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カイトとマスターの日常小話

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第二次チョコレート戦争







「…よし、出来た!文字もうまく書けたし…冷蔵庫で冷やしとこう」

ふうと一息吐いて、何気に視線を壁の時計へと向けると、6時を過ぎてる…。
「わー、急いでご飯作らなくちゃ!!」
洗濯物も取り込んでないし、お風呂も洗わなくちゃ…。取り敢えず、ここにあるものを片付けないと!…慌しく洗い物をしていると、リビングのドアが開いた。
「カイト、洗濯物、取り込んだぞ。…何か他にやることあるか?」
「お、お風呂、お願いします!」
「了解。…ってか、お前、今まで何やってたんだ?」
いつもなら洗濯物も畳み終え、お風呂も沸いている状態で夕飯の支度をしているはずな僕が何も出来ていないことを不審に思ったのかマスターが訊いてくる。…どうやって誤魔化そう…。
「えーっと、秘密です。マスター、お風呂お願いしますね」
にっこり。笑って誤魔化す。マスターはちょっと目を半眼にして僕をじーっと見つめた。
「…ま、いっか」
マスターはそう言うと踵を返してリビングを出て行く。…ほっとした。僕は急いで、夕飯の支度に取り掛かる。今日の夕飯のメニューは雑穀入りごはんに里芋と菜っ葉のお味噌汁、ほうれん草の豆腐和え、おかずはネギの豚バラ巻きです。では、てきぱきと作りますよ。



 長ネギをいそいそと巻いていると、お風呂場からマスターが戻ってきた。
「手伝うか?」
「…だい…えーっと、お願いします」
大丈夫って言おうとして思いとどまる。マスターと何かをするのは楽しいから。
「何する?」
「里芋、剥いてください」
「おう。何、煮っ転がし?」
「いいえ。味噌汁の具です」
「味噌汁か。とろみがあって美味いよな。…でも、次は煮っ転がしな。茹でたのを酢味噌で和えても美味いよなぁ」
マスターはそう言いながら、里芋の皮を剥き終え、5ミリ幅に切ると、菜っ葉も刻んで、味噌汁を作る支度を始めた。何も言わずとももう、以心伝心だ。
「味噌汁出来たな。次は何、ほうれん草茹でるか?」
「はい」
「胡麻和え?」
「お豆腐がもう直ぐ賞味期限だから、豆腐和えです」
「了解」
出していたほうれん草を洗って、先に火にかけて置いた大き目の鍋に塩をひとつまみ。マスターは鍋にほうれん草を入れると冷蔵庫から豆腐を取り出した。…本当によく気がつくっていうか、…あ、マスター、今、冷蔵庫、開けた…うわー、見られた?!
「カイト、」
「は、はいっ」
振り返ったマスターにドキッとして、声が上擦る。
「白胡麻のパック、どこだっけ?」
「…た、棚の中です」
よ、良かった…見られなかったんだ…。
「おー、あったあった」
パックをひとつ、引っ張りだして、マスターは鍋を覗く。
「茹で上がったな」
鍋のお湯をこぼして、ほうれん草をざるへと上げた。
「カイト、」
「はい、何ですか?」
「冷蔵庫のプリン、後で食っていい?」
プリンは見られてたのか…まあ、最後に作ったのは万が一に備えてアルミホイルを被せたから、見られなかったみたい。…良かった。
「いいですよ。デザートに出しますね」
「おう」
…ってゆーか、プリンがそんなに嬉しいんですか、マスター。子どもみたいに嬉しそうにしてるマスターに僕の心も和んだ。






「「いただきます」」

 七時過ぎ、漸く、おかずも完成して、夕食になった。そして、並べた皿が片付いて、僕は片付けに席を立つ。マスターは今はお風呂だ。急いで、お皿を洗って、冷蔵庫から最後に作ったものを取り出した。

「…よし!」

お皿の上、ハート型のチョコレート。意を決して、慎重に型を抜く。
「…あ、」

ああああっ!!

ぱきっと儚い音を立てて、それは真ん中から割れてしまった。
「…あぅ〜っ」
…せ、切なすぎる。割れちゃうなんて。しかも、真ん中から…。折角、マスターの為に作ったのに、これじゃ、あげられないよ…。頑張ったのにな…。

「カイト〜、風呂」

マスターの声がリビングに響く。…か、隠さなきゃ!後ろ手に隠して、はーいと返事を返す。
「温かいうちに入れよ…って、お前、どうしたんだ?」
キッチンに入ってきたマスターに驚いて肩が震える。どうしよう!隠せないよ!!
「な、何が、ですか?」
冷蔵庫のドアに伸ばした指先が向きを変えて、僕の目元を拭う。それに、ぽろりと涙が落ちる。それにマスターがぎょっとしたように狼狽えた。その狼狽を瞬時に引っ込めて、マスターは窺うように僕の頭を撫でた。
「どうした?」
「…うぇ」
それに涙腺が崩壊してしまった。
「よしよし。どうした?」
「…ま、ますたのチョコ…っ」
「チョコ?」
「バレン…タインの」
「ああ、今日はバレンタインでもあったな。…で、バレンタインのチョコが何だ?」
「…あ、あげようと…思って」
「俺に?」
こくりと頷く。マスターを上目遣いに見やると、マスターは首を傾けた。
「…それで、チョコプリンなのか。…プリン、失敗してる風には見えなかったぞ?」
「…違います…プリンじゃなくて…」
後ろ手に隠したそれを差し出す。
「チョコレート?」
「…はい」
マスターはチョコを見やり、俺を見やった。
「型抜きしたら、折れちゃって…」
「テンパリンクが上手くいかなかったんだろ」
「…テンパ?」
「チョコの温度管理のことだ」
「温度管理…」
「それとチョコレートは固まると縮む性質があるから、チョコレートと型の間に隙間が出来たら、完全に固まった合図になる。まだ、完全には固まってない状態で取り出そうとしたから割れたんだろうな」
「…マスター、詳しい…」
「妹のを散々、手伝わされたからな。…で、もらっていいんだよな?」
「…でも、割れてるし…おいしくないかも…」
急に恥ずかしくなって隠そうとすると奪われてしまった。
「出来はどうであれ、お前が俺に何かしてくれるのが嬉しいんだから。ありがとな」
頭を撫でられ、鼻を啜る。首にかけていたタオルで鼻水と涙を拭われた。
「…で、これ、何て書いてあるんだ?」
皿の上、割れたチョコを繋げたマスターが首を傾ける。
「え?」
チョコレートの上の文字は溶けてぐしゃぐしゃになったいた。
「…えーと…」
いつも自分がよく口にする言葉のだが、ここで自分の口から言うのはとても恥ずかしい。
「…な、内緒です!お風呂、入ってきます!!」
僕は逃げた。




「あ、カイトっ!!」

顔真っ赤にして逃げやがった。一体、何て書いたんだ?…ま、想像はつくけどな。
「…ったく。今年は誰からももらわないと思ってたんだがな」
去年は会社勤めだったから、義理チョコを袋二つ分はもらったが。今年はこれひとつで十分だ。…プリンもあるしな。
「…ホワイトデーのお返しをカイトにしないと、だな」
いや、その前に誕生日だな。…ケーキも作るか…。チョコレートを齧り、そんなことを俺は思った。






Happy Valentine!