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カイトとマスターの日常小話

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冬支度〜こたつの恋しい季節です。〜








「…お早う、カイト。今日は寒いな…」

パジャマの上にカーディガンを引っ掛けた猫背なマスターがリビングに顔を見せる。今日はいつもより起きて来るのが早いな…なんて、思いながら、急須に茶葉をひとすくい。お湯を注いで暫し、待つ。…マスターの朝は、マスターが僕より早く起きてきた日を除いて、お茶から始まり、ご飯に味噌汁、後、自家製糠漬け(マスターの家に伝わる年代ものらしい)と至って、純和食かつ質素な朝ごはんだ。それに時々、鮭の切り身やら卵焼きがつく。たまにトースト、ハムエッグ、サラダ、コーヒーなんてときもあるけれど、頻度はかなり低い。
「おはようございます。今日は早いんですね」
「…んー。…今日は寒くて、目が覚めた…」
ふあと欠伸をひとつ。目尻に涙が浮かぶ。それを拭って、マスターは僕が入れたお茶を口にし、新聞を広げた。
「…今日から真冬並みに寒くなるって、書いてあるなあ」
「そうなんですか」
「…いよいよ、アレの季節だな。…今日は天気も良いみたいだし、アレを干すか…。物置から、ちゃぶ台出して来ないとな…」
マスターの呟きに首を傾ける。…アレって何だ?…と、思ったけれど、甘い卵焼きは直ぐに焦げてしまうので、そっちに意識を集中させる。今日の朝ごはんは、豆腐と小松菜の味噌汁にマスターが最近ハマってる雑穀入りのご飯、そして、マスターが漬けたきゅうりの糠漬けと僕が作った卵焼き。テーブルに並べると、マスターは新聞を閉じた。
「いただきます」
「いただきます」
マスターは必ず手を合わせて、そう言う。僕もそれを真似する。
「…お前の作る卵焼きさ、砂糖入れすぎじゃないか?」
「えー、こっちの方が甘くて美味しいですよ」
「…この甘党め」
マスターはいつも僕の作る卵焼きに文句を言うが、残さずにいつも食べる。ごちそうまと食べ終えて、食後にお茶を飲むと朝食の後片付けはマスターがする。最初は僕がやっていたんだけれど、いつの間にかそうなってしまった。僕は片づけをマスターに任せて、洗濯物を干す。縁側の少々立て付けの悪い硝子戸を開いて、かごを抱えて庭に出る。ぴゅーと冷たい風が僕の頬を撫でた。
「…ひゃー」
風の冷たさに首を竦める。空気は澄んで、庭の柿の実の色がより濃く見える。空がとてもきれいだ。
「…うお、寒っっ」
かさかさと枯葉が立てる音にマスターは首を竦め、庭に下りてきた。そして、腕に抱えていたそれをばさりと竿に広げた。
「…何ですか?それ。…布団?」
「炬燵布団。…冬はやっぱ、コレだよな。出すの面倒だけど」
マスターはうさぎがぴょんぴょん跳ねた和柄のふかふかとぺらりとした布団を干し終えると、庭の片隅にある物置の引き戸を開いた。
「…どこに仕舞ったか…」
そう言いながら、物置の中に消えて、しばらくすると脚の付いた丸い台を抱えて出てきた。
「…後はコードだな」
その台を縁側に置いて、マスターは再び、物置に入っていく。そして、スイッチの付いたコードと天板を手に出てきた。
「後は布団が乾けば準備万端だな。…ああ、そうだ」
それをいつもは使わない庭が見える居間に持ち込んで、マスターが口を開いた。
「カイト、お前、ちょっとこれ着てみろ」
マスターが僕に差し出して着たのは艶やかな花柄の赤い生地のふかふかしたもの。僕は言われた通りにそれに袖を通した。
「…顔がいいとなに着ても似合うな。…って言うか、違和感ねぇな」
「意味が解りません。…で、コレは何なんですか?」
「ねんねこ…って今は言うのか?…綿入れだ。…俺のばあさんが母さんの晴れ着が虫に食われて着れなくなった着物で作ったんだとよ。昔は俺が着てたんだが、お前にやるわ」
「え?…いいんですか?」
「お前、寒色系だから、寒く見えんだよ。見てるこっちが寒いわ。赤いそれ着てたら、まだマシに見える」
僕が寒色系なのは仕様なのだから仕方ない。…夏場、僕を見て、マスターは暑苦しいと言ってたのに、冬になってこんなことを言われるとは心外だ。…でも、このねんねこという服はマスターのお古らしい。…そう言えば、マスターの匂いがする。
「ありがとうございます」
何か嬉しい。僕が笑うとマスターはくしゃりと僕の頭を撫でた。
「どういたしまして」
マスターは仕事部屋に入っていく。それに僕も続く。…マスターと僕が住む家は6LDK。マスターが仕事部屋に使ってる部屋と寝室、僕の部屋、キッチン、風呂だけは今風に使いやすいようにリフォームした以外は昔の家の雰囲気…昭和風(マスターが言ってた)らしい。築40年だと言っていた。
この古い家が僕は好きだ。家族というものがどんなものか、僕は知らないけれど、そのぬくもりみたいなものがあっちこっちに残っているから。柱の傷だとか、マスターが小さい頃に描いた絵や作文が大事にとってあるのを見ると心が温かくなる。
「さて、仕事すんぞ」
「はーい」
さて、今日も元気にマスターのお仕事が捗るように歌いますか!








