦びに甘える胎児のようだ。

…男の俺にそんな母親のような柔らかさも、やさしさもぬくもりもあるはずないが…。

男に母性はない。…だが、慈しむとか母性めいたそういう感情はあるのだろう。…単なる、庇護欲かもしれないが、それでいいと思う。
 髪を梳いて、撫でてやる。カイトは些細なスキンシップが好きらしい。褒めて、頭を撫でてやれば嬉しそうに笑うし、最近はあまりなくなったが、前は抱きついてくることが多かった。触れらたり、触れられたり、体温を感じるとほっとするらしい。
「…ますたぁ?」
蒼い睫毛が震える。何度か瞬いて、ぼんやりとする視線をカイトは向けた。
「お早う。雷はもうどっか、行ったぞ」
前髪を掻き上げる。カイトは眩しそうに目を細めた。
「…おはようございます…。雷、もうどっか、行っちゃったんですね…」
呟くように語尾が萎んでいく。
「怖いのが遠くに行ったのに、寂しそうだな」
「…だって、マスターにくっつけないし…」
「…お前な、…早く、親(マスター)離れしろよ」
お前は子供か…いや、確かに図体は大人だ。でも、まだ中身はそれに追いつけずにいる。
「えー、無理ですよ。…僕、マスター大好きだし。……マスターは僕が嫌いですか?」
じっと蒼い目にひたりと見つめられる。俺は小さく溜息を吐いた。
「嫌いなら、寝床にはいれてやらないし、一緒には寝ないだろ。…ほら、起きるぞ」
カイトは素直で可愛い。でも俺は捻くれているので、好きとかそんなことは簡単に口には出来ない。身体を起こそうとすると、カイトが抱きついてきた。
「こら」
「…もう少しだけ、このままでいたいです。…駄目ですか?」
カイトのお願いに俺は弱い。…コイツがそれを解ってるとしたら、その上目遣いは確信犯だ。
「…少しだけだぞ…」
「…ふぁい…」
腰に腕を回し、頬をすり寄せるカイトの頭を撫でながら、俺は小さく溜息を吐く。

子(カイト)離れ出来ないのは、俺の方かもしれなかった。




オワリ