昼食はマスターがカルボナーラを作った。

時々、無性に食べたくなる…と言っていた。本当はぺペロンチーノが食べたいみたいだけど、僕が辛いのが駄目なので気を使ってくれてるらしい。マスター、ありがとう。マスターが準備したときは、後片付けは僕がする。
いつもはお茶を飲んでぼーとしてるマスターは庭に下りて、ふかふかとぺらりとした布団を取り込んで、何やらやり始めた。
「日本の冬はやっぱ、これだよな」
テーブルに布団が被せてある。…これが「こたつ」なんだろうか?
「…はあ。落ち着く」
こたつに早速、足を突っ込んだマスターがしまりのない顔で呟く。
「カイトも入るか?」
「はい」
マスターと同じように足を突っ込む。………あったかい。
「あったかいですね」
「…だろ。…去年は面倒臭いから出さなかったんだけどな。…お前もいるし、いいかと思って」
「僕がいるから?」
「ひとりでこたつ入ってんのも寂しいしな。…ま、絵的には野郎ふたりじゃ、うすら寒いけどな」
テーブルに頬杖ついたマスターが言う。
「…むう。ひどい言い草だなあ。…だったら、めーちゃん、買えばよかったのに」
僕が頬を膨らませると、マスターは僕の鼻を摘んだ。
「お前の声が好きだから、お前でいいんだよ」
「ふがっ」
「…こたつにはやっぱ、蜜柑だよな。動けるうちに買いにいくか。お前も来るか?」
「はい。マスター、」
「何だ?」
「アイス、買ってください」
「…自分の小遣いで買え」
「…けち」
「…ケチと言うのはこの口か!」
不意に伸びてきたマスターの指が僕の口の端っこを摘んで、引っ張る。
「ふにゃっっ、いふぁいいふぁい!!」
「おー、よく伸びるな〜」
「まふにゃ、いひゃいいひゃい」
マスターの手首を掴んで離そうと試みるけれど、痛覚に力が入らない。
「どこまで伸びるんだろうな?」
楽しそうに笑うマスターが怖い。そして、痛い。
「ひひゃい、ごめにゃしゃい!!」
涙目でそう訴えるとマスターはやっと手を離してくれた。僕は慌てて自分の頬を抑えた。…伸びてたらどうしよう…。